─back to menu─


兎耳

 よくよく考えたら、わたしが今ここにいる、それがすでにありえない事態。始まりからして不思議。だったら、ここで起きるすべてが「ありえない」だ。
 何が起きるかわからない。何が起きてもおかしくない。そう、朝目が覚めたら兎耳が生えてたなんて、べつにたいした事件でもないんだ。

「……いや、大事件だよ……」
「何か変なものでも食べなかったか、サヤ」
 ありえないの真っ只中にいるわたしを心配してくれるルビカンテ。でもその言い草って……拾い食いなんかしないよ、いくつだと思ってるの? 前から思ってたけどルビカンテはわたしを子供扱いしすぎ! ていうかもうペット! 愛玩動物扱い! ぜんぜん対等に見てないよ。そりゃ、確かに対等じゃないんだけどさ。
「なんにも、心当たりないです……」
「ふむ。……耳ぐらい、構わないんじゃないか? なかなか可愛らしいと思うが」
 ひ、他人事だと思って! かわいいのは兎そのものであって耳じゃないよ。兎耳は兎についてるからかわいいの! ミノカサゴに猫耳が生えたって萌えないでしょ!? 同じことだよ! だめだ、わたし混乱してるみたい。この耳、ステータス異常の効果があるのかも。

「もう、引っこ抜けたらいいのに!」
 いっそホントに兎耳並の能力があったらいいな。人間には聞こえない遠くの音まで拾えるとか。でも特にそんな機能もないみたい。嫌になる。
「ただくっついてるわけじゃなく、しっかり生えているんだな……」
 何気なくルビカンテが耳元をさわる、っと、ぞわっときた!
「ひゃうっ! ちょっ、逆に撫でちゃだめ!」
 聴覚はないのに触覚だけはあるなんて、もはや耳である必要がないよこれ……いらない……。っていうか、なんでルビカンテが動揺してるの? びっくりしたのはこっちだよ。
「どうかした?」
「あ、ああ。いやっ、なんでもないんだ、気にするな」
「ふうん。……どうしよっかな、これ。ルゲイエに頼んで取ってもらえないかなぁ」
「そんなもったい……危険だと思うぞ、やめたほうがいい」
 もったい? まあたしかに、ついでに改造されちゃっても困るしそれは最後の手段だよね。でも、寝るときもお風呂のときも邪魔になりそうだし、さっき触られたとこがまだむずむずしてるし、いいことない。はやくなんとかしたいんだけどな。

「突然生えてきたものなら、突然なくなるかもしれないだろう。しばらくは様子を見ればいいさ」
「……なんっか嬉しそうだよね」
「そ、そんなことはない」
 人の不幸は蜜の味〜、なんてカイナッツォじゃあるまいし。ルビカンテに限ってそんなことはないだろうけど。面倒事に巻きこまれてるときって懐疑的になっちゃう。だめだな、わたし。
「……サヤ、一つ言っておくが……」
 ええっ、なに急に真顔になって。身構えちゃうよ。
「その耳、治るまではカイナッツォには見せないほうがいい」
「へ? あー、そうだね、絶対からかわれるもん」
「いやそうではなく……それもあるが……ま、まぁいい。とりあえず帽子か何かで隠せばいいだろう。私が用意しておこうか」
「ホント? ありがとう〜!」
 やっぱりルビカンテはルビカンテだなぁ、ちょっとズレてるときもあるけど、優しいんだ。ここにきて不安になったことあんまりないけど、それも大切にしてくれてるって実感があればこそ。こんなふうに気軽に相談持ち掛けられるのはルビカンテだけだもん。なんか恥ずかしくて言えないけどホントはすごく感謝してる。

 ……けど、後になって届けられた『帽子』を見て、やっぱり感謝の気持ちは心の中だけに留めとこう、なんて。やっぱりどっかズレてる。これじゃ根本的な問題が解決されてないよ!
「取得ギルアップ! ……されたらいいな」

|



dream coupling index


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -