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好き?
バブイルの塔へ向かう洞窟。まっすぐ淀みない足どりのセシル。頼れる後ろ姿はリーダー! って感じだ。そんな責任感は重くないのかなって思うんだけど。
わたしはセシルみたいになれない。甘やかされて守られて、なのにまだこんなに重苦しいんだ。次はルビカンテ……変えられないのは誰のせいなんだろう。考えなくても本当は分かってるから、苛立ちがおさまらない。
傍らをカインが歩いてる。わたしと一緒に最後尾を無言でのたのた。似てるような立場が、どっかで決定的に違う。わたしもカインもあの場所に戻るのに、カインはわたしと同じものを見てるわけじゃない。
どういう気持ちでここにいるんだろう。セシルやローザを見て何を想うんだろう。どうしてゴルベーザのところに戻るんだろう。……あとで待ってるのは後悔だけなの?
わたしは。わたし、ゴルベーザのとこに帰って……その後どうするの? 大切なものが増えすぎた。節操なしの報いだ。選ぶべき未来がぐるぐる円を描いて、どこを向けばいいのかわからなくなる。
あっちでカインと会ったら微妙に気まずいなぁ、なんて。
「……ごめんね、仲間になれなくて」
「なっても無意味だろ」
……たまにホントに悪気がないのか疑いたくなるんだよね、カインって。無意味って。無意味って。そりゃわたし役に立ってないけど。無意味って……。
「いやその……お前はゴルベーザが好きなんだろ。ならお前なりに守ってやればいい。俺達のことは気にするな」
わたしなりに、ねぇ。支えるとか手助けとかじゃなく、守る? おこがましいって思っちゃう。それこそ求められてないんじゃないの。っていうか、聞き捨てならない言葉があったよ今。
「好きとか言われるとなんかさ……恥ずかしいっていうか、なんか違うっていうか」
「……自分で言っただろう」
「言わないよそんなこっ恥ずかしいこと」
相手によっては言ったけど、……でもほら、犬とか猫には「かわいいー」「好きー」「うちのこ世界一ィィ!」って気軽に言えるじゃん。べつにペット扱いしてたんじゃないけど、人間じゃないからこその気安さなら確かにあった。
でもルビカンテたちには面と向かって言いにくかったなぁ。人型だから、かな。言えーって迫られたら死にそうになりながら言ったけど、ホントに恥ずかしかった。
ゴルベーザなんてもう……、絶対言えないよ。家族にだって友達にだって言わないよ普通。あなたが好きだよとか、わたしあの子のこと大好きなんだーとか。
言えばよかった。言っておけばよかった。もっと、もっと、もっと……。いつかこうなることがわかってたから? だから踏み込めなかった? 現実を見たくなかったから?
好きになって、手を伸ばしたら、もう。
「……絶対言わないって」
「いや、言った。大好きと言いながら抱き着いてた」
「…………それはきっとカインの夢か妄想」
「あのな……、もしかして本当に覚えてないのか?」
ねえ待って、それ本当なの、本当に起きた出来事なの、現実なの? だとしたらそれわたしじゃないよドッペルゲンガーさんだよ。
抱き着いて大好き? ありえない! そんな直球ストレートが許されるのは小学生までだよ!
「……酔ってたから本音が出たんだな」
「よっ……わたしお酒飲んだの?」
「というか飲まされたと言うべきだが」
違う衝撃がきて足が止まった。カインも釣られて立ち止まる。お酒ですと? ……こっちの成人っていくつなんだろ。いやそんなこと関係ない、わたしは違う世界の人間なんだから。
「……お酒飲んで酔っぱらって大好きって抱き着いた?」
「他にもいろいろあるがな」
他にも!? いろいろ!! うわあ、もう、うわあ。あらゆる意味でもうダメだ。わたし成人してもお酒飲まない。もう自分が信じられない。
お酒飲んで酔っぱらって大好きって抱き着いたんだって。アッハッハ。ゴルベーザのとこに帰るの、やめて逃げようかな……。
「べつに構わんだろ、それぐらい。……何がそんなに恥ずかしいんだ」
くそう。言ってやりたい。じゃあそういうあなたは一度でもセシルやローザに大好きと伝えたことがおありなのですかと言ってやりたい。でもダメだあ! こんな恥ずかしい思いした後で他人の傷はえぐれない!
「……言ってない」
「いや、だから」
「言ってない。好きじゃない。違うよそれは」
「傍にいたいって言っただろ」
だからって、違うんだよ。好きだなんて。ゴルベーザが好きだなんて。セシルたちよりも大切だなんて。……ダメなんだよ、例え心の中で受け入れてても、自覚しちゃいけないんだ。
なんで?(現実になっちゃうから)
「好きじゃない」
「……サヤ、お前」
「言わないで。気づかないで」
ホントは受け入れてなんかいないんだって。わたしを呼んだのはゴルベーザじゃないんだよ。いくら探したって何もするべきことなんかないんだよ、わたし。この世界に何の因果も宿命もない。何もなくて、空っぽの、殻を埋めたくて、
……だけどずっと一緒にいたのに。何かは埋まったはずなのに。始まりは偽物だったとしても今わたしの手の中には、何かが……。
「……何もない……」
「……まだ残ってる、だろ」
どうすりゃいいのかな。ルビカンテに会って、ゴルベーザのところに……その後。もう何も戻らない。ぜんぶ嘘だったって思いたくないけど、自覚したくない何かが叫んでる。
会いたくない。会いたくない。会いたくない。
選べないよ。セシルたちよりも大切だなんて。世界より好きだなんて。だってわたし、帰っちゃうのに……。わたしなりに守る? 何を守ればいいんだろう。
節操なしの報い、誰が大切だったのか、見えなくなった。未来のこと考えると、身動きできなくなるんだよ……。
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