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空元気

 子供ってのはとても無邪気です。だからこそ残酷です。言ってはいけないことをサクッと言えてしまう、そしてそれが許されるのが子供の特権。
「またクリスタル取られちゃったの?」
 あまりにも直球、尚且つ正しすぎるルカのツッコミにヤンがお茶を噴いた。「わ、我々が不甲斐ないばかりにとんだ失態を……」とかしどろもどろになって。いや、誰にでも丁重な態度ですごいと思うよ。
「でもー、一番守らなきゃいけない場所に忍び込まれてるこの城の警備もゆるゆるだよねールカさん?」
「えー、あたし子供だから、わかんない!」
「くそう、免罪符を使いおって!」
「お二人は会ったばかりというのに仲がよろしいな……」
 それは精神的に同レベルって言いたいんですか? なんて聞くとまた焦らせちゃうから黙っとこう。

「少しは気力も戻られましたかな?」
「どうですかねー」
 装備を調えてセシル達が戻って来たら、即出発。バブイルの塔に行って、クリスタルを取り戻せずに引き下がって、えーっと……ヤンとシドが離脱して、どうするんだっけ。ああ、もう地底には戻らなかったかもしれない。
「考えたくない。なんにも考えたくなーい」
「サヤ……、元気ないの?」
 心配そうに覗き込む幼女がとても可愛かったから、つい。
「ルカの頬っぺた……ぷにぷに……ぷにぷに……」
「ひゃめれよー!」
「サヤ殿……嫌がっているようだが」
 うん、そうだね。ちょっと逃避したくてさ。考えれば考えるほど泥沼に嵌まって抜け出せない。嫌なことばっかりだ。いっそのこと、ここでシドが戻るのを待ってようか。それとも全部終わるまで引きこもってようか。そしたら少しは楽かな? ……でも行かなきゃいけない気がするんだ。ここで逃げ出したらまた、知らない間に失うだけ。
 楽しくない。全然楽しくない。こんなに先のことばっか考えて、気が重くて。つらいことなんか無ければいいのに。クリスタルなんて叩き割ってやればよかった。あんなもの、無くてもいいじゃない。偶像が力を持ってるから面倒が起きるんだ。……クリスタルなんかなければよかったのに。

「……ヤンは、わたしがついて行くの、どう思ってるんですか?」
「どうとは……」
「邪魔だとか信用できないとか、置いて行きたいとか、言わないから」
 きっと何考えてるのかわからないのがほとんどで、その中の半分くらいは「ゴルベーザに操られてるかも」って思ってる。
 信用されたいとも思わないんだけどね。わたしは多分、セシルの仲間になるべきで、それができないなら一緒にいるべきじゃなくて、なのにいつまでも……どっちにもなりきれなくて辛いだけ。
「……幼子とて自らの道を選ぶ権利はあろう」
「わたし、選んでついて来てるわけじゃないんですよ」
「選ぶために、ここにおられるのでしょう」
 そうかな。そうだったかな。……ただ逃げてるだけだよ。買い被らないで。わたしは勇者にはなれないし、なりたくない。嫌なものは見たくないよ。怖ければ逃げたいんだ。
「……っていうか、幼子って。わたしは一体いくつに見られてるのでしょうか」
「あたしとおんなじくらいだよね?」
「うむ。私もそのようなものだと……な、何故泣かれる!?」
 それはないでしょ……いくら何でも……。童顔に見えるとしてもさ。うーっ、皆そんな風に思ってたのか!?

「どっちかっていうとローザと同じくらいなんですけどぉ……」
「ええっ!」
「なんと……!」
 こらそこのオッサンと幼女。……絶句して目を合わせないで。なんか悲しいよ。自分の頼りなさをまざまざと見せつけられた。やっぱりついて行かなきゃダメだ。例え流されるだけだとしても、きちんと見つめてなきゃ。
「そこまで子供じゃないんで……あんまり甘やかさないで……」
「そ、それは失礼した。これからは女性として扱いましょう」
 今までルカと同レベルだったんだ。道理で甘っちょろいはずだよ、もう!
「ルカもわたしのことは『お姉ちゃん』って呼んでいいからねー」
「ねえ、サヤも白魔法使えるの?」
「無視ですか。……どうせ使えないよ。白魔法も黒魔法も剣も槍も爪も弓も使えませんよ!」
「ルカ殿、踏んではならぬ部分を踏んだようだ、謝られた方が……」
「よわっちいのね、サヤ」
「うがああああ! 何を言っても許されると思うなよー!」
「サヤ殿、落ち着かれよ! 相手は子供ですぞ!」
 子供の特権はね。同じ子供には、通用しないんだよ。今の内にぽっきり折れといた方がいいんだよルカは。なにもかもうまくはいかないんだってことを、思い知るべきなんだ。これはれっきとした教育的指導であって、八つ当たりじゃ、ないんだから!
「ルカの頬っぺた……ぷにぷに……フフフ……ぷにぷにぃぃぃ!」
「にょばしひゅぎ……いひゃいよ! やめれよー!」
「わ、私はどうすれば……セシル殿、セシル殿はまだか!」
 子供扱いするんなら、大人になんかなってやらないんだから!

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