─back to menu─


空へ

 世界一周なんてあっという間、ってシドの言葉はあながち嘘でもなくて、2日や3日でホントに世界の主要国家をまわりきってしまった。
 揺れるのかな、酔うかなって心配だったけどそこはさすがのシド。初飛空艇のわたしでも全然問題なかったよ。……陸に降りた瞬間眩暈がしたけどね。
「むう……カインの奴は操られとる間も下っ端じゃったのか?」
「へっ?」
 キョロキョロ辺りを見回したけど、いま甲板にいるのは二人だけ。わ、わたしに聞いてるんだよね。操られてる間も、って何だ。も、って。
「そんなことも無い……と思う、けど」
 あれっ、断言できない。下っ端じゃないと思うけど……けど……うん。
「あんな石っころ一つ渡されて、肝心の場所を知らされておらんとはのう」
「あー……」
 まあ、他の皆は魔法で直接地底に飛べちゃったからなぁ。カインが鍵をもらったのは多分、もう邪魔だったから。……いやでもそれって信用されてるってことだし、だけどシドにそれを伝えたって嬉しくないだろうし。
 いいや、カインは操られてただけの下っ端だったって方が、誰にとってもありがたいかもね。

「みんな、わたしには聞かないんですね」
「なんじゃお前さん、知っとるのか!?」
 声でっかいよオッサン! 隣にいるんだから聞こえるってば。
「……なんで聞かないのかなって不思議だっただけです」
「聞かれたくないじゃろうと思っとったが」
 即答されて呆気にとられた。うぅ……そういう気遣いされると落ち込む。べつに展開を阻止したいわけじゃないのに。前に進まなきゃいけないのはわたしだって同じなんだ。ただ、どうせなら最後まで見えないふりさせてほしかったなって、……考えちゃっただけで。
 攻略本があるわけでもなし、このままじゃどんどん時間だけが過ぎてくのかな。こういうのはほら、他にイベントも重要施設もない場所があやしいんだよって。現実にお約束なんてないけど。いつになったら見つけてくれるのかな。
 隠してるんじゃない。単に場所がわかんないんですごめんなさい! ワープばっかり使ってるとさ〜、道覚えられないよね〜。
 アガルトだよ、なんて言って通じるのかな? イベントがないってことは誰も行ったことがないんじゃあ……。

「えーっと……、なんかこう、北に大きい山があって、街中に深い井戸があるとこだったかな」
「そんな町はいっぱいあるわい」
「ですよね」
 だって特徴ないのが特徴な町なんだもん。あと何があったんだっけ。
「あっ、そうだ天文台がある町」
「天文台? ……昔立ち寄ったことがあるような……ぬう、思い出せん!」
 頭が痛い、記憶喪失じゃ? 歳だねえシド。でも用事もなく寄った町や村なんか、いちいち覚えてないか。わたしだって旅行先の市区町村なんて覚えてないし。
「それって、アガルトのことかい?」
 振り返るといつの間にか上がってきてたセシルがいた。さすが若者は物覚えがいい。よかった、セシルが知っててよかった。このまま詰んだらどうしようかと思った!
「そー、それそれ。あの町の井戸に石を掲げるんだ……よ」
 たぶん。よく覚えてないけど確かそうだったはず。
「そういえばドワーフの子孫だって人達がいたな」
「よく覚えとるのー、お前さん」
「サヤの言葉で思い出しただけだよ」
 すぐに方角を指示しちゃえる辺りが嘘っぽい。地図が頭に入ってるんだ。些細な情報まで頭の隅に留めてるの、記憶力がどうってよりちゃんと人の話の一つ一つを真面目に聞いてるんだろうね、セシルは。

 ……だからきっと、何気なく言ってしまったことも、ずっと覚えてて傷つくんだ。後悔したってやり直せないけど、どうしてセシルを憎んでいいかなんて言っちゃったんだろ。あの時は……ホントにそうしてもいいって、思ってたけど。
「サヤ、一つ聞きたいんじゃがな、お前さんはゴルベーザに操られてはおらんよな?」
「シド! そんなこと今更、」
「ワシゃ分からんまま黙って従えるほどお人よしでもないんでな」
 そりゃーそうだよね。むしろこれまで聞かなかったことがお人よしだって宣言してる気もするくらいだ。
「操られてないけどー、仮に操られてるとしたら、絶対それ言わないんじゃない?」
「……実は今、自分でそう思ったとこじゃ」
 会話に頭使わないタイプだねおじいちゃん……。だけど思考直結の言葉はこっちも安心する。
「逆にこういうことを敢えて言って油断させてるのかもしれない」
「確かにそれも有り得るな」
「操られてないはずだけど知らない内に操られてるかもしれないから信用しないでって言っといて実は操られているのかもしれない!」
「……だああっ! 混乱させんでくれ!!」
「シド、手を離してる! 手!」
「おおっ、すまんすまん」
 実際問題、操られてるわけないんだよ。だってゴルベーザはわたしを洗脳する必要なんかないんだもん。ゴルベーザ自身がどう思ってるかは、ともかく。

「もうええわい、ごちゃごちゃ考えんでお前さんを信じる!」
「わたしが裏切ったら?」
「そりゃ信じたワシが悪かったんじゃ」
「……そのあとまた戻ってきたら?」
「改心したなら歓迎するぞい」
「ええっ、また裏切るかもしれないのに!」
「そん時はそん時じゃ!」
 何も考えていない……!? 思わずセシルの顔を見た。肩を竦めて苦笑しつつ、なんか嬉しそうだ。
「シドはすごいね……わたしには見習えそうにないです」
「若いくせにまとまりすぎるとそこの堅物のようになっちまうぞ」
「放っといてくれ。先のことを考えずに生きるのはシドぐらいの歳になってからでいいよ」
 うわー、セシルが軽口叩いてる……。すごいな、いいな……。見習えそうにないけど見習いたい。肩の力抜いて寛がせてあげられるような、そんな存在……。

 ……ゴルベーザも操られてるんだよって、言っちゃえば、受け入れてもらえるのかな。
「どうしたんじゃサヤ、酔ったか?」
「うーん。……なんでもないです」
「町に降りたら少し休もうか」
「そうじゃな。はやりすぎて失敗するわけにもいかん」
 そんな無意味なこと、言えるわけない。全部吐き出しちゃえばセシルは戸惑って……戦えなくなるかもしれない。わたしを受け入れてくれるセシル達なら簡単に変えられるのに、一番触れたい人には届かない。
 自分の行動が自分の意識の下にないの、どんな気分なんだろうなぁ。それを知らずにわかり合えるのかな。本当の苦しみは想像もできない。
 知らずに過ごせたら。見ないふりできたら。後ろばっかり見てる。考えなしで突っ走る勢いか、他人のために生きる優しさ……それともいっそ自分の意思を捨てるほどの、他の意思を無視できるほどの弱さか強さ。荷が重くても何かを手に入れなきゃいけないってことか……。

|



dream coupling index


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -