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いい人カモ

 召喚石を初めて使う時って何となくワクワクするんだよな。中にいるヤツとはもう顔合わせもしてるけど、その都度戦いがどんな展開になるのか楽しみだ。
 シャントット博士にもらった召喚石。サヤはセシルの知り合いらしいんだけど、おれ達と召喚獣とじゃここに呼び出されるシステムにも違いがあるらしくて、セシルは彼女を覚えていない。
 召喚獣達はみんな誰かの知り合いなんだよなあ。おれのこと知ってるってヤツらもいたけど、やっぱりよく分からない。まあ別にいいよなって思う。元の世界でどうだろうと、こっちでは新しい旅をするだけだ。そこに知ってるヤツがいても知らないヤツがいても楽しめばいい。

 争いが好きってわけじゃないが戦闘は楽しい。相手がいてこそ自分の歩いてきた道が見えてくるんだ。どれだけ強くなったのか、次にどうするべきなのか。
 コスモスのみんなにはなんか誤解されてるけど、こう見えておれは計画的に生きてるんだ。まるっきり向こう見ずじゃ旅なんてできないからな。
「さ、それじゃあ一戦やるかエクスデス!」
「待て」
 武器の準備も万端だし、とはりきってたところへ制止の声がかかる。何だよ気が削がれるなあ。
 城壁の上から見下ろす自称宿敵が何か呪文を唱えている。攻撃魔法じゃなさそうだからいいか……、というかアイツ高いとこ好きだよな。こんな空中に城なんか作って、厭味か? おれこのエリア苦手なんだけど。一番下にいても怖いんですけど!
 詠唱が終わり魔法が発動する。どこからか巨大な目に見つめられてるような居心地の悪さがあった。ライブラしたな。
「貴様、サヤの召喚石を身につけておるのか」
「ああ、そうだよ」
 どんな効果があるのか聞いてみたけど「んーその時の気分?」とか言われてさっぱり分からなかった。勝利の確信もなしに博打を打つのは好きじゃないんだが、アイツの技はランダムでもデメリットが無いそうだから別にいい。

 目線が読めないけどエクスデスはおれが持ってる召喚石を見ているようだ。っていうか睨んでるんだろうか。なんか妙な雰囲気だな。
「むう……あの小娘か……」
「苦手なのか、もしかして」
 まず面識があるってことが驚きだよな。並んでる姿が想像できないぞ。そういやサヤはどっちかっていうとカオス寄りなんだっけ? あっちの誰かの部下だか友達だか娘だかって言ってたかな。さすがに娘はないか。誰を想像しても嫌だ。
 それにしてもあれじゃまるで彼女が怖いみたいじゃないか。珍しく戦いを渋るエクスデスと、手の中の赤い石を見比べる。
「べつに召喚獣禁止でバトルしたっていいぜ」
 どうせこれはコスモスとカオスの戦いじゃなくて、クリスタルも関係ないただの鍛練だからな。召喚を試すのも次の機会にまわせばいいし。
「……力を持ちながら出し惜しみするのも愚かしい。よかろう、ならば趣向を変え召喚獣同士で戦わせようではないか」
 やってることの割に居丈高な態度でエクスデスも召喚石を取り出した。……おれの経験値にはならないけどサヤの戦いぶりは見られるな。それはそれで面白いか?
「私はもうあの小娘と戦いたくない」
「ふーん。まあいいんじゃないか、たまには」
 もうって言うくらいだから戦ったことあるんだろうなぁ。何されたんだ。コイツと同じカオス陣営のゴルベーザなんかは、出会い頭に古代魔法を打ち噛まされたって聞いたっけ。意外と容赦のないヤツなのかもな、サヤ。

 戦えるって知ってても実力は未知数だ。エクスデスの呼ぶ相手によっては少し心配……だったんだけど。
「ギルガメッシュ。頼りにしているぞ」
「ハハッ、おまかせあれ!」
 現れた赤いヤツを見てまあ大丈夫かなと思えた。いやべつにコイツなら勝てるだろとかそういう意味じゃなく、戦闘が激しくなってもサヤが酷い目にあうことはないだろうってことで。
「よっ」
「お、おう……バッツか」
「お前が相手なら安心だな!」
「ど〜ゆ〜意味だ!?」
 だからそ〜ゆ〜意味じゃないんだけど面白いから訂正してやらない。

