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どこに?

 カイナッツォもゴルベーザもまだまだ仕事中、バルバリシア様はわたしを送っただけで帰っちゃった。機嫌が悪くなってたのはこの際いいや。帰って話したら元通りだし。大事なのは今わたしが一人だってこと。たぶん夜まで一人だってこと。無断で王様のベッドに忍び込む人なんて、真面目気質なバロンにはいないんだ。
 一人ぼっちで退屈。しかし! それは同時にチャンスでもある。バルバリシア様とスカルミリョーネは絶対あるって言ってた。探すときは畳を剥がしてまでも見つけだす……それが意地ってものでしょう! 畳ないけどね。

「まずは定番、ベッドの下……」
 あれは隠すことを放棄してるらしい。勝ちを諦めて開き直ったヤツがやることだから、カイナッツォはしないだろうなぁ〜。案の定、覗き込んでも磨き込まれた美しい床があるだけ。
 シーツを剥いでマットものけてみる。この隙間なんかもわりと……ないな。細工もされてない、裏面側面も怪しいところはナシ。
「ベッドは……シロだな」
 まあこれは想定内。ここで見つかっても面白くないもんね。とりあえずベッドはメイクしなおして、と。寝るだけだからか王様の部屋って物が少ない。趣味のものなんて一つもないや。
 赤い翼隊長の部屋はそこそこ雰囲気よかったのになぁ〜。ローザか誰かが持ち込んだのか、壷とか絵とか美術品も多かったし。それに比べて……バロン王って質素だったんだ。執務室もシンプルすぎる内装だったもん。

 ……探しやすくて結構でございます。次は机。けっこう堂々と引き出しに入れてるヤツもいるんだよね。カイナッツォはそんなタイプかもしれない。ガッと開けたらドーンと置いてあるとか、……ないなぁ。っと見せかけて底に細工がしてあったり、ああああった!? 底板がはずれた!
 でも違った。なんだろうこれ、手紙? きれいな字……読めないけど。両手で握りしめたようなシワが気になる。見なかったふりをすべきものかな。カイナッツォの私物では絶対ない。紙の趣味が良すぎる。
 ……王様にだってプライベートはあるよね! 人に知られたくない青春の一つや二つ、ね! だから地下におわしますバロン王様、許してください。
「これは元通りしまっとこう……。次は……」
 引き出しは一つだけかぁ。自室に帰ってまで勉強するわけないし、この机を使うことなんてあるのかな。ここは違うのかも。後ろにもない。裏側にもない。なんか埃まみれだなぁ、入れ代わってから触ってもないんじゃないの。卓上灯の下! ……の敷布の下! ナシ!
「強情っ張りめ」
 ちょっと違う気もするけど気にしないよ。頭使って隠してるとは思えないのに。正直な話、きっと引き出しだろうと思ってた。

 衣装箪笥は違うと思うんだ。本人より侍従の方がよく触るはずだもん。まあ一応は確認しよう。うっわ、高そうってより重そうな服ばっかりだ。こんなの着てふんぞり返ってるんだね、カイナッツォ。……だめだ、どうしてもカメで想像しちゃう。
「床板、壁、天井……異常なし!」
 手触りにも妙なところはない。ほどほどに使ってほどほどに使わない、そんな場所が多いんだよね。だからやっぱり衣装箪笥は違った。敵もなかなかの手練……人呼んでガサ入れのサヤ、燃えてきました。
 本棚はややこしいから後回しにして、とりあえず壁、いってみよう。壁紙を剥がして埋め込む人がいる。もう別種の変態だよ。隠すこと自体が快感になってる。誰かに見つかってもそれはそれで興奮するの。これは戦いなのである。
 ……石壁だから例えここに埋めててもわかんないよ! つまり床下もない。カイナッツォのばか。なぜ畳部屋に改装しないの。

