─back to menu─


距離

 今日もサヤはカインと共にローザの捕らえられた部屋にいる。このところずっと入り浸っているというのに、今日も。お願いだからこれ以上あたしを苛立たせないで。
 カイナッツォがバロンに留まって、あたしの取り分が増えると思ったのに。目新しい存在が嬉しいのか暇さえあればあの二人にばかり構っている。……気に入らない!
「苛立っているようだな」
「当たり前でしょう! 何なのよ、サヤのあの笑顔は。しまりのない……!」
 戸の隙間から見える、ローザと談笑する姿。そんなに楽しい話ならあたしとしなさいよ。この間なんてあろうことか「ローザ様って呼んでいい?」と言ったわ。信じられない。あたしとあの小娘ごときが同列扱いだっていうの? もちろん全力で阻止したけれど。
 何がおかしいのかルビカンテはギリギリと歯噛みするあたしに笑顔を絶やさない。何なのこの男。よく分からないけど欝陶しいわ。

「……あたしたちと過ごした時間の方がずっと長いわ。そうして少しずつ近づいてきたのに! ただ人間だというだけで、やつらは……」
「私は喜ばしいことだと思うがな」
 冷静に言ってのけたルビカンテを見上げれば、サヤを見つめる視線が遠い。
「よく分かったわ。つまりお前は本心ではサヤのことなどどうでもいいのね。……失望したわ!」
「そうではない」
 あたしとは正反対の落ち着いた口調。その余裕はどこからくるのよ。まるで自分だけがすべてを理解して受け入れているみたいに。
 本当に、腹の立つ男。これならいっそカイナッツォとでも一緒に不満をぶつけ合っていた方がマシだわ。
「過ごした時間の長短に関わらず人間であるというだけで、彼らは容易にサヤと近しくなれる。だが、サヤはまだここにいる」
「……何が言いたいの」
「いくら彼らと親しくなろうとも、サヤはここにいる。彼らではなく私達と共にあることを望んでいるのだと思ってもいいんじゃないか?」
 そんなに簡単に割り切れるものか。もしも今より距離が縮まったら、サヤはここを出て行ってしまうかもしれない。こんなにも容易に差が埋まる……時間なんて、距離の前では無力だわ。

「……風のバルバリシアをこうまで惚れさせるとは、サヤは恐ろしい娘だな」
「お前だって! もしもカインがサヤに惚れでもしたら、そんな余裕は吹き飛んでしまうわよ」
「それはないだろう。あの男は白魔道士に心を寄せているようだ」
 そんな安心は見当違いにも程がある。今は問題ではなくともこの先どうなるか分からないわ。カインが惚れるならまだいい。サヤの方が惹かれてしまったらどうしたらいいの!? さっさと始末することもできなくなる。
 くっ、想像したらまた腹が立ってきた。あたしにこんな思いをさせるなんて、サヤはひどいわ。……大体、いつまで話してるつもりなの。早く戻ってきなさいよ!
「……そんなに心配なら、サヤに頼めばいいだろう? 彼らよりも大切に思ってくれとお前が言えば喜ぶと思うぞ」
「下手に出るのは嫌」
 でも……サヤを奪われるぐらいなら、プライドなんて捨ててしまっても構わないかしら。口に出してもいないのにルビカンテは見透かしたように笑っている。気遣いなんて、苛立つだけよ。お前は未熟者だって言われているようなもの。
 ……もう、サヤの馬鹿! そんなにやつらがいいなら、しばらく相手してあげないわ!

|



dream coupling index


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -