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哀愁

 留め置く術はなく、いつか必ず終わりが来ると分かっている。だからこそ止めようと足掻くのかもしれない。過ぎ行く時に手を伸ばすのかもしれない。時間は公平で残酷だわ。あの頃と変わらないサヤを見ていると、痛烈なほどに実感する。
 思えば彼女はいつもゴルベーザを見ていて、四天王を想っていて。だけどそれは過去のことだと思っていた。亡くしたものに手を伸ばそうとしているなら、止めるべきなのかと思った。……止めなくてよかった。サヤが走るままに任せてよかった。
 取り戻せるものがあるという事実は、誰にとっても希望になり得る。

 わたしにとっては一刻も早く逃げ出したかったあの塔での日々は、サヤにとってはかけがえのない日常で。今一度この世界に現れて同じ日々を手に入れられたのは奇跡のようだわ。更に先を見るなら不安もある。けれど今、彼女は笑っている。
 嬉しい。その想いは、偽りではないけど。
「何を見ているの?」
 気づけば隣には、あたしのサヤを勝手に見るなとでも言いたげに不機嫌なバルバリシアがいた。
「……あなたたちが加わってから、元気になったなって思ってたのよ」
 かつて命の取り合いをした者が今は仲間として傍にいる。不思議とあまり戸惑いはない。タイミングが違えば、かつても同じ状況下にあったかもしれない、なんて思う。
 受け入れられない者もいるのは事実。お互いに、無理して距離を変える必要はないんだわ。少なくともわたしは、自然にあるがままに接していたい。
「お前がサヤを見る目つき、険しいんだもの。気に入らないわ」
 別に睨んでるんじゃないのに。観察してただけ。本当に昔と変わりないんだなって。サヤの姿は隣で見るより離れた方がよく見える。例えばゴルベーザの傍に黙って立っているとき。四天王の誰かにじゃれついているとき。
 覆い隠さず心までさらけ出し合えるほどの時を、わたし達とはまだ過ごしていない。

「……嫉妬でもしているの?」
 突然言われて何のことだか分からなかった。数秒ぼんやりと停止して、ようやく意味が脳に届く。
「違うわ。羨ましいとは思うけど」
 皆それぞれに時が経ってるはずなのに、サヤや四天王を見ていると……変わらない姿形を間近に見据えると、わたしだけが行き過ぎたのではと錯覚が起きる。
 バルバリシアだってあれだけサヤにべったりならきっと、わたしの傍に寄れば実感してるはず。
「……老けたと思ってるんでしょう?」
「そうねぇ」
 恐る恐る問い掛ければ、間髪入れず頷かれた。嘘でもいいからちょっと否定するとか、せめて戸惑うふりくらいしてほしいわ。
 サヤを眺めながら何事か考え込んでいたバルバリシアが、ふとわたしを振り返る。
「昔は何だか分からないような薄い存在だったけれどね。セシルを支えようと構えてるお前は悪くないと思うわよ」
「…………」
 思いも寄らなかった言葉に、つい呆然としてしまった。変わったのはあなたの方じゃないのかとさえ思って、でも口には出さない。
「……ありがとう」
「べつに慰めたわけではないわ」
 知ってるわよ、そんな気遣いの心なんてないこと。だから、あなたの言葉は掛け値なしの本音だって。サヤが彼女達を連れ戻してくれてよかった。しがらみを越えて違う何かが生まれるなら、この上ない喜びになる。
 もう、解り合えずに悲劇を演じるのは嫌だから。

「……あなた達がいてくれて、嬉しいわ」
「何を馬鹿みたいなこと口走っているのよ」
 不機嫌な口調が、照れているらしいと今は分かる。
 ゴルベーザも兄としてセシルの傍にいて、バルバリシア達までもが味方としてここにいる。かつての仲間がいて新たな仲間がいる。わだかまりは残ってるけど、いつか乗り越えられる予感もする。
 同じ日々を違う未来に向かって進んでいる。悲しみでは終わらせないって、決意がわくわ。

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