─back to menu─


興味

 目が合って、それが即逸らされたって、それだけだ。何となく呼ばれてる気がした。こういう直感には乗っといた方がいい。隣を歩くレオノーラに「サヤと話してくる」と言い置くと、頷きつつ微妙な顔をされた。
「……なんだよ?」
「い、いえ、なんでもありません」
 素直に言えばいいのに。……別に言ってほしいわけじゃないけどな。
 背後に視線を感じながら、まだ話したこともない奴の元へ向かう。その横にいる何かはとりあえず見えないことにしとくか。
「うわっ、来ちゃったよパロム」
「……その言い方はひどくないか?」
 口だけはゴメンと言って、悪びれない顔でサヤがオレを見つめた。くどいようだが隣にいる野郎はオレには見えない。
「やっぱ育ってるの変な感じ。ちっちゃいパロムも見てみたかったなぁ」
「なんだよそれ。……ポロムに何か聞いたのか?」
 途端に幼い頃やらかしたあれやこれやの記憶が蘇ったが、サヤはそういうんじゃないと首を振った。ポロムとだって面識があるし、デビルロードじゃあいつらとも行動を共にしたっていうんだ、嫌な予感しかない。陰で何を言われてるやら。
 ちらっと見えないはずの青い影を見てすぐにそっぽを向いた。……まさか、こいつから聞いたんじゃないよな。ありえない。しかしさっきの視線が気になる。
「……ちっちゃい時のパロムがどんなだったかとか、覚えてないよねぇ」
 視界に収めるのも嫌だってのにサヤがしゃがみ込んだ。魔物なんかと視線を合わせて、よりによってオレのことを問い掛けるなよ。

 興味はあったんだ。誰とも違う視点からこの戦いを見てる、異世界の人間のこと。どうせそのうち消えてしまうなら、早くいろいろ聞いときたいと思ってたのに。
 無言の時間が長々と続き、やっと奴が口にした言葉でオレの腸が煮え繰り返った。
「覚えてるも何も、オレはこんなガキ知らんぞ」
 がくりとうなだれたサヤが溜め息をつき、見た目通りに頭の中まで鈍重な奴に説明する。
「カイナッツォが壁で押し潰そうとして阻止された時の子供だよ」
「お前がオレ達に殺された時のことだ」
 あえて避けただろう言葉をわざわざ口に出してやった。勢いで言って少し不安になったものの、サヤが傷ついた様子はなくてホッとした。
 オレも相当根に持ってるみたいだ。だけどこの野郎の、人を馬鹿にしくさった態度が心底ムカつくから仕方ない。知らないだと。その顔、どう考えたって覚えててわざと言ってんじゃないか!
「……思い出したくないなんてガラじゃ、ないよね?」
「そういうわけでもないが、お前はオレの死に際の話を聞きたいのか」
 問い返された瞳が痛ましく歪んだ。ああ、ポロムがしばらくこいつらに近寄りたくないって言ってたのはこういうことか。オレ達の言葉には揺らがない。サヤを動かすのは、こいつらだけだ。
「だって、もう関係ないじゃん……もう、生きてるんだから」
 執着してるんじゃないのに。この世界に生まれた存在じゃない、ここで唯一、完全な共感を得られない少女が……オレ達じゃなく魔物を選んでる。そこで腹立たしさに支配されるなら救いもあったのに。自分の未熟さまで感じてしまって、やり切れない。

