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記憶容量

 実際に立ってみると、他のどこの山とも違いがわかんないけど。わたし、前にもここに来たことあるんだよね、試練の山……。その時には今いる場所がどういう所なのか、全然わかってなかった。
「スカルミリョーネは、パロムとポロムのことどう思ってるの?」
 こんな風に、生き返ったとはいえ自分の死んだ場所に立って。そのシーンをこの目で見てはいないけど、何が起きたのかだけは知ってるから。正直、わたしにもちょっとだけしこりが残ってる。

 黙ったまま遠くを見つめる姿に神妙な気持ちになった。わたし達とあんまり気兼ねなく話してくれるのは、ルカだったりエッジだったり、遠い人達だ。四天王にとって「知ってる人」なんてのはつまり、自分を殺した人になる。
「もし嫌なんだったら、わたしは別にミシディアでなくたっていいんだよ」
 本当に、人のいないところでも構わないって思う。山の中は嫌だけどさ。ゴルベーザだって、ちゃんと人間の中で生きなきゃとか考えるような歳でもないんだから。わたし達はわたし達で生きていけるなら、それだけでもう……。
 あっちも神妙な顔つきで振り返ったスカルミリョーネは、町の方を睨むみたいにして言った。
「分からんな。誰だそれは」
「……殴ってもいい?」
「良くない」
 ここまで来てそれはないよ! 人数が多すぎてとかじゃなく最初から覚える気がなかったんだね。あの二人とはそれなりに会話も交わしたはずなのに。
「あの、祈りの館に住んでる双子だよ」
「ああ……。それで、奴らと私に何か関わりがあるのか?」
 いや、一応同じ町に住んでるんだから、っていうかそれ以前に、ホントに何も覚えてないの? 向こうはけっこう根に持ってるみたいなんだけど。
「だから、ほら、前に……ここで戦ったでしょ」
 ちょっと意外そうな目でスカルミリョーネが辺りを見回す。背後に祠があって橋があってその先にキャンプ地点。場所は間違いない。
「……奴らもいたのか?」
「い、いたはずだよ。今よりもっと小さかったと思うけど」

 あれこれ説明してみた結果、スカルミリョーネはやっぱり覚えてなかった。なんかいろいろ居たけどセシルしかわからないって。あの双子だって初対面だと思ってたって、パロムにばれたらまずそうなことを。
 うん、わたしもポロムを見た時は「えっこれがポロム? あのポロム? ピンク?」なんて戸惑ったけど、スカルミリョーネのはそういう次元じゃないよね。
「他人に興味なさすぎるのもどうかと思う」
 自分を殺した相手のことまで忘れるかな、普通。カイナッツォも忘れたって言ってるけど、あれは煽ってるだけだもん。それもちょっと問題行動だけど。
 バルバリシア様だって……あの場にいたメンバーは執念深く覚えてるし、ルビカンテもセシルやエッジのこと、恨んでなくても印象には残ってる。
「くだらん記憶を抱えておく余裕などない」
「……そんなこと言わないでよ」
 じゃあわたし達の今までって何だったの、って悲しくなっちゃう。もしかして、ゴルベーザがいなかったらわたしのことも思い出してもらえなかったのかなぁ、とか。
 勝手に落ち込み始めたわたしに、少し慌ててスカルミリョーネが付け足した。
「他に抱えておきたい記憶があるというだけだ」
 なんかあんまりフォローになってないけど。拗ねて返事をせずにいたら、あっちもふて腐れてそっぽ向いてしまった。……。

