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文化交流

 魔法の力がこめられた道具とか言われると、イメージは沸くんだよね。風の力でふわっと空中に浮いたり、敵の攻撃を受け流したり? 特定の属性魔法やステータス異常を無効化したり。なんかよくわからないけどすごい! 不思議な力でお役立ち!
 そう。「なんかよくわからない」「不思議な力」なんだよね。具体的にどういう仕組みになってるのかって、聞いてみたけど、ゴルベーザはどう説明すればいいのか、わたしはどう理解すればいいのかサッパリで二人して諦めた。魔法の力って何なんだよ!
 今わたしの手の中には炎の力がこめられている(らしい)防具がある。見た感じ馴染み深い着物に似てるそれはエブラーナの服なのかもしれない。ゴルベーザに手渡されたときは、正直言うと「因縁めいててすごくやだな」って思った。けどそんなこと言えるはずもなく、とりあえずこれを渡すためにルビカンテを探してさまよい歩いている。……ゴルベーザから渡してくれたらよかったのに。

 ぷらぷら塔を巡りながらなんとなく羽織ってみる。炎の力が〜なんて言いつつも特に暖かかったりはしない普通の着物。魔力の正体を知らないわたしには秘められた力を実感できない、けど実際に効果が付加されてるんだから何かがあるんだろうなぁ。目に見えないものって苦手だ……。
 ルビカンテの身長に合わせた防具。わたしには大きすぎて、膝上で掴んで引き上げてないと床に引きずっちゃう。サイズも合わないし、あっちで普段から着てたわけでもないのに、和服っぽいってだけで少し嬉しい気がする。
 元の世界から着てきた服はもうけっこうボロボロになってる。バルバリシア様が用意してくれた換えの服は論外だし、ゴルベーザがどっからか手に入れてきた服も……なんかこう……コスプレっぽくてちょっといやだ。やたらキラキラしてたり露出が激しかったり果ては鎧だったり。着られないし、着ても動けないし。極端すぎる。もっと村人風な服がいい。
 着物、いいかもなぁ。今度こんなの用意してもらおうかな。忍者の服なら地味で動きやすいのがきっとある、と思う。

 そんなことをぼんやり考えてる間に、わたしの歩ける範囲内で塔をぐるっと一周しちゃった。……ルビカンテ、どこですか? 出かけてるのかな。部屋に行ってみようか。どうせいつもいないからって避けた場所に、裏をかいているかもしれない。いや、べつに避けられてるわけじゃないけど。
 転送機に乗っかってルビカンテの部屋までの道程を思い浮かべる。広間に転移したところで探してた影を見つけて、頭に浮かんだ記憶は無駄になった。……うん、まあ、これで目的は果たせるから、いいや。
「どっか出かけてたの? 探しまわっちゃったよ」
「ああ……、それはすまなかったな。たいした用ではなかったんだが」
 歯切れが悪い。わたしに言えないところに行ってたらしい。……性的な意味で、なら、まだよかったのにね。あんまり詳しく聞きたくないし、どうせ答えてもらえない。
「おかえりなさい。で、これプレゼント」
「……私にか?」
 羽織ってた着物を脱いでルビカンテに渡そうと差し出した手を、スルー。じっと見たまま受け取らない。危険な感じだ。やんわり断られそうな。困る。受け取ってくれなきゃ困る。
「サヤには悪いが、」
「ゴルベーザからだよ!」
「君が頼んだんだろう?」
 う、一瞬でばれた。だからゴルベーザから渡してほしかったのに……。これなら鎧とか他の防具よりも、着てて邪魔にならないと思うんだけどなぁ。
「軽いし、火属性だっていうし……、いいと思うんだけど〜……」
「私には必要ない。炎が遮られるのは不快だから」
 そうか。バルバリシア様の服もルビカンテのマントも、布の形態とってるけどあれは魔力の塊みたいなもんだとか聞いたっけ。衣類なんて素材がどうだろうが軽かろうが結局は邪魔なのかも。……でもさ、犬や猫だって飼い主の趣味に付き合って無意味な服着てくれるのに。わたしが飼い主じゃないからダメなのかな。

