─back to menu─


青き星へ

 サヤを先に青き星へ帰す。嫌がるならば気絶させてでも安全な場所へ。……そう決まったはいいが、どうやって帰したものか。そもそも彼女には内密でという話だったのに、いつの間にか本人が話の輪に加わっているのは何故なのだろう。
 ゴルベーザ様を置いて戻る事に反発するかと思ったが、渋々ながらも納得しているようだ。何度待たせる羽目になるのか……ゴルベーザ様もお心苦しいだろうな。

「魔導船は使えないし、どうやって帰ろっか。やっぱ魔法?」
「そうねえ……でもテレポやデジョンで帰れるものかしら」
「遠すぎて何とも言えねえなぁ」
「ああいう魔法って空間だか次元だかを捩曲げるんだよね。距離なんか関係あるの?」
「関係無いとは言い切れんな。目的地が遠くなるほど負担もでかい」
 そこまで長距離の転移は試したことがないからな。四人がかりでテレポートさせるしかないか。どうせ知られてしまったなら開き直ってゴルベーザ様に手伝って頂く事も可能だ。事情を話せば協力してくれる人間もいるだろう。こうして考えれば、サヤが一時彼等の元にいたのは幸運だった。
「まー、大丈夫だよね。元の世界に送るよりは簡単だと思うよ」
「あまり比較にならん気もするがな……」
 そうだ、転移先は私達の見知った場所でなければならないな。何か目印がなければどこに飛ぶかも分からない。果たしてあの星は今でも変わらずにあるのだろうか。ゾットの塔が残っていれば話は早いのだが……、やはりミシディア辺りが適当か。あの町は遠くからでも見つけやすい。

「……一人は先に帰ってサヤを迎えるべきではないか?」
 横からスカルミリョーネに言われるまで考えもしなかった。無事に青き星へ辿り着いたとしても、あちらの状況も分からないのに彼女だけを留まらせるわけにはいかない。確かに、安全を確保しつつ他の三人を待つのが万全というものだ。
 何かを守り抜くというのは想像以上に大変なものだな。どうしても自分の視点で考えて、身の安全を二の次にしてしまう。ことサヤに関しては手慣れたカイナッツォやスカルミリョーネに任せた方がいいのかもしれない。
「……ねえ、わたしが戻ったあと、残り三人はそのままここで皆と一緒に戦うってのはダメかな」
「それはできないわ。ゴルベーザ様はあたし達があなたを守る事をお望みだもの」
「んじゃせめてルビカンテくらいは残るとか」
 な、なぜ私だけ残るんだ。いや確かにゴルベーザ様のお傍で戦う方が気も楽なのだが、
「それならいいんじゃないの? 一人ぐらいなら残ったって変わらないわよ」
「残るのがルビカンテなら奴らから見ても妥当な所だろうな。オレは絶対残る気しねえが」
「……どうでもいい」
 邪魔者扱いなのか、私は! 何故ここぞとばかりに舌が回るんだお前達。言うに事欠いてどうでもいいはないだろうスカルミリョーネ……。

 サヤと接する時間が少なかったからなのか? ゴルベーザ様が彼女を青き星へ連れ帰れと命じられたのも私ではなかった。知らぬ間に思い上がっていたのだろうか。そうだな、戦いに負けてここにいるのが何よりの証ではないか。時の流れから取り残されていた私に強者としての自負など……。
「いやあの、ルビカンテなら一人でも戦力になるし、一番協調性あるからってだけで……聞いてる? 勝手に落ち込むなこらー!」
 しかしそれとこれとは別問題だ。……全員で戻らねば。あちらとて何が起きているか分からないのだからな。今の私の使命は、生きてかの星に戻ったゴルベーザ様の手を取るその時まで、サヤの心身を守り抜く事だ。
「まあ、残る残らんはどっちだっていい。誰が先に帰るんだ?」
「あたしは絶対イヤよ! サヤをお前達の元に残して待ってるなんて!」
「……他が戻るまでこいつを守るというなら私も向かんだろうな」
 だが果たして私がいても役に立つのだろうか。守るだけなら来た道を引き返して魔導船に詰め込み監禁するという方法もある。それをしないのはゴルベーザ様が万が一を考えておられるからだ。
 この月に残ったまま待つべき存在を失えば、彼女は間違いなくあの方の後を追うだろう。ならばいっそサヤの言うように私は残りゴルベーザ様をお守りすべきではないのか。二人とも生き残らねば意味がないのだから。しかしそれではご意思に逆らう事になる……。
「んじゃ、オレかルビカンテか? ……おい、いい加減戻って来い!」
「あ……ああ、そうだな。送還の際に何かあってはまずい。私はできればこちらからサヤを送りたいが」
「そーだね。ルビカンテが向こうにいたら、こっち収拾つかないもんね」
 この三人のことだ、内輪揉めして話が進まなくなりかねない。待てど暮らせど守るべき者が帰って来ないという展開も有り得る。……情けなくなってくるな。