 パロムもポロムもまだ小さくて、会ったこともなくて、存在は頭の隅にあったけど思い出しもしなかった。
 今こうして自由な未来が手に入ってみれば。そりゃあ、仲良くなるってのは相性もあるから無理強いはできないんだけど、せめて恨みつらみは晴らしてほしいな。先々のためにも、お互いに。
「……前に、一緒にここに来たよね」
 祠の方までは来なかった気がするけど、周りがアンデッドばっかりで安心なのか、よく遊びに来たように思う。まあ、実際には「いやあれはホブス山だよ」なんて言われたら区別がつかないけど。
「……あそこから落ちて来ただろう、サヤ」
「うん?」
 身を乗り出して指差された方を見つめてみる。そういえばそんなことあったっけ?
 ああ、いつもの事ながらスカルミリョーネが全然わたしに注意を払ってないから、驚かそうと思って。で、こっそり上から飛びついたらびっくりするかなって思って登って、足滑らせて落ちたんだ。
「よくある話だよね、うん!」
「あって堪るか」
「っていうか、しょーもないことは覚えてるんだねー」
「だから、それを覚えておくために……、……もういい!」
 いや、なんで怒ってるんだろう。まさかあの時のことでまだ不機嫌なんじゃないよね、さすがに。

 仇だとか死に場所だなんて、恨みと一緒に覚えてるよりはいいのかもしれない。今度はあの二人と、レオノーラさんも連れて遊びに来てみようかな。
「カイナッツォはアレだけど、スカルミリョーネならきっと打ち解けてくれるよね」
「……アレ?」
 アレって言ったらアレだよ。最初からお互いの印象最悪なのに更に煽ろうとするんだもん、アレだよ。
 意外にセオドアやルカとは話が合ってるみたいだけど。あ、アーシュラとも普通に話してたかな。そういやわたしにも別に愛想悪くなかったかも。も、もしかして……。
「カイナッツォって子供好き?」
「あれの何処をどう見てそうなる」
 そうだよね。びっくりするほど似合わないよね。
「よく考えたらスカルミリョーネもセオドアには甘い?」
 ルビカンテも、バルバリシア様だってちょっと態度を変えてる気がする。人徳かな、やっぱり。逆らえないオーラ出てるし。パロム達は軽くあしらえちゃうのがダメなのかも。
「……何も奴に甘いわけではない」
「でもほら、セオドアは覚えてるじゃん」
「ゴルベーザ様の身内だからだ」
 ああそっかぁ、そうだった。甥っ子なんだよね。似てないけど。似てほしくないけど。ううっ、なんかキンニク予備軍みたいに言われたらしいし。わたしがその場にいたなら絶対に訂正させたのに!
「それにサヤが……」
「え?」
「お前が、甘いからな」
 ん……? わたしが、セオドアに? まあ自覚はしてるけど。……だから皆もセオドアには甘いってこと? それって。

「他の奴らはどうでもいい。区別をつける価値もない」
 成長しちゃったパロム達にはわたしの方でよそよそしさを感じてるから、スカルミリョーネ達も近寄らない……ってこと?
「よし、決めた。わたしも含めて親睦会を開こう!」
「……別に誰も彼もと打ち解けんでもよかろう」
 そんなことわかってる。だから、誰か普通に会話ができる人がいればとりあえず他はいいかなって思ってる。でも双子だけは別なんだもん。
「今はミシディアに住む気でいるんでしょ?」
「まあな。居て問題が無いならば他を探すのも面倒だ」
「じゃあやっぱり、パロム達とは打ち解けとかなきゃ」
「……何故?」
「だって絶対どっちかが次の長老だよ! しかもたぶんもうすぐ!!」
 カイナッツォがアレな分だけ、わたしも媚びとかなくちゃ。バルバリシア様はマイペースに馴染んできてるし、ルビカンテも真摯な態度でそこそこ受け入れられてる。
 スカルミリョーネだって初対面の印象はアレだけど本当は優しいんだから、双子とだって仲良くなろうと思えばなれるはずだよ。
「実権握る人と険悪なままじゃ困るからね!」
「……誰の影響なんだ……全員が悪いのか……?」
 で、どうして落ち込んでるのかな。言っとくけどわたし最初からこういう性格だよ。

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