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深く沈む
暗い湖の底から見上げるように、忌わしい光を見据える。水面に揺らいで向こう側がよく見えない。死への恐怖よりも、敗北への苦渋よりも……焦燥感ばかりが募る。
オレに確かな憎悪を向けながら、一点の曇りもない瞳。あの真っ直ぐな視線が焼きついて離れない。最後に張り巡らせた糸にもかからず、消えずに残った命の輝きを感じる。舌打ちをしようとして自分の体がすでに無いことを思い出した。
『じゃ、またくるね』
遠くで声が響く。伸ばす手が存在しない、もどかしさに苛々する。奴らはゴルベーザ様のもとに辿り着くだろうか。……辿り着くだろうな。突き動かす思いのままに、傷つくことも傷つけることも厭わず我武者羅に進めばいい。どうせすぐに尽きてなくなる。
『おう……またな』
またゴルベーザ様の手を煩わせることになるのか。ルビカンテやバルバリシアに、隠し通せるとは思えねえ。……どうだっていいか……別に傷ついたって死ぬわけじゃない。
奴らの手がサヤに届いても、いざとなりゃどっかに押し隠してしまえば、どうにか生きていくだろう。弱くても生への執着だけは強いやつだからな。
『またくるね』
潮騒のように音が寄せてくる。あまりにもあっさり追い返しすぎたかもしれない。今になって少し後悔している。別にあいつは、そんなこと気にしないだろうが。それよりも、もっと……。
『またな』
あー、くそ……うるせえな……。消えるならとっとと消えちまえばいいものを、何をぐずぐずしてんだ。見送ったばかりの真っ直ぐオレに向かってくる視線が、意識を過去に遡らせる。面影がいつの間にかすり替わっている。失ったのはオレじゃない。なのに何で焦りを感じるんだ?
漂って溶けていく意思の奥に、鈍い痛みが走った。もっと……相手してやりゃよかったかもな。別に焦ってもいなかったのに、目の前のことにばかり気をとられてた。どうせサヤは、放っといてもそこらにいるから、そうやって安心しすぎてたのか。
……今更、焦ったって仕方ないだろうが……。
『またね』
馬鹿が。『また、』は……もうないんだよ。
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