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 人間の感覚というのは計り難いものだな。サヤのセンスが独特なだけだろうか。
 彼女が塔に現れた当初は部屋も用意されておらず、ゴルベーザ様の長椅子などを借りて眠っていたようだ。まずは寝台が買い与えられ、そこから彼女の望む家具が追加されていった。豪奢すぎるものは嫌がる。かといって粗末にすぎると「貧乏くさい……」などと悲しげに呟く。
 私には余程極端でなければ境界線が分からないのだが、レディガーダーの選ぶ家具が最もサヤの趣味と合うらしく、支払い以外の部分には関知しないことに決めた。奴が選んだものを買い、そのままサヤの部屋へ運び入れるだけだ。
 元は魔法の精度を高めるためだったが、サヤが現れてからは人間の言語を学んでいてよかったと心底嬉しく思う。

「あっ、この履物、サヤが言ってた『サンダル』というものでしょうか」
 ああ、室内用に使いたいと欲しがっていたものか。彼女のいた場所では寝る時は裸足が普通だったと聞いた。もちろん防具も外して眠る。恐ろしいものだ。そんな無防備な格好を曝して敵襲があったらどうするのだろう。魔法も使えないというのに。
「この色ならゴルベーザ様に頂いた寝台に合いますね。買ってください、ソーサラー!」
 ……楽しそうだな、ガーダー。履物の色など気にしたこともなかった。ガーダーがそんなことにこだわりを持っているのも知らなかった。
 今はもう慣れたが、たまに(魔物が連れ立って人間の町で買物などしていていいのか!)と我に返ることがある。しかし自分の欲求からは逃れられないものだ。サヤへの奉仕はそのまま我々の喜びに直結している。

「なあ、ガーダーよ」
「どうしました?」
 バロンの兵装に身を包み、履物を抱えたまま次の獲物……もといサヤへの供物を物色している。庇護の対象として難無く受け入れることができた、我々は幸運だったのだろうな。
「この間の茶器をサヤが大層喜んでいたらしい。褒美にバルバリシア様がお言葉をくださると、」
「それは誠ですか!!」
 まだ支払いを済ませていないのに履物をにぎりしめるな馬鹿力。ひしゃげて戻らなかったらサヤに渡せもしないうえに買い取りになるのだぞ!
「本当だから落ち着け、あとそれは私に寄越しなさい」
 私に発揮し得る最大限の筋力を駆使してガーダーの手から救出したものの、やはり少し歪んでしまっている。……顛末を話せばサヤなら笑って許してくれそうだから、まあいいだろう。
 両手が自由になったガーダーは自らの胸で手を組み、祈るような顔で物思いに耽っている。バルバリシア様との会話でも想像しているのだろう。武骨なわりに乙女心は私よりも豊富なようだな。その辺りが可愛いところだとサヤも言っていた。近頃は私でさえそう思う。

「私達が直接お言葉をかけて頂けるなんて……考えられなかったことですね……」
「ああ……サヤのおかげだ」
 彼女の世話を焼き気遣えばゴルベーザ様が喜んでくださり、それを聞き知ったバルバリシア様に褒めて頂ける。サヤが来るまではあの方と言葉を交わすなど夢のまた夢だったというのに。
 また彼女の方でも我等に気遣いを返してくれるのが嬉しい。塔に来た当初から「もうちょっと配下と仲良くしたらどうかな」などとバルバリシア様に進言してくれたのだから!
 ゴルベーザ様以外の他者に一切の興味を示さなかったあの方が……今では我々にまでお声をかけて……いつもサヤを気遣ってくれてありがとうと、ありがとうと!!
「大丈夫ですか、ソーサラー。血管浮いてますよ」
「あ、ああ、すまない。ついバルバリシア様の御姿を思い描いてしまった」

 人間と似通った姿だからこそ、こうして町に潜り込みサヤの生活に役立つことができる。無能のビーストや無愛想なブラックナイトなどは使い走りをやらされていると憐れんでくるが、見当違いも甚だしい。
 この塔の中にバルバリシア様配下である我々程サヤを歓迎し、彼女に尽くすことに喜びを感じている者など、他にはいまい。あの娘はバルバリシア様との大切な懸け橋なのだから!

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