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 人の多い場所は嫌いだ。用もないのに動き回るのも嫌いだ。無駄口を叩くのも嫌いだ。何から何まで気が合わない。合いたいとも思わないが。
 ……サヤと出かけるのは結構な苦痛だ。なぜ私の嫌がるところにばかり行きたがるのか。わざとなのか?
「ねえねえ」
「……何だ」
「あれブタだよね? 着ぐるみじゃないよね」
 毒にあたらない少し離れた位置でサヤが指差す。その先には陽に当たり居眠りしている村人。別段おかしな光景でもない。
「それがどうした」
「二足歩行のブタ……わりと気持ち悪い……」
 その言い草は人間としてどうなんだ……。カイナッツォにも私にも塔のいかなる魔物にも無反応なくせに、あれは許容範囲外なのか。分からん奴だ。
「ドット絵に夢見ちゃいけないね」
 なぜか遠い目をしたサヤが嘆く。意味が分からないが放っておくことにする。

 町を観察するばかりで一向に目的を果たそうとしないサヤに焦れはじめていた。防具を買いに来たのではなかったのか。しかし私から言い出すのも催促しているようで腹立たしい。金はサヤが持っているから勝手に済ませるわけにもいかない。……町の外で待つべきだったな。
「ここの人って、スカルミリョーネ見てもなんにも言わないね。他の町でもそう?」
「……いや」
 この町が特別呑気なだけだ。他へ行けば人に近いルビカンテであっても奇異の目で見られるだろう。我等の隔絶は深い。……はずなんだが……サヤを見ていると混乱してくる。
「うわっ」
「……?」
「…………!!」
 突如奇声をあげたサヤが、そのまま時間を止めたように固まった。その視線の先に緑の生き物。ブタにくわえてカエルも駄目なのだろうか。それがサヤの弱点ならば何かに利用できるかもしれない、と考えたところで、その目がやけにキラキラと輝いているのに気づく。さっと私を振り返ると、今度はカエルを指差した。
「あれ持って帰っていい!?」
「良いはずないだろうが!!」
 大声に驚いたカエルが心配そうな視線を向けてくる。サヤに見えないようにさっさと去れと身振りで示した。頭が痛くなってきた。早く帰りたい。

「……スカルミリョーネはトード使える?」
「どうでもいいからとっとと用事を済ませて来い。置いて帰るぞ」
 途端に不安げな顔になったサヤに少し胸がすく、がそんな気分も一瞬で消えた。
「それってカエルと帰るをかけて、わ、ごめんごめん、つねらないでー!!」
 身をよじって逃げたサヤが、ギルを握りしめて駆けて行く。……やっと塔に戻れる、と。溜息をつきかけてサヤの行く先を見た。……待て、行き過ぎだ、そこは道具屋……いや、別に防具でなくとも毒を防げるなら構わないのか? 店の戸をくぐる際に私を見たサヤの表情が気にかかる。何か企んでいるような。
 ものの数分で店から出てきたサヤは、しまりのない笑みを堪えつつ口の端をひくつかせていた。すごく嫌な予感がする。

「……と、とりあえず、帰ろっか!」
「おい、何を買った」
「いいからいいから! さっ、デジョンして」
「…………」
 不自然に片手を背後に隠して曖昧に笑っている。どう考えてもおかしい。
「……見せろ」
「う、……はい」
 渋々とサヤが差し出した緑の塊。先程のカエルを模したと思われるぬいぐるみだった。おそらくは土産物だろう。よく分からない台詞の書かれたタグが付いている。
「貴様、何を買いに来たか忘れたのか? 返して来い!」
「いやです!」
「い……それが誰の金だか分かっているのか!?」
「スカルミリョーネのじゃないもんゴルベーザのだもん」
「だから無駄遣いするなと言っているんだろうが!!」
「そんな怒ると血管切れるよ?」
 私に血管などない。だが確かに、存在していたら切れているだろうな。それが誰のせいだか分かっているのかお前は! なぜ私がこんな目に合わなければならないんだ。
「……バルバリシア様にあげるんだもん」
 なんだそれは、脅しか。邪魔したら私が殺されかねない。しかしそれはゴルベーザ様がわざわざ金を出して……くっ、もういい、知ったことか。私は何も知らない、見ていない、聞いてもいない。
「毒防御は……どうしよう?」
「私に近寄らなければいいだけのことだ。買わなかったのはお前なのだからな」
「……もっかい一緒に来ようね!」
「知らん!」

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