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言訳

 風邪を引いたというバルバリシアは、始めゴルベーザ様の部屋に伏せっていたものの、すぐに居づらくなって自室に移動したようだ。今はサヤがその世話を口実に勉強から逃げ、ゴルベーザ様が追ってバルバリシアの部屋に泊まり込んでいる。
 ルビカンテは部屋に入り浸って何かと世話を焼いているし、カイナッツォまでちょくちょく様子を見に行っている。……なんだかんだと皆面白がっているように思うが、気のせいだろうか。奴が病に伏せるなど二度とないことかもしれないから、この機会に楽しんでおくつもりか。
「スカルミリョーネ、台所行くから護衛して」
 サヤが何か果物を抱えて部屋から出てきた。今はカイナッツォ達が中にいるはずだが放って出ていいのだろうか。下手をすると塔が崩壊する事態になりかねない。
「ゴルベーザが戻ってるから大丈夫、牽制で済んでるよ」
「……そうか」
 見舞いなのか嫌がらせなのかどちらなんだ、奴らは。ルビカンテは善意のつもりらしいが、バルバリシアならゴルベーザ様とサヤ以外には放っておかれた方が有り難いだろう。報われん奴だ……。

「また卵酒とかいうものを作るのか?」
「ううん、すごく微妙な顔されたからもうやめる」
 それはギガントードの卵で代用したせいではないのか。実物がどういうものかは知らんがあれは魔物の感覚でも口に入れたい見た目ではなかった。
 食材の襲撃を危惧して下がるサヤを尻目に調理場へ入る。今日は特に生きたものはいないようだ。
「……入っていい?」
「ああ」
 料理一つに命懸けというのも難儀だが、かといってサヤのためだけにしょっちゅう買物に出かけられる者もいない。自然と食材は保存に良い生きた魔物になる。
 ……こんな面倒な手順を踏むぐらいなら、サヤを人間の町にでも置いて必要な時だけ呼び出せばいいと思うんだが……さすがにそう進言する度胸はないな……。

「スカルミリョーネって風邪ひいたことある?」
「……ない」
 今回初めて魔物でも病に罹ると知ったぐらいだ。私の部下は皆すでに生命活動を停止しているしな。バルバリシアもああ見えて人に近い生き物なのかもしれん。
「いろいろ試してるけど……、ホントに人間の治療法でいいのかなぁ」
「さあな……放っておけばその内勝手に治ると思うが」
「カイナッツォと同じこと言ってる」
 言わなければよかった。……あのバルバリシアが大人しく寝込むとは思えん。下手に寝かしつけるよりも思う様暴れ回らせた方が気力が湧くのではないか。いずれにせよ早く治してほしい。
「まあとりあえず、効くかは別としても害にはならないだろーってとこいくしかないよね」
「適当だな。……それは何だ?」
「カモミールティー、オレンジピール入り!」
 張り切って言われても私には意味がよく分からない。だが面倒なので聞き返さないことにする。

「紅茶いれたあとのカスが植物にいいって、おばあちゃんが庭に埋めてたんだけど」
「…………何故私を見る」
「スカルミリョーネに埋めたら成長を促すかも」
「いらん!!」
 何の成長なんだ。食うとか飲むならまだしも埋めるとはどういう意味だ。厭味や嫌がらせではなく真剣に言っているのが恐ろしい。何を考えとるんだこいつは。……何も考えていないのか……。
「生オレンジも買ってきてくれたから、ジャム作っとこうかなぁ」
「あまりここで時間を食うと奴が迎えに来るぞ」
「……ジャムはやめて果汁100%オレンジジュースにしよう」

 ゴルベーザ様の土産らしい果物を切りながら、バルバリシア様って柑橘系だよねとサヤが呟いた。そう飲物ばかり持って来られても困るような……ちゃっかり自分用に作っているのだろうか。
「なんかじめっとしてないし。明るく爽やか」
 ……爽やか? あの執念深いバルバリシアが。しかし確かに粘着質ではないな。あっさりしているという意味ではそうかもしれない。良いようにとらえすぎているが。
「紅茶にオレンジ入れるのも好きだし」
 いや、それは何の関係もない気がする。

「早く治るといいねー」
「……そうだな」
 私が答えるとサヤが驚いたように振り返った。何か誤解しているらしい。
「いつまでも伏せっていては四天王の名誉に傷がつくからな」
 慌てて否定してから、妙に言い訳がましく聞こえて後悔した。
「……ツンデレ?」
「何だそれは」
「そっかぁ、心配だからお見舞いに来なかったんだね〜」
「別に、何も私が行く必要など……」
 何故急に機嫌がよくなるんだ。人の話を聞け!
「大丈夫だって、カイナッツォにしか言わないから」
 どうして一番嫌なところへ話を運ぶんだ。……くっ、勝手にすればいい。サヤが言わずとも奴はどうせ何かと言い掛かりをつけてくるんだからな。

「仲悪いけど、バルバリシア様が一番好きだよね」
 後に引かないから楽なだけだ。誰のことも好きじゃない。……恐ろしいだけで、不快ではないが。
「……ゴルベーザ様の手を煩わせずさっさと治せと伝えておけ」
「うんうん」
「四天王が弱っていては配下に示しがつかん」
「はいはい」
「心配などしていないが病をうつされても困るからな!」
「わかったわかった」
 とにかくお前はそのしたり顔をやめろ。無性に腹が立つんだ!

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