「……ではカイナッツォが先に帰り、それを目印にサヤを送り込むということで」
「ちょっと待ちなさい」
 割り込んできたバルバリシアがいつになく神妙な顔をしていた。何か重大な見落としでもあっただろうか。結局のところやってみるまで安全性が分からない、博打のようなものだ。だからこそあらゆる危険を想定しておかなければ……。
「駄目よ、それではあたし達が戻るまでの間サヤとカイナッツォが二人きりになるわ!」
「…………問題外だな」
「ああ。最初から考え直す必要があるようだ」
「どういう意味だてめえら」
 身内に危険があるとは盲点だった。一体どうすればいいのだろう。攻め滅ぼす算段なら容易に浮かぶのだがな。やはり魔物に何かを守れというのは無茶な話だ。

「あー、話し合い終わったら呼んでくれる? わたしセオドアのとこにいるから」
「待ちなさい! あなたが決めればいいのよ、誰と二人きりになりたいのか」
「……論点がズレているぞ」
「誰だって同じようなもんだろうが、めんどくせえ奴だな」
 ゴルベーザ様には申し訳ないが私も面倒になってきた……。カイナッツォが駄目だと言うならバルバリシアは更に危険だ。サヤが送り込まれた瞬間、目の前の状況だけを見て使命を忘れ、彼女の手を取って連れ去りかねない。
 そういう意味で安全なのはスカルミリョーネだが、たどり着いた場所が魔物の生息地であった時に彼では周囲の危機から守るのには向かず……もう何も考えずにゴルベーザ様共々魔導船に詰め込んでどこか違う星へ飛び去ってしまいたい気分だな。

「わかった。もう運で決めよう。文句一切なしね! とりあえずこれがルビカンテ」
 サヤが左手の人差し指を立てる。運とは籤引きでもするのだろうか。今更それでは格好がつかないが、ここまで揉めては仕方がないか。順に中指をバルバリシア、薬指がカイナッツォ、小指を立ててスカルミリョーネの名を挙げる。どうやって選ぶのかと見守っていると、サヤは背を向けて駆け出した。
「セオドア、どれか一本掴んで!」
「えっ? えっと、じゃあこれで……」
 戸惑いながらセオドアが掴んだ指を見て、何故か嬉しそうな顔をして「仲間意識……」と呟いた。意味はよく分からないが、これで決まるのなら最初から本人に決めてもらえばよかったな。
「じゃ、これで決まり。文句なしだからね!」
「まあいいわ、カイナッツォよりはマシだし」
「つーかああやって出されたら、なんとなくで人差し指掴まねえか?」
「余計な事を言うな。また駄々をこねられては困る……」
 横でバルバリシアが睨んでいるのでもう遅いと思うぞ。……本当にこれでいいのだろうか。私があちらで待っていて、サヤは無事に帰って来るのだろうか。……念のためゴルベーザ様に報告しておくか。

「では、私は先に戻って待っていよう」
「サヤを転移させてから、我等もすぐに青き星へ帰る」
「なんかもったいないなぁ。ちょっとでも戦力がほしい時なのに……」
 ゴルベーザ様はサヤを連れて帰り全員で守れと仰せだ。何を考えようと、とるべき道は最初から一つ。ここに残ることができればとは思う。だがもし実行すれば、私は身動きが取れなくなるだろう。ともに戦う人間全てを気遣うことなどできない。私が守るのはゴルベーザ様だけだ。
 ……それでもあの方は、弟を、その家族を、その仲間を守れと命じるだろう。誰かが欠けて帰ればサヤもまた悲しむ。
 それがどんなに辛く慣れないことでも、今は共に待つ事が私の役割だ。繰り返す訳ではない。新たに始めるのだと、あの少年を見ていると、信じられる気がする。

|



dream coupling index


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -