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魔法

 改めて見てもやっぱり二足歩行のブタは気持ち悪い。ううん、二回目ともなると慣れるかなって思ったのに、余計にダメだった。
 せめていかにもなデフォルメされた、着ぐるみみたいな外見だったらよかったんだけどね。半端にリアルだからこそ細部の不自然さが目立って生理的嫌悪を催すCGみたいな……。なんかすっごいイヤだ。
 視線を逸らしてカエルを見る。こっちは平気。むしろイイ。両生類なんて元から作り物っぽい姿形だから、多少不自然な動きをされても気にならないのかもしれない。
「……何を一人でぶつぶつ言ってるんだ」
 用が済んだなら早く帰らせろって、16回くらい無視してたら言わなくなったスカルミリョーネが不機嫌そうに呟く。振り返ったついでにその姿を見つめながらしみじみ思った。モンスターなら平気、なんだよね。どんなに異常な形でも。
 こっちに来てから何度か「どうして怖がらないんだ」って、いろんな人に聞かれたなぁ。モンスターなんて仮想の中ではありふれてるし、わたしに殺意が向けられるわけでもなければ恐怖なんか感じない。だけどうまい説明が思いつかなくて、見慣れてるからーとか言ってみた。
 もしかしてあっちの世界も魔物が闊歩する似たような世界だって思われてるかもしれない。確かめようがないんだから別にいいけどね。

 イラついてるのが丸分かりなスカルミリョーネから、今度は自分の腕に視線を移す。鈍い銀色の腕輪が巻きついてる。複雑な模様が彫り込まれて、どういう仕組みかはわからないけど毒を防いでくれるらしい。
 めっちゃくちゃ安かったから不安だったけど、今こうやってスカルミリョーネの近くにいても平気なんだから、まあたぶん効果はあるんだよね。
 それよりこの凹凸の激しい変な形はどうにかならなかったのかな。カッコ悪い日焼け跡がつきそうですごくやだ。
 アイテムに頼るよりいっそエスナでも習得した方がよかったのかなぁ。だけど魔法ってイマイチよくわかんないんだよなぁ。ゴルベーザが言うにはわたしは魔力がサッパリって話だし、ケアル一回で干からびてたら洒落になんないし。
「はー……もっと簡単に魔法使えたらいいのに」
 せめて白魔法くらいは庶民にとっても手軽になれば。強い魔法の開発より先に便利魔法の簡易版を作ってよ! って思っちゃう。
「立ち上がるのがめんどくさいとき小テレポで物を引き寄せたりー」
「何だそれは……」
 小ヘイストを使って家庭で手早く簡単に漬物作りとか。うっかりコップ落とした時に小ストップかけてその間にキャッチとか。魔法すごい! 便利! わたしも使いたい。
「そんなくだらんことに魔力を使おうとするのはサヤぐらいだ……」
「だから魔力なんてほとんどいらない、ちっちゃい魔法をね」
「そう手軽なものになってはこれまで修行中に果てた人間どもも報われんだろうな」
 うわーそのバカにしきった態度。言ってるわりにはざまあ見ろって顔だね。……っていうか、新たな力を得るのに失敗して死ぬなんてバカみたいだって思うから、もっとくだらない魔法が増えればいいのに。

「サヤは……」
 言いかけて一度止まる。これは何だろう。早く帰りたい帰りたいって言ってたのに、のせられて雑談してる自分に気づいてムッとしてる、と見た。
「……サヤは黒魔法には興味がないのか」
 そんなこと言って教えてくれる気は全然ないくせに……。
「あるといえばあるけど……一度くらいファイガなんかぶっ放してみたい」
「何故わざわざそれを選ぶ」
 火属性とかそんなことは関係ないよ。うん、全然関係ない。
「弱っちいモンスターだってぽんぽん魔法うってるのにねー」
「…………」
 ん? いや、今のはべつにスカルミリョーネのこと言ったわけじゃないんだけど。被害妄想で睨まないでよ。なんだかんだですごーく気にしてるのかなぁ。いいじゃん、弱いって言ってもわたしよりよっぽど強い……なんて慰めにならないか。
 ふと思い至って買ったばかりのアミュレットを見る。鈍い光……今度、外出用の長い外套を用意してもらおう。この形に焼けたらやっぱりイヤだ。
「こういう魔力上げるアイテム買えば、わたしにも使えるのかもね……」
 言われてスカルミリョーネもわたしの腕を見た。何かを考え込んで、何も言わずにぷいっと横を向いてしまう。
「……使えたらどうするんだ」
「え? ちっちゃいテレポとか?」
「違う」
 ファイガとか、デスとか? メテオとか。使えるわけないって……でも、例えわたしに魔力があっても。そんな魔法が万が一使えたとしても。
「使わないよ……、攻撃魔法は」
 だってゴルベーザに逆らう理由ができちゃう。逆らえる力を、手に入れてしまう。そんなものいらない。わたしは弱いままで、いい。……あったら使っちゃうかもしれない。ほしいと思ってる内なら仲間で、いられる。

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