夫婦のしきたり


 結婚式はどこで挙げましょう? なんて、まさかこんな異世界で一回り以上も年上のおっさんと話し合うことになるなんて、想像もしてなかったよね。
 正直こういう話はお互いさっぱりで、頼れるひとも身近にいないんだけど。セシルやローザに聞くと大事にされそうだし、セオドアやカインやパロムポロム、リディア辺りに相談しても結果は同じだと思うし。
 それで結局、ゴルベーザと二人であーでもないこーでもない。
「やっぱミシディアでいいんじゃない?」
 ここに住んでるわけだし、わたしはいわゆるジミ婚でいいやと思ってる。とりあえず引っ越す予定もないんだから、近場で済ませるのが一番かなって。
「ああ……バロンはさすがに憚られるからな」
 ミシディア風の結婚式ってどんなだろう? セシル達のときのことを聞くとわたしのいた世界とあんまり変わらないから、大きい国では似たような風習になってるのかな。
 だけどこういう保守的で閉鎖的な町なら昔ながらの儀式が残されてそうでなんか楽しみ。

 がらにもなく胸躍らせるわたしをよそに、ゴルベーザはなぜだか深刻な顔をしてた。
「ユカリ、言っておかねばならぬことがある」
 おおっ、ここへきて関白宣言なの!? ってちょっとドキドキしたけど聞いてみるとあっけにとられた。というか、べつの意味で身構えさせられた。
「ミシディアには初夜のルールがあってな」
 しょしょしょ、しょやっていうとやっぱりあれだよね。うん。当然分かってはいたけど。ううん、事前に話し合うのは恥ずかしすぎる!
「婚姻の際に鎖で繋がれる。末長く、暗き夜も夫妻がともにあるようにとそれは夜明けまで外してはならぬのだ」
「うわぁ、うそだー」
 一番最初から手錠プレイなんてどうかしてるよ。やっぱりミシディアって変……でもなんだっけ? 初夜権とか? あっちでおぼろげに得た知識にはもっとひどい風習があった気がする。だからまあ、手錠くらいはいいけどね。相手はゴルベーザなんだし。
「それで式だけど……って、なにどうしたの」
 真面目な顔して。わたし変なこと言ったかな、変なのはわたしじゃなくてこの町だよね。
「……なぜ嘘だと分かったんだ?」
「へっ」
 うそだったのかー! 普通に騙されちゃったじゃん。でもややこしいから信じてたってのは黙っとこう。
「ユカリは、やはり読心術を会得しているのではないか」
「ちょっと黙ろうか」
 手錠に未練たらたらみたいなゴルベーザは放っといて、結婚式は、ここで普通に、普通の式をあげよう。そうしよう。参列者は変人、新郎は変態。なにもかもヘンでなくてもいいんだよ……。




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