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 とくに用があったわけじゃないけど、今日はスカルミリョーネの姿を見てないなぁって、ふと思った。探すともなしに塔の中をうろついてみる。そんなにストレス溜まってないけど、なんか面白いことでもないかなって。
 こっちの世界の人が動きたがりなのか、この塔の住人だけがそうなのかはわかんないけど、定位置ってものがないなぁ。ここに行ったら誰其に会えるって場所がない。スカルミリョーネとかバルバリシア様なんて、自分の部屋使ってる形跡がまったくないし。
 テレポやデジョンでサクッと移動できちゃうから、いつだって無駄にうろうろしてる。凡人には理解できない何かで連絡も取り合えるから、どこにいるかなんて知らなくても平気らしくて。……ずるい。
 わたしも欲しいなあ、直通電話。ひそひ草でもぶんどって来てもらっちゃおうか。

 下層の入口近くで言い争ってる……らしい、ブラックナイトとソーサルレディを見つけた。魔物の言葉はわからないけど、飛び交う視線のやり取りはまわりの空気をどす黒く染めるくらい険悪だ。
 基本的には皆、係わり合いになりたくないみたいだ。中でも魔道士と騎士、男と女、獣型と人型なんかは仲がよろしくないらしい。つまりあの二人なんかは、ぜんっぜん気が合わない。
 まあ、モンスターなんだし、みんな仲良く! とまでは言わない。でも上の人同士が仲悪いからって、配下まで仲たがいしなくったってねー。
「……喧嘩してるの?」
「サヤか……」
 ソーサルレディが振り返って呟いた。人間語が不得意なブラックナイトは、黙ったまま腕を組んでる。表情は不明だけどすごーく不機嫌そうだ。
「……そうだな。サヤならば公平な判断を降せるかもしれない」
 わたしには聞き取れない言葉で会話を交わして頷き合った二人が、やけに真剣な気配を向けてきた。な、なんなのかな? ちょっと逃げ出したくなる。
 ガシャンと硬い音がしてブラックナイトの手がわたしの肩に乗せられた。空気が重い。でも逃げられない!

「……バルバリシア様とスカルミリョーネ様、どちらが素晴らしいと思う」
 深刻そうな声にぽかーんとなった。素晴らしい、かっこわらい、かっことじる。いやいや。素晴らしい……のかな。
「…………どちらだ」
 例えばゴルベーザなら、あのでかくて黒くてトゲトゲな見た目、わかりやすい威圧感がある。ブラックナイトだって体格以外は似たようなものだ。……レディさんは、一体どうしちゃったの。今日すごい怖い。
 殺意みたいなものがびりびりきてる。こっちを選ばなきゃどうなるかわかってるだろうな! ってそんな空気が両方から、わたしは一体どうすれば?
 あなたたちは普段は優しいのにふとした一瞬プチッときちゃうから怖いんだってば。
「どっちって、そんな、どっちも四天王なんだし、わたしなんかに」
 選べるはずないよって言いそびれて、冷や汗が流れた。冷たい視線が注がれてる気がする。
「我々はそのような日和見な答えを求めているのではない」
「……明確ニ答エヨ、サヤ」

 スカルミリョーネは……なんだかんだで甘やかしてくれるし、ゴルベーザへの忠誠心だって並々ならないものがあるし、ああ見えて優しいところもあるし。バルバリシア様は、まっすぐ大好きって伝えてくれるし、多少無茶なお願いでも聞いてくれるし、あんなにきれいなのに猛々しくて強い。
 褒めろって言われれば褒められる。好きなところを言えばいいんだから、だけど。
「選べって言われてもなぁ……」
 二人してじっとわたしの言葉を待ってる。無難なとこには逃げられない。かといってどっちかを選んだら、選ばなかった方が暴れ出すのは目に見えてる。
 大好きなんだよね、褒めてほしいんだよね。……微笑ましいん、だけど、さ。
「サヤの個人的な好みで構わない。日頃どちらとの関わりが深いかとか、どちらにより世話になっているかとか、存分に考慮してどちらを愛しているか選ぶのだ!」
 力のこもりすぎた握り拳に血管が浮いてる。ギギッと音をさせながらブラックナイトがレディさんを睨みつけたような気がした。目なんか見えないけど。自分がスカルミリョーネのアピールポイントをぺらぺら話せないから、いろいろと不満があるみたいだ。
 お父さんとお母さん、どっちが好き? みたいな……。正直どっちでもいいというか、その時によるよねとしか言いようがないよ。

「……ちなみに二人は、ゴルベーザと自分の上司どっちが好き?」
「バルバリシア様」
「スカルミリョーネ様」
 即答した声が重なった。ゴ、ゴルベーザ……うん、聞かなかったことにしよう。こうまで盲目的に愛されてる。それはそれで素晴らしい、ことかもしれない。
 内側で何か盛り上がったらしくて、向き合った二人は更に険悪なムードに。自己完結してるならもう、それで済ませればいいのになぁ。どっちが優れてるったって。
 うわっ剣抜いちゃった。……危ないから離れとこっと。
「我が敬愛するバルバリシア様の方がお前の主よりも断然優れている!」
「……!!」
 そりゃまあ強さならバルバリシア様の方が上だよね。だけどスカルミリョーネは死んでも死んでも蘇るしぶとさがあるし。バルバリシア様は集中力なさすぎだし、スカルミリョーネは一人でのめり込みすぎだ。
 結局、みんなを選んだのはゴルベーザで、お互いに弱いところを補うようにできてるんじゃないかな。剣を振るう人と魔法で支援する人と、……今そんなこと言っても聞いてくれないだろうけど。
「お前の主などいつもバルバリシア様に倒されているではないか!」
 返事の代わりにガキンと重い剣の音。受け流しもせず見えない魔法障壁が食い止める。
「……どっちも好きなのに」
「サヤは誰でも好きだろう」
 ギロッと睨み据えられて心臓がはねた。誰でもなんてそんな、聖人君子じゃあるまいし。
「お前が選べば勝利だ!」
 どういう理屈なんだろう。わたしが選んだって……まあバルバリシア様は喜んでくれるかもしれないけど。
 そんなふうにまっすぐ、好意をぶつけられたら。

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