 現れたギルガメッシュはおれを見て嫌そうな顔をしたが、サヤを呼び出した瞬間さらに表情が歪んで、逃走しようとしたところをエクスデスに蹴り飛ばされておれ達のところまで落ちてきた。
「敵前逃亡など許さぬぞ」
「ふぁふぁふぁ、無様だなー」
「るっせぇこのガキ! なんで俺がこいつと戦うんすか!?」
 哀れみを請うような目で見上げるギルガメッシュに、相変わらず城壁で踏ん反り返るエクスデスは聞こえないふりをする。……サヤ、何やったんだ。すごい嫌がられてるぞ。
「えっと、じゃあわたしとギルガメッシュが戦うんだね」
「うん。でも無理すんなよ」
 実をいうとシャントット博士には「ずたぼろになるまで戦わせろ」って言われてるんだよな。弟子兼実験台って、扱い酷いよなぁ。本人はあんまり気にしてないけど。
「よーし覚悟決めなよ、絶対エクスカリバーもらってやるんだから!」
「吐かせ。絶対に渡さん!」
 ……えっ、武器賭けてるのか? じゃあおれも欲しいなあ。自分で装備したいわけでもないのにギルガメッシュのあの甲冑一式見てるとどうにも欲しくなるんだ。

 溺愛してる武器が奪われるかもしれないとあってギルガメッシュも本気モードだ。普段おれ達が召喚する姿と違って、モンスターの本性をあらわし8本腕すべてに聖剣を握っている。見誤ったな、コイツけっこう鬼だった。ごめんサヤ。
 召喚獣の行動は一発勝負だ。攻撃が不発に終わっても何か為してしまえば石の中に戻される。一撃の重さで競うなら腕が何本あったって彼女の方がかなり不利だ。
「ちょっ、8本腕とか卑怯だし! しかも全部エクスカリ……ん?」
「わはははは! 勝負に卑怯もヘチマもあるかっ、この手が握りし太刀、飾りではないぞー!!」
 何かに気を取られたサヤを無視して、ギルガメッシュが全ての腕でもって容赦なく斬りかかる。思わず飛び出しそうになったおれの眼前に、空色の壁が立ち塞がった。
「エクスデス!」
「よもや邪魔立てはすまいな」
「う、」
 そりゃ召喚獣同士の勝負って言ったけど……。
 前に見た格好とは違ってサヤは戦士系のジョブだった。体格差からして勝てるわけがない。おれが負けること自体はどうでもいいけど、8本もの聖剣で斬られたら即致命傷だぞ。召喚獣が死なないと言ったって目の前で女の子が倒れるなんて、そんなのは困る。
「やっぱ勝負は止めだ! アイツを助けないと」
「どうせ――」
「へ?」
 二人へ向き直ったエクスデスが重々しい声を出した。鎧に篭って言葉は聞き取れなかったけど、いつも以上に諦観の滲んだ声だった。

 真っ二つにする気かってくらい高く跳躍したギルガメッシュをじっと見据え、すれすれの距離で攻撃を避けたサヤがよろめきながら指をさす。あれ、意外と余裕だ。
「それ……飾りじゃん」
「なぬ!?」
「青いし」
 戦闘が止まる。その場にいた全員の視線がギルガメッシュの剣に注がれた。あ、そうか、エクスカリバーって赤い方……だっけ?
「パーの方だよそれ」
「ほ……本当だ!」
 ガビーンって感じに頭を抱えたギルガメッシュを見遣り、サヤの口元に不穏な笑みが浮かんだ。相手を出し抜こうとしてるときのジタンにそっくりだ。あー、アイツの今のジョブがなんとなく分かった。
「もう選んじゃったもんねー、この戦闘で変えられないもんね!!」
 高笑いする様が彼女の師匠そっくりでちょっと嫌だ。似るな、頼むよ。
 サヤは武器を抜かない。やっぱり盗むのに専念するつもりだな。それを察してギルガメッシュも身構える。実力なら圧勝だったのに、1ダメージしか出せないんじゃどうしようもない。
「えーい、こうなりゃ破れかぶれだ!」
 勝てなくてもいい、盗まれるのはイヤ。そんな心の声が漏れ聞こえ、まっすぐ懐に飛び込んだサヤめがけて、構えた8本のエクスカリパーがぶち当たった。
「がぃん」
「……ん?」
 けっこう痛そうな音がしてサヤの口から変な声がこぼれた。斬るってより殴った感じだが、張本人のギルガメッシュも疑問符を浮かべて目の前の彼女を見る。……しばらく硬直したかと思うと、涙目で屈み込んだ。攻撃、効いちゃったんじゃないか。

