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止め処ない

 とりあえず落ち着いた、って言える状況になって、「どうして?」と聞いたのは意外にもバルバリシア様だった。どうしてあたし達を引き戻したの? って。
 もちろん責めてる口調じゃないし、変に重く受け止められてもいない。ホントに単純に疑問を感じただけって言い方が、とても気楽だった。
 だってずっと会いたかったし、まだ一緒にいたくて、生きててほしかったんだ。……なんてことはもう知ってるだろうし、バルバリシア様が求めてるのは他の言葉。もっと根本的なもの、かな。

「わたしだけじゃ足りないかなって思ったんだ」
 ゴルベーザのために生きる人。罪を意識しないで一緒にいられる人。ともに過ごして「普通」であれる仲間。
「皆がいたら大丈夫なのになぁ……って。怒る?」
「怒るわけないわよ」
 何でもないことみたいに肩を竦めて、心底嬉しそうに笑ってくれた。バルバリシア様は素直な分だけ表情の変化が破壊力抜群だと思う。
「サヤがゴルベーザ様を想うこと、腹立たしいはずないでしょう?」
 望みは同じだって言ってくれる。その言動を問わずに大切だって言ってくれる。
 わがままだって思うけど、やっぱりゴルベーザが大事だ。……あんなに失ってしまった人だから、きっとたくさん、すべてを捧げてあげられる人が必要なんだ。わたしは人間でまだ子供で、きっと自覚してる以上に弱いから、何度決意してもひっくり返してしまう。
 わたしだけじゃ受け止めきれない。他にも絶対に必要なんだよ。
「それに、誰のためでもサヤがあたしたちを求めてることには変わりないもの」
 さすがだバルバリシア様。でもそれがゴルベーザじゃなく他の誰かなら、もんっのすごく怒るんだろうな〜。それも今じゃ嬉しかったりするけどね。

 人間はだいたいが自分は特別だって思いたいものだし。わたしは何のためにここにいるのか、何ができるのか。そんなこと考えても無駄なのにやめられなくて、悩んで苦しんだあとには結局なにかを諦めるはめになる。
 運命なんて偶然の積み重ねだ。ゴルベーザが世界を憎んだことも、ゼムスがすべてを憎んだことも偶然。……偶然は、必然だ。
 例えばわたしが最初に会ったのが、セシルだったら? 「主人公」の傍で、ハラハラしながら「物語」を見てるだけだったはず。楽しんで悲しんで笑って傷ついて、そしてハッピーエンドを見届けて、二度とここには来なかったんじゃないかな。素敵な必然だ。未来を知ってることに気負いはない。
 だけどそれは有り得ない過去。だってセシルはわたしを呼ばないから。わたしのこと、必要としてないから。自分を支える強さがあって、周りを守る強さもあって、だから返ってくる光も大きい。
 ゼムスがいたからわたしが呼ばれたんだ。相手があの人だったから。運命って、あえて言うなら、出会ったことが運命だね。

「わたし、ここに来てよかったって思うよ」
 あっちの世界じゃ生きてるってこと、こんなに強く実感しなかったもん。虚しく生きてたわけじゃない。充実してたし楽しかった、同じだけ辛く苦しかった。捨て難いだけの重みがあるから、ずっと未練も残される。
 ……この世界に来たから、生まれたんだ。こんなにも大切だって気持ち。どちらの世界も。
「ねえ、サヤ?」
 なんだかいつもよりずっと静かな声だった。バルバリシア様のまっすぐな視線が、わたしの目を貫くのを感じる。
「悪いけど、あたし、あなたを帰さないわよ」
 もじもじしながら言う仕種が、わがままを言い慣れない優等生が無理してるみたいで。変な感じ。遠慮なんて、らしくない……けど可愛いなあ。
「……そういえば、まだ言ってなかった」
「な、なにかしら?」
 挙動不審だ。なにを言われるのかってドキドキしてる。まあ、すっごい今更なんだけどね。
「おかえり、バルバリシア様」
 えっ、と呆気にとられたあと、同じ言葉を返してくれた。帰って来ちゃったんだもん、もうここで生きるしかないよね。
 あっちで生まれたわたしも捨てられないから、仕方ないって気持ちもある。だけど。
「やっぱりここに来てよかったよ」
 結局、しみじみ沸いて来るのはそんな想いだ。

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