「何ならもう一度殺してやろうか? はっきり思い出せるようにさ!」
 かつてのようにロッドを構えると、サヤの眉がひそめられた。悲しそうな目で見るなよ、分かってるよオレが悪いよ。でもサヤに対してだけだ。……こいつらさえいなけりゃ何も考えずに仲間として受け入れられたのに。
「……あー、顔はいいのになぁ」
「顔はってどういう意味だ」
 そういやサヤは面食いだとか聞いたっけな。だからセオドアに張り付いてるのか? まわりがこんなのばかりだから目の保養を欲してるんじゃないのか。ってセオドアはどこにいるんだ、と周りを見渡してみると……。顎が外れるかと思った。
「ちょっと馴染みかけてるでしょ?」
 オレの視線を追いかけてサヤが笑う。セオドアは、ローザを挟んでルビカンテと話していた。
「……わっからねーな!」
 やけっぱちで吐き捨てる。鼻で笑われた気がした。この野郎、オレとは絶対に話なんかしようとしないくせに、そういう反応だけ返しやがって。

 今ここで結果だけを見るなら、何も変わってなんかいないんだ。オレもポロムも死んでなんかいなくて、奴もまた甦ってここにいる。
 恨みなら残ってる。奪われた痛みはきっと一生消えることがない。オレやポロムなんか失ったものも少ない方だ。かつてこいつを倒したことで、晴らした気分は……サヤから奪って得たものだった。
 腹が立つのはオレとこいつが同じじゃないことだ。オレは助けてもらっただけで、こいつは求められて戻ってきた。サヤは、オレ達を憎んでさえいない。セシルに引かれて自分の力で憎悪を乗り越えたんだ。
 オレは関係ない。オレは……自分を素通りされるのが、一番嫌だ。
「ねーパロム、わたし皆と打ち解けてほしいけどさ、無理してほしいんじゃないんだよ」
 そんなの、そいつらさえいりゃ他はどうでもいいって言ってるようなもんだろ。余計に苛々するって。
「……バルバリシア様にしときなよ。いきなりカイナッツォは無茶だよ」
「誰が無茶だって?」
「口が減らないからイラッときても仕方ないって」
「お前にだけは言われたくねえよ」
 なに仲良く喧嘩してんだよ。っていうかなんでバルバリシアが出てくるんだ。オレあいつと面識もないし、馴染めそうにないんだけど。いや、馴染みたいとか思ってない。……でもルビカンテが妥当なんじゃないのか? しがらみの無さなら似たようなもんだ。ポロムもあれならまだいけるかもしれないって言ってたし。
「バルバリシア様なら、陰湿じゃないからね〜」
「……そこのそいつは陰湿だって言いたいんだな」
「陰湿の塊だよ! ねー」
「オレに同意を求めんじゃねーよ」
 あーあー仲良くするなってんだよ腹立つなあもう。この非常時にこの緊張感の無さ、やっぱりこいつらとは分かり合えない気がする。ゴルベーザの方がまだマシだ。
 ……でも、ここで諦めたらまるでこいつに負けたみたいじゃないか。張り合ってもないのに敗北感だけが頭にへばり付いて、損した気分だ。だって仕方ない。戦ってたのはオレじゃなくセシル達だったんだから。

「パロムに一つだけ言っとくことがあるんだけど」
「……何?」
 サヤはビシッとオレの眼前に指を突き出して、何故か得意げに宣言した。
「バルバリシア様と仲良くなっとくと、スカルミリョーネやカイナッツォには有利だよ」
「余計なこと言うんじゃねえ! どっちの味方だテメェ」
 焦って口出ししてくるってことはホントに有利らしいな。試す価値はありそうだ。っていうかどっちの味方って。張り合ってたのか、こいつも。
「ありがたい助言をどうも。ま、頑張ってみるさ」
 あの姉ちゃんなら気兼ねせずに話もできるだろうし。接点がない分だけ近寄りがたいものもない。それにあの必死さは嫌いじゃないな。
 この際、嫌がらせだって何だっていい、とりあえず一回でもこいつらをへこませてやりたかった。あれだけの想いを知りながら、サヤに対して杜撰な奴らに、必ず、警戒心の一つも抱かせてやる。
 関わらずに避け通しても自尊心が傷つくだけだ。いっそオレが思うのと同じぐらい、嫌わせてやるからな。

|



dream coupling index


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -