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あほづら

「サヤ、あんこついてる」
「んっ?」
 振り返った顔はわりと間抜けだったけど、それもかわいらしい。美味しいもの食べるとき、本当に幸せそうな表情になるのね。……ただの団子なのに。普段なにを食べてるんだろう。
「取れた?」
「まだついてるぞー」
 横から手を出したエッジがぐいぐいと乱暴にサヤの口元を拭った。この二人って妙に仲いい……同レベルなのかしら。何がとは言わないけど。
「あっ!」
「おお!?」
 ふと見つめ合いながら通じ合ってる二人。何か悪巧みしてるような間があいて、やけにキラキラした瞳で二人してあたしを見つめてくる。あんこ、まだ取れてないよ。
「エッジも口んとこついてるよ!」
「お、そうか? どこだ?」
 なんであたしを見るのかな。分かってあげないよ。こういうところを見てると、サヤの好む性格っていうのが分かってくる気がする。どっちかと言うと世話の焼ける人が好きなのね。それと……あとは止めとこう。ゴルベーザ達に怒られそうだし。
 視線を受け流してみても、二人は根気よく望む展開を待ち続けてる。耐え兼ねてハンカチを差し出したら鏡みたいな揃った動きで落ち込んだ。
「……ありがとよ」
「そんなことで気落ちしないでよ、もう」
 なんだかあたしが悪い気分になるじゃない。事実、ちょっと楽しいし。
「打たれ弱いなぁ」
「エッジは紙装甲だもんね」
「あはは、紙だって。エッジ紙、あははは」
 乾いた笑い声をたててみたらエッジがいじけた。どうせすぐ持ち直すわよ、なんて思う間もなく、ぐぐっと力を込めて。
「……喜んでもらえて嬉しいぜ!」
 喜んでないわ、からかってるだけよ。

 なんか、嘘みたいに平和ね。まだ傷跡の消えない土地は多いのに、蘇るための強さはどんどん増してるみたい。たまにこうやってのんびりする余裕があるんだから幸せかな。
「お前、今日は誰と来たんだ?」
「ルビカンテじゃないよ」
「いやそれは聞いてねーし……」
 エッジとサヤの会話を聞きつつ辺りを見回してみる。誰もいない。そりゃあそうか、街中に四天王がいたら大変だもんね。
「今日はカイナッツォが付き添い。外でなんかしてるみたいだけど」
 バロンには連れて行かないあの人、……人? のことね。そういえばルビカンテもエブラーナに来る時は一緒じゃないわ。サヤがいなくても勝手に来てたりするけど。
 あたしのとこに遊びに来るときは、ゴルベーザだって四天王だって気にせずにいるのに。おおらかに見えて裏で気を使ってる。ミストに来るのに重荷がないのなら、それはとても嬉しいことだった。
「……どいつだっけ?」
「青いカメだよ」
 身も蓋も無いわ……。それですぐに分かっちゃうエッジも、なんだかなぁ。
「あー……、オレの苦手なヤツだな」
「えっ、そうなんだ。意外」
 ね、と首を傾げたサヤに頷く。苦手なのはルビカンテじゃないのね。壁を越えるのに時間はかかったけど、今はあの人と、なんだかんだ言って好敵手として接してる。そういう懐の広さ、好きだよ。調子に乗るから絶対言わないけどね。

「なんで苦手なの?」
「だってあいつ水だぞ」
 だって、って言われても分かんないわ。水だから苦手ってそんな理由、まるでルビカンテみたい。
「エッジって魔法そんなに苦手だった? 言ってくれたらあたしやローザがフォローするのに」
「いや、魔法はべつにいいんだ。……あの大技がなぁ」
「え〜っ、津波ぃ?」
 あれのどこが強いのよ、なんて顔をしながらサヤは少し嬉しそうだった。けっこう親バカだね。ゴルベーザ達のこと褒められたらすごく喜ぶもの。いつかセシルもこれくらい素直になれるわよね。
「あの体勢に入られると緊張しちまうんだよな」
 ……だけどエッジの速さなら、水集めてる間に逃げるとか、隙を見て雷迅を放つなりできそうな気がするけど。もしかして泳げないから水が怖いとか? ……それはないよね。あまりにも情けない。
「あのさ」
「んん?」
 あたしと同じくちょっと考え込んでたサヤが、怖ず怖ずと顔を上げた。
「……マスク取ればいいんじゃないの」
 ああ、それかぁ。そうだね、確かにそんなのつけてたら水が怖いよね。息ができないってすごい苦しいもんね。……ああもう、ホント馬鹿なんだから。
「ばっか、これ外したらオレかセシルか見分けつかねえだろ!」
「何言ってんの? 余裕で分かるよ全然ちがうもん」
「自惚れも程々にしてよね、エッジ」
「……ごめんなさい」
 切り返しは早すぎて、エッジの目に涙を溜めるに充分だった。白髪ってことしか共通してないじゃない、自意識過剰だよ!
「エッジのばか」
「ばーか!」
「お前らなあ……可愛いじゃねえか!」
 そういうエッジだってけっこう可愛い。って言ったら怒るかな、照れるかな。根っこの部分でちっとも変わってない、その明るさに……昔から、救われてたんだよ。
「口元、拭いてあげる」
「リ、リディア、どうしたんだ!?」
 ちょっと感謝の気持ちをあらわしてみようかなって。……でもね、そのにやけ顔はやめて、サヤ。
「オレ幸せ……」
「よかったねよかったねエッジ」
 なにも二人して泣かなくたっていいじゃない。

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