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嫉妬

 魔物の攻勢が激しくなってきて、そう簡単には休息もできなくなっている。若い奴ほど周りに気を遣って無理をしているようだが、俺達の方でもそれを宥める気力がなくなりつつあった。
 ついてきていれば、そろそろ心身共に限界だっただろうか。随分と弱音を吐くのに慣れてきていたし、四天王もいた。限界を超えてでも傍にいたかっただろうに……。それはゴルベーザとて同じはずだ。だから、連れて来たのに。
「本当によかったのか? 帰してしまって」
 いくら願おうと俺達が生きて帰れる保証はない。せっかく再び会えたのに。もう二度と会えないかもしれない、その恐怖は互いにあったはずなのに、ゴルベーザもサヤも……いともあっさり離れてしまった。

「……カイン。この先何が待っていると思う」
「何?」
「次にクリスタルから現れるのは、一体何だ?」
 メーガスにルゲイエ、四天王……バブイルの巨人までも復活した。次は何が? 最奥には何が待っている? ……何だろうと関係ない。俺達はそいつを倒してこの月を止め、帰るべき地を守るだけだ。だがサヤは……。
「サヤが四天王を呼び戻したのを見て、私は恐ろしかった」
 かつてはゼムスに召喚された身。だが奴はもういない。今サヤをこちらに引き込んだのは何者だ。彼女自身も気にしていたじゃないか。何のためにここにいるのかと。
「この先に待っている存在こそがサヤを呼び出した者ではないのか。そしてそこに意味などないのではないか」
「あいつらを帰したのは、その者に会わせたくなかったからか……」
 これまでに出くわした魔物のごとく利用するために……あるいは意味もなく、再生されただけだとしたら。たしかに彼女や四天王を連れて行くわけにはいかない。ましてこの先もしも、ゼムスがいたら。サヤが奴の元に走らないと言い切れるだろうか。

 奴は四天王とは違う。受け入れられる者など誰もいないだろう。ならサヤはどうするのか。どうしたって同じじゃないか。
「……お前、サヤと少しは話したのか?」
 無言のままあらぬ方を見るということは何も言わずに帰してしまったんだな。何やってるんだ一体。ゼムスに操られていた時の方がまともに接していたんじゃないか。ああ、だから再会を恐れているのか。
「サヤは……私の意図を分かっていたはずだ」
「相手に理解を望むな。分かっていたとしてもきちんと話すべきだ」
 身勝手すぎるぞ。まあ、あいつの方にも言えることだが。怖かろうと恥ずかしかろうと、口に出さねば伝わらない。……伝わらないことの方が多いんだ。

「もし四天王のように、ゼムスが現れたとしても、サヤは」
 ゴルベーザの表情が変わった。甲冑がなくなっても感情の見えにくい男だと思っていたが、こうして見ると分かりやすい奴だな。
「ゼムスが現れても、サヤはあいつを受け入れなかったと思う」
「そんなはずはない」
「四天王を強引に引き込んだのは、そうしても誰も傷つかなかったからだろう」
 というか、主にお前が。ゼムスは違う。奴を受け入れることはゴルベーザを拒絶するのと同じだ。……サヤがそれを選ぶわけがない。
「……お前には分からない」
 分かってないのはそっちだろう。あいつは既に選び取っているんだ。もう、ずっと前から。……って、俺が言っていいことでもないんだが……下手に口を出すと妙な展開になりそうだしな……。セオドアにでも任せようか。当人同士に任せられるなら悩まずに済むんだがな。

「私は彼女の声を聞いてしまったんだ。サヤが最後に帰ったのはゼムスの元だった。サヤが選んだのは……!」
「なんだ……嫉妬か」
「……悪いか?」
「そんなもの過去の話だろう。あの時とでは状況が違う。今のサヤと長く一緒にいたのは俺やセオドアだぞ、もっと信用しろ」
 いや、嫉妬心に駆られている相手に今のはまずかったか。別に妙な意味で言ったわけでは……殺気立つのはやめてくれ。
「大事に守って何も言ってやらないんじゃ、あの時と同じになってしまうだろ」
 拗ねているのか何なのか、返事はない。まあ聞こえてるならそれでいい。
「帰ったら充分に話し合うんだな」
 こいつよりサヤを促した方が早いか……。あいつはまだ若い。精神も未熟だし、無謀だし思慮も浅い。だから突っ走ることができる。今のうちに、あいつに引っ張ってもらえばいいさ。

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