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 バッと体を起こして、ちょっと遅れて自分がたった今まで寝てたことに気づいた。うへえって引いちゃいそうなくらい立派な天蓋付きベッドが目に入る。あまりの格調高さに眼球が痛んで俯いたら、ちらっと視界に映った青い影。
「あれ……、なんでいるの?」
「なんでじゃねえだろ。寝ぼけてんのかお前」
 えーっと。ああそっか、ここバロン城だ。遊びに来たまま寝ちゃったんだね。用事もないのにカイナッツォが塔に帰ってるなんて変だと思ったんだ。っていうかここわたしの部屋じゃないし……。
 バロンにいるときはバロン王の姿でいてくれたらわかりやすいのになぁ。あーでも起きていきなり知らないおじさんがいたら、それはそれでびっくりしちゃうか。
 ってどうしてベッドに乗ってるんだろ。普通わたしが寝てたら遠慮しないかな。……しないか。普通じゃないもんね。

「うぅー……喉かわいたー」
 なんとなく催促しつつ呟いて窓を見る。この角度からは見えないぐらい高いとこに月がある。真夜中かぁ。……眠い。
「……帰るか?」
 オレが送るのかー、めんどくせーって気持ちが透けて見えてるよカイナッツォ。わたしも帰るのめんどくせー、だ。目が覚めなきゃよかった。半端な時間に起きちゃったら、なんか頭がぼーっとしたまま眠れなくなるし。
「もうこのまま泊まる。寝る」
「待てこら、ここで寝る気か」
 王様のベッドで寝ちゃおっと! こんな機会なかなかないからラッキーかもしれない。ド派手なベッドはイヤだけど、これは自分のじゃないからあんまり気になんないや。

「お前なぁ、ここがどこだか分かってんのか? 一般人が入れるだけでもありえねえんだぞ」
「……自分だって偽物の王様くせに」
「今はオレの部屋だからいいんだよ」
 じゃあわたしが泊まったっていいじゃん。バロン王の部屋だって言われると躊躇するけど、カイナッツォの部屋なら格式もなんにもないんだし!
「失礼な奴だなてめえは」
「勝手に人の心読むカメの方が失礼だよ」
 プライバシーの侵害だ。……待ってみる。もう少し待ってみる。ゆうに30秒、体感だと1分くらい待っても返事はない。めんどくさうにそっぽ向いたカイナッツォは、「カメじゃねえ!」とさえ言ってくれない。
 なんだかな、張り合いがないなぁ。最近ちょっと疲れてるみたい。わたしの相手するどころか追い払うのもめんどくせー、って感じだ。ツッコミにもキレがない。

「……わたしがベッド占領してたから怒ってるとか?」
「いや、別に」
 うん。ならいいんだけど。……終わり?
「会話にならないじゃんか。スカルミリョーネじゃあるまいし、」
 って名前聞いた途端におもいっきりケッ! って顔になった。どうしてそんなに仲悪いかな。スカルミリョーネは言わずもがな、バルバリシア様ともルビカンテとも仲良くないし、協調性なさすぎ……皆そうだけど。
 ゴルベーザがいなかったらホントにバラバラなんだろうなぁ。もっと歩み寄ればいいのに。細かく区切って見れば、ルビカンテとバルバリシア様は普通に会話してるし、スカルミリョーネだってルビカンテのことは極端に嫌ってるわけじゃないし、頑張れば協力でき……ああこれ単にルビカンテの人当たりがいいだけかあ。

「か、カイナッツォは〜……」
 居心地悪くてとりあえず口に出した言葉は、後が続かなくて焦った。話題がない!
「カイナッツォは、他の三人の中で誰が一番好き?」
「はあ?」
 なんだこの質問。本日は御日柄もよく……並に当たり障りなくて意味わかんない。
「えっと、やっぱりルビカンテとなら普通に仲いいのかなぁ、とか」
「なんだそりゃ。別に誰とも良かねえよ」
「え〜……」
 じゃあ誰が一番嫌い、ってのはあんまり聞きたくないなぁ。カイナッツォだけじゃなく、皆そこだけは懇切丁寧に答えてくれそうなんだもん。
「なんで仲良くしないの?」
「なんで仲良くする必要があるんだ?」
 だって仲間じゃない。塔の下層のモンスターだって、気の合う同士や同種の仲間と徒党を組んでる。四天王、なんてせっかく一体感のある称号がついてるなら、少しくらい認め合ってもいいと思うんだ。
「くだらねえ。仲間なんかじゃねえよ」
「だって……同じゴルベーザ配下じゃん」
「だから何だ? オレはゴルベーザ様に従ってるだけだ。奴らと馴れ合う気はねえし必要もない」
 馴れ合いとは違う……と思うんだけど、うまく説明できない。四人の内の誰かが傷ついたら心配するでしょ? 危ない目に合ってたら助けるでしょ? それは人間的な感情なのかな。ただわたしが、そうしてほしいなって思ってるだけ?

「…………わたし、寝る」
 なんか唐突に悲しくなっちゃった。カイナッツォだけなら「行き過ぎた個人主義なのかなぁ」で終わるけど、たぶん……ルビカンテですら同じ考えなんだろうなって。
 わたしにとって大切な存在は、他の誰かにはそうでもないんだ。どうにでもできる存在なんだ。……ゴルベーザもそう思ってたら、どうしよう。
「おいサヤ、口開けろ」
「ん……ぐへっ!?」
 素直に開きかけたところに水の塊が飛んできた。見えない風船に入ってるような丸い透明の物体が、ものすごい勢いで口にというか顔にぶちあたって、わたしの上半身の大部分を濡らして消える。
「な、なんの嫌がらせ?」
「喉渇いたって言ったろ」
 うわーすごく優しくない親切だね! 張り付いた服が冷たい。着替えもないし、やっぱり帰ろうかな。完全に目が覚めちゃったし、なんか、居づらくなってる。

「お前は自覚が足りねえ」
「えっ?」
 そういえば前にも言われた。あれはルビカンテに、ゴルベーザ様の配下としての自覚が足りないって。たぶんカイナッツォのとは意味が違うけど、言葉の重さは同じだった。
 戦えないなら、その気がないならせめて違うところで役に立たなきゃいけないんだって。例えば料理に挑戦してみたり(だけど食べるのはわたしとゴルベーザだけだからあまり意味がなく)モンスターの団結力を高めてみたり(わたしの言うこと聞いてくれるようなのはもともと団結してて、例えばカイナッツォみたいな強い相手には無視される)やるだけのことはやってるつもりなのに、結局まだ何もできてない。
「そうじゃねえよ……余計なことするなって言ってんだ」
「……だって、それじゃわたしのいる意味ないじゃない?」
「無くたっていいだろ。ゴルベーザ様が居ろっつうなら居りゃいいんだよ」
 意味がなくてもカイナッツォには関係ない。だって、どうでもいいから。

「……オレはオレだ。他の奴らとは違う。助け合いたいとも歩み寄りたいとも思わん」
「……うん」
「お前もあんまり考えんな。人間の価値観持ち込んでも無駄なだけだ」
 だけどそれって、気遣ってくれてるんだと思うんだよ。ゴルベーザの言葉に従ってわたしを受け入れてくれるのだってさ。……ゴルベーザへの想いがあるから。
 絶対、同じじゃないんだけど、わかってるけど、諦めきれないくらいには近くにいるんだもん。
「……やっぱりここで寝る」
「ああもう勝手にしろ。朝には塔に帰すからな」
 どうしても、せっかく一緒にいるのにって……、思っちゃうんだよ。

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