「やはり犯人はあなたか……ブックシェルフ!!」
 ビシッと指をさしても返事はないので黙々とガサ入れ再開。本の後ろに隠したなら、出っ張りをごまかすために他の本も少し前にずらす。とりあえず背表紙をどんどん押し込む。隙間はないみたい。覗き見ても後ろに本が入ってる様子はない。
 ……くうう、やるしかないのか。始めちゃったんだ、やってやろーじゃん! 泣きそうだけど! 順番に本を抜き出して、戻すとき混乱しないように表紙を上にして床に積んでいく。字が読めないからプレッシャーだ。
 何冊あるのかなぁ、すごい無駄。どうせ読まないんでしょ? と、とりあえずぜんぶ空になった。
「よし。……隠すスペースは……ないみたいだなぁ」
 手作りで隠し扉つけたりするんだよね。底板は……一枚板なのかな、引っぱがせないや。あとは本棚の後ろか。大きすぎて奥まで見えない。空にしたから動かせるかな?
「ふぬっ! ……ぅ、お!? も、た」
 なんだこれ! びくともしないんだけど! なんだこれ! さすが高級家具は無駄に重い!! でもきっとサカイ引越しセンターならやってくれる。何をやってくれるんだろう。
 ううう、動かない。引っ張ってもわたしの足がズルズルすべるだけで、本棚はストップのかかったデモンズウォールのごとく動かない。
「ぐうぅ……っは、もういい、やめた!」
 息があがった。1ミリも動いてないじゃん。くっそー、どうせこんなとこには絶対ないよ。だからいいんだ!

 もう探すところはない。あとはもう、一冊一冊確かめていくしか。……これをまた……本棚に戻しながら一冊一冊……。
「うおっ、おいサヤ……何してくれてんだお前、この惨状」
 ああ! 天の助けだ。神様はわたしを見捨てなかった。
「おかえりカイナッツォ〜〜」
「な、何だ、飛び掛かるな!」
 もういい、もういいんだ。わたしは頑張ったと思うよ。できることはやりきった。だからもう、いいよね。
「エッチな本どこに隠してるの?」
「はあ?」
「ないとは言わせないよ! さあ白状しろ! まさか執務室にあるの!?」
「あででで! 首引っ張るんじゃねえよ、そこにあるだろうが!!」
 そこにあるってこの本の山? なんと……、普通に本棚に閉まってあったというのか! お、男らしい!! でもわたしの発想は正しかったんだ。じゃあ今回は引き分けでいいよね。小説だったとはね〜。読めないんだもん、探し出せなかったのは仕方ないよ。
「いてえ、くそ……首が伸びた……」
 こんなに堂々としてるなら二冊や三冊はあるかも。ルビカンテあたりに持ってったら面白そうだから魔物に読めるヤツで一番どぎついのを借りちゃおう。
「で、どれがそうなの?」
「どれって、だからそこにあるだろ」
「うん、だから、この中のどれが?」
「それ全部だ」
 なん……だと……? いや、いや、まさか。そんなはずない。いくらなんでも。王様の部屋だよ。こんな立派な本棚に。ほらこの本なんか分厚いし濃い赤に金の縁取りで、格調高いオーラを放ちまくってるよ。わけわかんない学術書とかに決まってる。
「どうせそんなとこ覗くヤツはいねえからな。オレが全部入れ換えてやったぜ」
 クカカカカ……って……何やってんの……。あれ、なんだろうこの敗北感。よくわからないけどわたしの負けだ。なし崩し的にわたしの負けだよカイナッツォ。
「お前それ、ちゃんとしまっとけよ。オレは手伝わんぞ」
「……見直したよ……わたしはあなたのしもべです……」
「……サヤ? どうした、大丈夫か? 典医呼んでやろうか」
「大丈夫……」

 ……魔物だもん。相手が悪かった。明日があるさって言うじゃん。そうだ、おれたちの戦いはこれからだ。ふふ、ふふふ、待っていろ、ゴルベーザ!!

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