「ばっつぅ」
「え、ああ?」
「1ダメージって痛い……」
 そりゃまあ、ダメージはダメージだからなぁ。エクスカリパー8本分で8ダメージ。まあ、あると思って昇った階段がなくて空振ったくらいの衝撃か。頭に食らうとけっこうな痛さだ。
 顔面にもろに当たって立ち直れないのか、頭を抱えたままうずくまっている。戦闘不能にこそ陥ってないが様子のおかしいサヤに、さすがに心配になったのかギルガメッシュも彼女を覗き込んだ。
「おい大丈夫かよ」
「……ううぅ」
「うげっ」
 いきなりのけ反ったギルガメッシュにどうしたのか問いかける。そーっとおれを見上げると、心底困り果てた顔してヤツが言った。
「……泣いてんだが」
 全然関係ないけどエクスデスはどこに行ったんだ? さっきから見当たらないんだけど、逃げたんだとしたらこの勝負はおれの勝ちってことでいいのかな。
「……酷いヤツだなーギルガメッシュ、女の子泣かすなんて」
「ええいうるさい! 悪いヤツが悪いことして何が悪い!」
「なに威張ってるんだ」
「つーか俺が悪いのか? だって勝負だろ!?」
 開き直りつつ焦りまくる男に、悪いヤツじゃないんだよなって改めて思う。正直ホントに泣いてるとは思えないんだ。女の子って想像以上にしたたかだしなー。扱い慣れてないんだろうな、コイツ。

「……ギルガメッシュ」
「おう、無事か?」
 ようやくしゃべった彼女にホッとしたのか、武器を地面に置いて頭を撫でてやる。ふて腐れたサヤがすいっと腕を動かして指し示した先、誰も居ない次元城の庭園が広がっていた。
「はっ、エクスデス様が居ねー!?」
「もう帰っていいよ」
「い、いいのか?」
 ちゃっかりコスモスが鳴らしたファンファーレを聞きながら、疑わしげな顔つきでギルガメッシュが自分の武器を探る。青い剣がしっかり8本。やっぱ偽物でも盗られたくないみたいだな。
「全部ある、盗られてないよな」
「顔面殴っといて泥棒扱いするんだ……クスン」
「だああっ、悪かったよ! じゃあな!!」
 どう考えても笑ってる彼女の口元に気付かずに、あわてふためいて送還の光で身を包む。二人のやり取りを見ておれはちょっと逃げ腰になっていた。アイツ呼ぶ時はレアアイテム装備しないでおこう。
「なぜだ……なんかとてつもなく嫌な予感がするぜ……」
「まあ、元気でなギルガメッシュ」
「おう……」
 赤い光が完全に収束すると、召喚石だけがぽつんと残された。おれを振り返ったサヤは、後ろ手に隠していた物を抱えなおして満面の笑顔になる。太陽の飾りのついた赤い聖剣――。
「借りるだけだからいいんだよ」
「おれに言われてもなあ」

「フフフッ、ついにやった! ありがとバッツ、また呼んでねー!」
 ものすごく機嫌良さそうに、サヤもまた赤い光の中に消えて行った。……エクスカリバーと一緒に。最初からあれが狙いだったのか。
「やっぱりアイツ、カオス寄りなんだな」
 エクスデス達と顔見知りだってことより、セシルと同じ世界の人間ってことに驚くべきだったのかもしれない。
 そう、たぶんアイツは、おれ達の世界に相応しいんじゃないかな。
「今度は一緒にシーフでもやるかな〜」

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