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さよならの鐘

 そばにいなさいなんて命じるより、いっそ泣いて縋ってしまえばよかったのよ。サヤがあたしに甘いのはよく分かってる。あたしが本気で涙を流せば、どんな我が儘も聞いてくれたでしょう。
 彼女は知らないだろうけど、あたしはサヤより自分が大事なのよ。あなたが苦しむことよりも、自分が傷つく方が嫌。なのにどうして躊躇ってしまったのか、自分でもよく分からないけれど。
 風が吹くのに意味なんてないわ。あたし達はただそこに存在するだけ。いつか消えてしまうことさえ怖くなんかなかった。人間とは違う。死に恐れなんて抱いてはいなかったのに。
 目的や生き甲斐なら今だって持ってる、けど幸せなんて望んでなかった。あなたに会うまでは。
 出会わなければ知らずにすんだ。一度手に入れると、失うのはつらいのね。サヤが死を恐れていた理由、わかってしまった。
 目の前であたしが死ねばサヤの心を独占できるかしら。いっそあなたに殺してもらおうかしら。
 死んでいったやつらが憎らしくて羨ましくてたまらない。あれほどまでにサヤの心を奪っておきながら、もうそこに喜びを見出だすこともできないやつら。

 ……そうよ、ホントは自覚してる。サヤの泣き顔なんて見たくはないわ。結局あたしが傷付くことになるもの。でもあたしのために流す涙なら、それもいいって思うの。ごめんね。
 予感が消えなくて怖い。死ぬ気なんてないし、サヤに傷を付けさせる気もないわ。あたしたちの前に立つものなんて何もかも粉砕してやる。だけど駄目なのよ。不安が拭い去れない。きっとあたしはすぐにあなたを失ってしまう。
 ……永遠に。
 お願いサヤ、会いにきて。最後に一つだけ嘘をついてほしい。どこにも行かないで、ずっと一緒にいてくれるって。そして黙ってあたしの目の前から消えてほしい。
 あなたが泣くのは嫌なのよ。でも自分から離れることなんてもうできない。

***


 ゴルベーザ様に、どれだけの感謝を捧げても足りない。すべてを預けられる存在がいる、その素晴らしさ。使命を果たす喜び。移ろうだけのものだったあたしに命を与えてくれたのもあのお方。そして、サヤに出会わせてくれたのも……。
 朽ちていくこの体から赤い血なんか流れない。崩れ落ちて、あとには何も残らない。人間とは違うもの。でも、構わないでしょう?
 傷付いた体を癒しながらあたしを見据える人間ども。お前たちになんか、渡すものか。

 サヤがあたしを見ているわ。冷たく凍り付いた石の体に、目だけが輝いてまっすぐあたしに向かってくる。なんて心地いいんだろう。
 スカルミリョーネもカイナッツォも、馬鹿だわ。救いようのない愚か者よ。サヤの目の前で、あたしはこんなにも喜びに満たされているのに。あの視線の届かない場所で、一人尽きていくのはどんなにか無念だったでしょう。……少しぐらいは同情してやるわ。
 あたしの命も定めも、ゴルベーザ様のもの。だけどサヤ、心だけはあなたにあげる。それはサヤのために生まれたものだから。ただし……タダではダメよ。あなたの心も、あたしにくれなきゃ。
 そこでしっかりと見つめていてね。過去も未来も壊してあげる。思い出なんかに縋らせないわ。消え行くあたしにはこの一瞬が永遠になる。もう誰にも渡さない。
 最後までサヤが見届けてくれるなら、あたし、幸せだわ。本当よ。

 ……だけど。
 刹那でも永遠でもなく、同じ時間を一緒に過ごせたら……もっと幸せだったかもね。

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