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誓い

 人間とは弱いものだな。だが、そこからどれほどの強さを得て這い上がるのか。楽しみでならない。未来があることの喜びを、このところ実感している。
 エブラーナの民が力を振り絞り立ち上がろうともがいている。一時苦痛を忘れてでも前に進もうとするその姿が誰かと重なった。傷つきながらも心の底に流れる意志だけは消えない。崩れ落ちてなおいつかは立ち上がる。
 まだ挑むか。ならば私も、全力で応えよう……。

「だるまさんがころんだあああああああああああああっ!!」
 不意に間の抜けた叫びが響いて青年の動きが止まる。対峙し、困惑している私達の間にサヤが割って入ってきた。両手を広げ庇うように私の前に立つ。その小さな体で遮れるものなど何もないだろう。君にはただ傷つくことのない場所ですべてを見届けてほしい。
「サヤ。……おかえりというべきかな?」
「言うだけ言ってみるけどわたしと一緒に今すぐ逃げるのはだめ?」
「そんなことができると思うか」
 だよね、と顔だけをこちらに向ける。本当はもう予感しているのだろう? その手から零れ落ちるものがあると気づいた時、訪れる未来……今この瞬間をも、理解していたんだろう。もしかしたら出会った時から決まっていたのかもしれないな。だから、触れるほど近くにいたのに同じ時を過ごせなかった。

 闇と光が相反するものなら、私と彼らが敵対することが決まっていたのなら、サヤは間に立っているべきではない。かといって易々と彼らに渡してやる気はないが。それでは申し訳が立たないから、な。
 別離は苦いだけのものだろうか。私はそうは思わない。だが――
「てめえ、そいつの仲間か!?」
「そうだよ!」
「サヤ! まって!」
 激昂した青年が火を放つ。微動だにしないサヤ。少女が悲痛な声で制止する。それぞれの在り方が交錯した一瞬、サヤの目前で殺意の炎は遮られた。

「……いつまでも守ってやれるわけではないんだぞ」
「そんなこと分かってるよ……。でもわたしが間にいたら、ルビカンテは戦えないでしょ?」
 どうやら見透かされているようだ。マントの中で悪びれず私を見上げるサヤに苦笑する。
 この腕の中にサヤがいる。どこかへ去ろうという意志もなく、死を望んでいるわけでもなく、ただここにいる。目が眩むような幸福感。戦うことだけを考えていれば、喪失感に煩わされることもないだろうに。
 このままずっと抱きしめているわけには、いかないんだ、サヤ。

「今は去ろう。最後にサヤに会わせねばならない方がいるのでな」
「なんだと!」
「最後って言わないで!」
 光を纏った戦士たちがサヤを見つめている。傷が癒えたのは彼らのおかげなのだろう。サヤ……君は境などないかのように容易く踏み込んでくるが、やはり人は人と共にあるべきではないかと私は思うよ。
 ……それでもそばにいたいと言ってくれるなら、私も願おう。この別れが一時のものであるように。いつか再び、会えることを。

 そして君の目の前で死ぬことだけは避けると約束しよう。それがどれほどの喜びをもたらすとしても、せめて自身の喜びよりも君の願いのために。

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