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柘榴石

 手の中で赤い石が転がる。出先から戻ったサヤが「お土産」と差し出してきたものだった。硬く軽い感触の奥にくすぶるような炎の力を感じる。その熱がサヤの面影を浮かびあがらせた。
「火の石って呼ばれてるんだって。安いから、あんまり透明度は高くないけど……」
 真実とか友愛って意味があるんだよ、と笑っていた。

「気に入らないわね」
 私の手を覗き込みながらバルバリシアが不満げに呟いた。自分への土産がなかったことに拗ねているらしい。
「……偶然見つけたというから、私を特別扱いしてるわけじゃないだろう? そう臍を曲げるな」
「そんな問題じゃないのよ、分からない男ね」
 言い捨てるとバルバリシアの姿は掻き消えてしまった。次は彼女にも何か探して来てくれと頼んでおかなければならないな。……そうするとまた、「どうしてそんなに出かけるのよ」と怒るのだろうが。
 厄介な相手に惚れられたものだ。サヤも苦労するな。

石を部屋の明かりに透かしてみた。ほの暗い赤がゆらゆらと視界に揺れる。まるで本物の炎のように。
「真実と、友愛か……」
 私達は皆サヤに確かなものを求めている。特に儚さを感じるわけでもないのに、彼女の存在はいつも終わりを予感させた。あんなにも明るくて前向きな少女には不釣合いな暗い不安。
 カイナッツォはサヤを拒絶できない。スカルミリョーネは踏み込むことを恐れ、バルバリシアは彼女の一番深い部分に居座ることを欲している。ゴルベーザ様でさえ、我らがサヤを留めおく枷となるのを望んでいる。……では、私はどうなのだろう。
 ただの人間、それも異世界の存在。本来ありえないはずのものがそこにある。その不安定さが焦りを呼ぶのだろうか? 彼女自身も常に探している。自分の存在を確かめ合える絆を、幻ではなくここにあるのだと信じられる確かなものを。

 石を握ると微かに温かさを感じた気がした。火の力。私にとっては何にも代えられない大切なもの。愛しさがこみあげてくる。脈動もなく冷たいだけの石の温度が、私の体温よりも高いはずはないのだが……。
 例えその熱が錯覚だとしても、掌中にある感触の存在だけは確かなものだ。だからこの石に誓おう。
どこにいても、何をしていても……友愛を君に。未来に何が待ち受けていようとも、真実はここにある。

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