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帰還

 青き星に帰り着いて、ゴルベーザ様のお戻りを待つための場所は驚くほど簡単に決まった。サヤがミシディアの知人を頼り、町の主に交渉したからだ。世界がいくら荒れようとも魔物である我等には関わりがない。何処に落ち着こうと同じことだ。……しかしサヤを抱えている限り、少なくとも屋根のある寝床が必要だった。……ゾットの塔が残っていれば苦労もなかったのに、壊れてしまったからな。誰のせいかは口に出せんが。

「他に必要な物はありますか」
「うーん……なんか、暇潰せそうな本とか?」
「白魔法の入門書でよろしければポロム様の愛読書をお貸しできますが」
「いらない。絶対おもしろくないと思います」
「そうでしょうね」
「……そうでしょうね?」
 サヤの生活の問題を解決したのは我等ではなかった。魔物を引き連れたサヤを平然と受け入れ、町の外れに住家を用意し、今もバルバリシアの殺気を意に介さず話し込んでいる。……当面の食料や衣服に粗末な寝台まで持ち込み、廃屋を一応の住居に仕立てたのはこの白魔道士だ。
 深く被ったフードと不可思議な音程で発する声のせいで性別も分からない。町の人間は突然の来訪者を不審がり今も拒絶しているのに、あの館の住人だけが例外だった。
「それでは私はこれで失礼します」
「あれ、もう帰っちゃうの」
「そろそろ出歩くのも困難になりそうですから。食料が尽きたら御自分でなんとかしてください」
「は……、はい。いろいろとありがとうございます!」
「いえ。お気をつけて」
 万事淡々とこなし去って行く後ろ姿が扉の向こうに消え、待ち構えていたバルバリシアがサヤに絡んだ。壁が風で軋んでいる。カイナッツォやルビカンテは滅多に激怒することもないが……こいつが怒ると厄介だ。家が壊れる。そこまで馬鹿ではないと祈りたいものだ。

「……もう結界を張るわよ、いいわね!」
「うん、いいよー」
「お前な……こいつがなんで怒ってるか、分かってんのか?」
「わかってる。ヤキモチだよね!」
「喜んでどうする……」
「ともかく早々に住む場所が決まってよかった」
 サヤがミシディアに滞在した期間など短いものだという。あの白魔道士にしても大して親しいわけではないと言っていた。こうも簡単に話が進んだのが不思議だと、当のサヤが訝しんでいたのだから。我等に罪悪感などない。ゴルベーザ様が過去を罪と感じ、償おうとしていても……それに協力しようという気こそあるが、我等自身に贖罪の意志などわくはずもない。
 ミシディアとてあの戦いで死者が出た。背後にいたのは我等であり、ゴルベーザ様だ。……なぜ受け入れる? 何かの罠ではないのか。本当にこの町に留まることが正しいのだろうか。

「……うわっ、スカルミリョーネ!」
「な、何だ……」
「今気づいたけど、パッと見トンベリっぽい!!」
「…………」
「……トンベリ?」
「サヤ……それは何なの?」
「聞くなよ、どうせくだらねえんだから」
 カイナッツォに同意するのは不愉快だが、今この時にわざわざ言うべきことじゃないのは確かだろうな……。相変わらず悩みの乏しい奴だ。あれこれ考えている自分が間違っているように思えてくる。……くだらない。人間共の思惑など知ったことか。ゴルベーザ様がこの地にお帰りになるまでサヤを守り通せばいいだけのことだ。何かあればこんなボロ家は捨ててしまえばいい。

「……じゃ、とりあえず、お風呂入ってくる。バルバリシア様が覗かないように見張っててね」
「引き受けた。安心して行っておいで」
「ちょっと、普通逆じゃないの!?」
「いや、どう考えてもお前が一番危ねえだろ」
「……同感だ」
 数日は食料の心配もない。四人掛かりで結界を張り見守っていれば安全面も問題ない。しかし……どうも不安だ。ゴルベーザ様の指示もなく、人間のための気遣いなど我等にできるものだろうか。何が足りず何をすべきなのか、一つも分からないのに。サヤが求めるものの内、どれが真実必要な物なのか……私には分からない。
「……どれほど待つのかしらね」
「さてなぁ。まあ、すぐに戻られることを願うしかない」
「私達とサヤでは時間の流れも違うからな。短い時間で済めばいいが」
 ただ相手をしていればいいわけではない。今度は共に生きなければならない。もう、それを選んでしまったのだから。

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