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三人

 どうしよう。沈黙がつらい。ローザを見つけたけどセシルと話し込んでて連れて来られなかった。……だけで会話が終わっちゃった。戻ってきたらサヤはいないし、なのにカインはねこみみ帽子かぶったままだし。まさか気に入ったのかな。びっくりするほど似合ってないんだけど、正直に言った方がいいのかな。……兜は脱がないんだ。帽子ピチピチになってて破れそう。
「……サヤ、どこ行ったの?」
「……リディアには言うなと念を押されたんで言えない」
「えっ」
 それってどこだろう。そういえばサヤは何度かここに遊びに来たことがあるんだって言ってた。大事な場所や秘密の部屋があってもおかしくない。でも、あたしには言えないって? ……なんとなく寂しいな。
「……帽子、とらないの?」
「取ったら恐ろしい事が起きる……」
「えっ」
 口数が少なすぎて全然分からないよ。サヤが何か言ったのかな。三人いたらまともに話せるんだけどな。あたしとカインとサヤ、よく知らない者同士、深く考えずに軽い話ができる。二人でいると気まずい。カインのことがまだ少し怖くて、向こうもそんな気持ちを悟ってるのが、居心地悪い。

「……異世界から来たって、聞いたけど」
「そうらしいな」
 らしいな、ってカインもよく知らないのかな。言い切られると会話にならないよ。二人はゴルベーザのところで一緒だったんだっけ。でもサヤはカインと違って操られてたんじゃない。ゴルベーザに呼び出されたってこと? じゃあどうして……。
「どうやってここに留まってるんだろう」
「……留まる?」
「幻獣は、長くこっちにいてくれないの」
 異界から呼び出された存在なら、用が済めば還っちゃうはずなのに。まだ用が済んでないとしたら何を目的にしてるんだろう。ゴルベーザの仲間だっていう言葉が、出会ってから少しずつ弱々しくなってきてる。聞きたいけど、聞けない。まだそこまで踏み込めない。
「あれは幻獣なのか?」
「そういうわけじゃないと思うけど、似たようなものかなって」
「……使役されている風ではなかったな」
 じゃあ友達なのかもしれない。だったらゴルベーザと敵対するのはつらいよね。見てる方にとっても。セシルが置いていきたがるのも分かる気がする。……だけど友達で今は敵同士なら、尚更もう一度会わなきゃ。

「あ……、」
「ただいまー、っとリディアおかえり!」
「長かったな。体調でも悪いのか?」
「今どうしてローザがセシルを選んだのかなんとなくわかったよ」
「な、なんだそれ……どういう事だ」
 ……その言葉であたしもサヤがどこに行ってたのかなんとなく分かった。でもそれって普通、あたしよりカインに隠すべきことだと思うけど。
「ちょうどサヤの話してたんだよ」
「ええっ、カインの猫ばか!」
「俺は言っとらん! 猫馬鹿って意味が変わるだろうが!」
 じゃあただのバカって言われた方がいいの? ……一気に雰囲気が戻っちゃった。三人で釣り合いがとれるなら、しばらく一緒にいたいなぁ、打ち解けられるまで。だけどきっと無理なんだ。サヤの居場所はここじゃないから……。
「えっとね、トイレの話じゃなくて」
「カインのばかああああ! ローザに言いつけてやる!」
「俺は言ってない!!」
 あ、やっぱり何か脅してたんだね。二人とも仲良しなのか何なのかよく分かんないね。ゴルベーザのとこにいる時も、ずっとこんな調子だったのかな。

「次はゴルベーザのところに帰るの?」
 けっこう頑張って吐き出した言葉に、じゃれあってた二人が固まった。カインは分からないけど、サヤの表情がつらそうじゃないのに救われる。だけど同時に悲しい。やっぱりこの人は仲間じゃないんだ。今は一緒に笑ってるけど、同じ悲しみは抱けないんだ。サヤの幸せも不幸も、あたし達とは違う場所にある。
「そうだね。次……次? ああ……うん、次は、帰ると思う」
「……何のために。ゴルベーザはお前を必要としてるのか? お前の親しかった者達も、もういないだろ」
「カイン」
 それはダメだよ。どうして、なんて関係ない。それを選ぶっていうなら仕方ない。サヤにとってはあたし達が奪う側なんだ。
 炎に焼かれて消えたゴルベーザへ向けた、あの瞳が忘れられない。崩れ落ちるルゲイエを前に立ち尽くしてた。閉ざされた扉を冷たく見つめてた。あたし達は仲間じゃないんだ。彼女の守るべきものは、ここにはないんだよ。ここにいたらサヤは還れない。
「……すまん。だが事実だろう。現に奴はお前や四天王がいなくても目的を遂行してる」
「だけど、まだ……残ってるよ……」
「ルビカンテか? あいつが阻むなら俺達は戦うぞ。後に悔やむとしても、その時は迷いなく奴を殺す。……お前はそこに立ちはだかるのか?」
 ……もしかして気遣かってるのかな? いるべき場所を教えようとしてるのかも。だけど、そうだとしても分かりにくいし、はっきり言わせるのは残酷だよ……。
「わたしは……だって……ゴルベーザの配下だから……、何もできなくても、傍に、」
「いなければならないと思ってるならやめておけ」
「違う! いなきゃいけないんじゃない、わたしが傍にいたいんだよ!」
「……そうか。ならいいんだ」

 あっちを選んでいいのに。傷つかなくていいのに。裏切りなんかじゃないよ。だって仲間なんでしょ。友達で、大切なんでしょ。
 彼らが生き残るならそれは、あたし達が死ぬってこと。傷つかずには選べないか……だったら最初から覚悟をしておいた方がいいのかもね。
 ……気遣かってはいるんだろうけど、カインって、ものすごく損なタイプの人みたい。
「……ルビカンテに会ったら、連れて逃げられたらいいのにね」
「そ、だね……」
 だけどそんなこと起こらない。サヤはゴルベーザのもとに帰って、あたし達はルビカンテと戦う。ゴルベーザはサヤを逃がしてくれるかな。あの時サヤの存在が無視されたように、今度はあたし達が見えないふりをするのかな。
 どっちにしろ傷つく。もうとっくに分かってて、それでも選ばなきゃならない。いつかサヤが還るときには、穏やかな気持ちで……また呼び出されたいって思えたらいいな。

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