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ねこみみ

 サヤに話したい、というか……聞きたいことがあったのに。その肩の向こうに見えた緑が、考えていたことを吹き飛ばしてしまった。思わず足を止めた俺をリディアの視線がとらえた。奇妙に歪んだ表情を訝しみ、サヤが振り返る。
「カイン、ちょっと来て」
 ひらひらとサヤの手が招く。リディアの複雑な顔が気になって仕方ない。まだ打ち解けたわけじゃない。……あまり近付きたくないだろうに。それでも、サヤを挟めば何かが緩和されるだろうか。
「さてここに、ねこみみフードがあります。さあ、カイン!」
 横に座り込んだ瞬間、すっと懐から取り出したものを、受け取れとばかりに俺に突き付けてくる。思わず立ち上がろうとした俺をサヤの手が引きずり込んだ。

「リディア、鞭で麻痺らせて」
「えっ、それはいくらなんでも」
「待て……なぜ俺なんだ!?」
「カインはそんな感じなキャラだから!」
 俺を何だと思っているんだ、こいつは。サヤは俺の頭を抱え込んで離さない。無理に引きはがせばいいものを、どうも力が入らない。傷つけてはならないという意識が染みついているのか?
「それ帽子でしょ? カイン、装備できないんじゃないかな」
「効果を引き出せなくても、無理矢理かぶればいいと思うんだ」
 効果も出ないのに何の意味があるんだ! その飾りも何の意味があるんだ。そんなふざけた装備、俺は絶対につけないからな。
「どんな効果なの? それ、見たことないけど」
「全属性を半減して素早さと魔力が上がったうえに回避まで上がってさらに取得ギルが2倍になります」
「ええっ!? 思ってたよりすごいね!」
 なんでそんなものをサヤが持ってるんだ……いやむしろ、なぜそんな高性能な帽子がこんな戯けた見た目なんだ! もったいないというか、作ったやつは馬鹿だろう!?
「そしてなんと、これを装備して戦闘すると、」
「ま、まだあるのか?」
「心が和む!」
 得意げに言うことか。分からなくはないが装備するのが俺では誰も和まないだろう。というか俺がまず和まない。荒む。すごく荒む。

「…………でも、すごい性能だよね」
「リディア……なんかリアクションしてよぉ」
「俺が装備しても無意味になるだろう。まさにローザが装備すべきものじゃないか」
「このど変態が」
「なっ……ぐ、く、首を絞めるな……っ」
「カインって、そういう趣味があるんだね」
 リディアの冷たい視線が突き刺さった。何なんだその変態を見るような目は。俺は別に、何も、見たいわけじゃないぞ!
「お、俺は性能の話を……魔力と素早さが上がるなら、白魔道士が……ダメージを軽減するためにも……」
「ねえサヤ、どう? なんか嘘くさいよね」
「絶対ねこみみローザが見たいだけだよね。わたしも見たいけど」
 こいつまさか本当にローザを狙ってないだろうな。セシルの予感が当たったのか? というか見たいならいいじゃないか。俺は見たいわけではないが!
「俺はただ純粋に、パーティのことを考えてだな……戦闘の効率化をはかるために……」
「……魔物の命を奪うのに、効率のこと考えるなんて、ひどいよカイン」
「そーだそーだ。性能効率ってこだわるヤツが竜騎士になるなー!」
 な……なんで俺が責められてるんだ……? 竜騎士云々は関係ないだろう!

「というわけでカインが装備すればいいと思う」
「うん、いいんじゃないかな」
「何一つ良くない!!」
「わたしは無理矢理かぶせとくから、ローザ呼んできてね」
「あ、待ってサヤ。離してあげて」
 救世主はここにいた、わけではなかった。サヤの腕から解放された俺を激しい竜巻が襲う。悲鳴をあげる間もなく厚い風の壁に巻き取られ、切り裂かれる。リディアは掲げたロッドを降ろすと、身も心もボロボロになって床に放り出された俺を見もせず、サヤに手をふりながら駆けて行った。
「行ってくるね!」
「ありがと〜、作業が楽になるよ」
 女なんか……嫌いだ……!!

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