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野望

 試練の山が近いせいだろうか。私がミシディアに住み着いた途端、少しずつだがアンデッドが集まって来てしまった。折を見計らい追い払ってはいるが、気付けばまた町の周囲に現れる。
 狂暴性が薄れたこともあり無闇に人間を襲うわけではないが、居候している身としてこれはまずいのではないか。しかし、いっそ私が試練の山に移ろうかと話せばサヤが絶対に駄目だと言う。
「ああいうとこは、たまに行けばいいんだよ。住むとこじゃない!」
「お前に一緒に来いとは言っていないが」
「でもスカルミリョーネが行くならわたしもゴルベーザも行くよ」
 そういうものだろうか。揃って暮らさねばならん決まりもないのに。少しの間、試練の山で暮らすゴルベーザ様とサヤを想像してみたが、嫌だと言いつつすぐに馴染みそうなのが何と無く嫌だった。

「まだ誰も襲われてないから大丈夫だって」
「……襲わんよう言ってはあるが、そう信用するものではないぞ」
「まあそれは誰か死んでから考えるとして」
 おい。……今更なのかもしれんがサヤの将来が不安になってきた。
「せっかくいっぱい集まってるし、ゾンビを売ってみたらどうかな」
「何だって?」
 売れるものか、あれは。食っても正直まずいんだが。いや、そんな問題ではないな。思考力を失い体の腐ったモンスターに、一体どんな利用価値があるのか。誰もあれに金など出さないだろう。
「ソウルみたいなのは別で使うとして、骨とか死体なら苛酷な肉体労働に使っても誰も文句言わないよね」
「……お前やはり人として色々間違っているぞ」
「えーなんで!」
 普通は身内を奴隷にしろなどと言わんだろう。身内とは言えないかもしれんが、それにしても笑顔で言うことか。

 配下を人間などに使わせるのは気が引ける。ゴルベーザ様の御命令ならともかく、なぜ他人のために働かせなければならないのか。
「だって皆すごい力持ちだし、疲れるってことないし、怪我しても死んでるから平気じゃない?」
「それはそうだが、もっと倫理的な問題があるだろう……」
 私が言うのもおかしな話だが、あれらは元が人間なのだ。一方的に使役することに抵抗はないのか?
「土木作業とか、需要はきっとあるんだよ。大変な仕事とか危ない場所とか」
 何故だろう。あまり続きを聞きたくなかった。私を慕ってくるもの達だ。姿形がどうであれ、それなりに愛しく思っている。……サヤがそれらに雑な感情を抱いているかと思うと、何か異常な程に辛かった。
「それに、スカルミリョーネがいるから、勝手に変な仕事させられたりしないし」
「…………私も行くのか?」
「ええ? 当たり前じゃん! わたしだって行くよ!」
 放り出しておいて本当に奴隷にされたらどうするのか、とサヤは憤る。働きに出してみるのはいいが他人のものになどさせないと。
「報酬さえ受け取れれば奴らが戻って来なくてもいいのかと思っていた」
「……そんなこと考えるわけないよ」
 傷つけただろうか。こいつなりにアンデッド達を気遣っていたことに、気づけなかった。その事実を認めることになるなら謝るのも躊躇われる。

「しかし、使い道はあっても魔物を使おうという人間はそうおらんだろう」
「とりあえずミシディアには何人か欲しそうな人いるよ」
「…………」
 何なんだこの町の人間どもは! ゾンビが群れをなしていても苦情が来ないと思ったらそんなことを考えていたのか? 分からん奴らだ。
「難しいことはできないけど、畑の世話くらいならゾンビにだってできるじゃん?」
「食い物をモンスターに任せていいのか……」
「お金払うから本読んでる間に誰か食べ物用意しといて〜、って前から目をつけてたらしいよ」
 揃いも揃って貧乏人のくせに魔物にギルを払ってまで学びたいのか。もう勉強熱心と言って済むものではないな。サヤが急に真面目に学び始めたのも奴らの影響があるのかもしれない。
「ゾンビが畑作る、わたしとルビカンテがご飯用意して部屋まで出前して、それ続けてたら畑譲ってくれる人もいそうな雰囲気だよ。宿屋も酒場も出前に手を出す気はないみたいだし食を握っちゃえばこっちのもの! 将来的にミシディアの支配者になるのも夢じゃない!!」
 どうしたらいい。どこで育て方を間違えたんだ。私が育てたわけではないが。そろそろミシディアの者達も学問以外に目を向けるべきだ。このままサヤが金の亡者になってしまったら……。
「わたしねー、お金持ちになったら、冷蔵庫買ってすごい大きいアイスクリーム食べたいな」
「そ、そうか」
 何と言うか、目を煌めかせる様を見ていたら色々な意味で悲しくなった。

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