 わりと切実なんだよ、ルビカンテ。いっそバルバリシア様くらい開放的なら慣れることもできた。普段は平気なのに。……気を抜いた時にチラッチラ見えるから! 見てはいけないものが見えるから! あんまり勢いよく目を逸らすのも微妙だし、見えてなくても「動いたらヤバイ」って気になるんだよ! 困っちゃうんだよ!!
「……せっかく用意したのになぁ」
「いや、……すまないがそれは、」
「そうだよね……しょーもない人間の娘っ子が用意した着物なんて、誇り高いルビカンテ様には着られないよね」
「ちょ、ちょっと待て、何もそんな」
「こんなもん着れるかって破いて燃やされて突き飛ばされて足蹴にされなかっただけでも泣きながらありがとうございますと縋りついて感謝しなくちゃいけないくらいだよね」
「……分かった、着ればいいんだな」
 これが必殺の泣き脅し! 効果は抜群だ。バルバリシア様とルビカンテにしか効かないけど。

 すごーく嫌そうな顔でわたしから着物を受け取る。着方がわからないらしいルビカンテに後ろを向いてもらって、肩に着物を掛けた。少し心配だったけど、ちゃんと燃えちゃわないように気を遣ってくれてるみたい。袖を通して帯を結ぶと想像以上に似合ってて変な気分。
「……意外といいかも」
「……落ち着かないな。妙な気分だ」
 正直な話、背丈も足の長さも違う外人が、無理矢理うれしがって羽織袴を着てるみたいな……そんな痛々しい感じになるかもって思ってたけど。あんまり違和感ないのがかえって変。
 やっぱり似てるようでも和服じゃなくて、こっちの世界に合わせた服ってことかな。わたしが着た方が面白おかしく似合わなかったりしてね。
 ルビカンテは見慣れない着流し姿のまま押し黙って、珍しく機嫌悪そうに眉を寄せてる。よっぽど嫌なのかなぁ……。
「やっぱ、ダメ?」
「……カイナッツォはこんなものを身につけて過ごしているのかと思うと……今度労ってやらなければならないな」
 つまりものすごく嫌なんだね。
「……脱いでもいいよ」
「しかし、サヤは着ていてほしいんだろう?」
 そりゃまあ。何か着ててくれた方が嬉しい。ルビカンテが着物似合うなんて、なんか別の嬉しさもあるし。だけど……。
「イヤなんでしょ」
「……喜んで受け取ってやりたいが、こればかりはどうにもな」
 自分の炎が遮られるのは不快だなんて言ってたくせに、絶対に「嫌だ」って言わないんだ。わたしに気を遣って。……押しつけられるわけ、ないよ。

「ちょっともったいないけど、仕方ないね」
 申し訳なさそうにしながらも、脱いでいいとなるとルビカンテはさっさと着物を脱いでわたしに返してきた。……えっと、返されても困る……寝巻きにでもしようかな、これ。
 目の前で抑えがなくなった炎が躍る。これが自然な姿ならわたしの方が慣れるべきなんだよね、たぶん。慣れるかなぁ……。
「私よりもサヤ自身の服を買えばいい」
「そうしたいけどさ、なかなか町には行けないもん」
「……町の入口までなら送ってやれる」
「え、一人で行動していいの?」
「すぐには無理だが、その内ゴルベーザ様に頼んでおくよ」
 なんだか思わぬラッキーが起きた。でもなんか違う気もする。
「もしかして、これ突っ返したから悪いなーって思ってる?」
「……まあ、少し、な」
 いいのに。そんなこと、べつにいいのに。気にしないのに。……なんか。
「サヤ? どうかしたのか」
「ううん。なんでもない!」
 乗り越えられない違い、だけど考えて迷って、受け入れようとしてくれてるんだ。なんかすごく、嬉しい。どうしよう。
「……ありがとうございます、ルビカンテ様」
 突然の言葉にぎょっとして、更に申し訳なさそうな顔になる。厭味じゃないよ、本心だよ。だけど恥ずかしいから言わない。わたしが慣れればいい。わたしが受け入れたらいいんだ。何も無理に変える必要なんかない。

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