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交差

 例えば戦いに際して、サヤがモンスターに襲われそうになった時の動き。私達四天王は、相手を妨げ彼女に触れる前に倒す……といった反応は容易にできる。
 しかし肝心の庇護対象が転倒し、足を踏み外し崖から転落しそうになっても、瞬時には動けない。咄嗟に何をすべきか分からずに固まってしまった。敵意のないものに過敏な反応ができない。元々そういうものでもあるが、現世に戻りたてである身は更に鈍っているようだ。
「サヤ、またか」
「……ごめん」
 危ういところでゴルベーザ様の腕が届いたのを見届け、やっと緊張が解れた。こうして抱えられている姿を見ると、本当に小さいな。体格差のせいなのだろうか。しかしセオドアとは大して変わらぬ背丈なのに、やはり小さく思える。

 助けられてしばらくゴルベーザ様を見つめていたサヤは、その手を掴もうとしてやめ、軽く言葉を交わしてまた共に歩き始めた。
 こちらに舞い戻ってみるとあの二人の間には妙な空気があると分かった。それは私達のせいかもしれない。しかし、どうすればいいのかは分からない。少しはマシになったようだとも聞くが、では私の知らない二人はどれほど気まずかったんだ……。
「…………」
 不意にサヤの視線がさまよい、スカルミリョーネと私を見比べた後に私を手招いた。
「何の用、だ!?」
 近づいた途端に、言葉を交わすよりも早く抱き着かれた。ゴルベーザ様の視線が痛い。背後からの殺気はもっと痛かった。
「ど、どうしたんだサヤ」
「ルビカンテはべつに平気だなぁって確認」
「何が……?」
 どこと無く不満そうな彼女の言葉を聞いた途端、ゴルベーザ様が身を翻して離れようとした。慌ててその背中に縋り付く。今この二人と距離を取っては背後に充満している気配が怖い。
「離せルビカンテ」
「いえ、というか何故お逃げになるのか」
「お前は魔物だから問題ないのか? ずるいぞ!」
「はい!?」
 何の話なんだ。困惑して未だ抱き着いたままのサヤを見下ろすと、何か感慨深げに頷いていた。
「魔物か人間かってより、ギャップの問題だよね」
 ますますもって意味が分からないのは私の頭の回転が鈍っているのか?

「ゴルベーザだって見苦しい体型じゃないよ。でも甲冑に慣れてるとこに、コレじゃあね」
 ああそうか、サヤはゴルベーザ様の御姿を見たことがないのだった。この方自身の希望でもあったのだが。確かにあの甲冑を身につけた姿だけ見慣れていて、突然こうも露出が増えれば驚いても無理はない。無理はないのだが、
「……しかしいい加減に慣れてもいいのではないか」
 私達が戻って来る以前から、少しは共に過ごしたのだろうに。その間なにも近づけなかったのか?
「見た目は慣れてきた。でもたまに密着するとなんかきもちわるい」
「…………」
 ああ、ゴルベーザ様のHPMPが1になってしまった……いや、ここは0になってしまわないのが流石と言うべきか。私やバルバリシアならば死んでいるところだ。きもちわるい。率直に心に刺さる。

「服着てよ」
「今そんな暇は無い」
「余り物の防具でもいいから!」
「余っている物などないだろう?」
 何か変な話になってきたような。とりあえず流れを聞いてバルバリシアの殺意が遠退いたらしいのが有り難いな。サヤにしがみつかれているから見えないが、突き刺さるような気配は消えている。ゴルベーザ様の扱いに居た堪れず私への嫉妬どころではないのかもしれない。
「着たらお父さんって呼んであげるよ」
「それで私が喜ぶとでも思うのか……」
「じゃあセシルがおにいちゃんって呼んでくれる」
 ひらがななのがポイント、と付け加えてローザに支えられる彼を見つめた。
「…………」
 そこで迷うのですか……。私ならどちらかと言うとお父さんの方が嬉しいが、言う人間の問題だろうか。
「サヤが……おにいちゃんと呼ぶのはどうだろう」
「なっ、何を言い出すんだルビカンテ! 私はサヤの兄になった覚えは!」
 思いつきの提案だったがその動揺が既に効果を物語っているし、そもそも「お父さん」にしても間違っていると思うのだが。
「歳の差ありすぎて熟年離婚の末の異母兄妹って感じだけど……、ね、おにいちゃん」
「お」
「おにーちゃん!」
「待て」
「兄さん! 兄貴? 兄上、兄様、やっぱりおにいちゃんかな。ねえおにーちゃん!」
「……ルビカンテ」
 どうも私が悪いらしい。楽しそうだからいいじゃないかと思うのは私が甘いせいだろうか。溜め息を押し止め、なおもってゴルベーザ様をからかおうとするサヤを引きずりしばらく距離を取った。
「こうしていると昔と変わらないのにな……」
「そりゃあルビカンテ達がいるからね」
 なら、もう一度同じだけの時を過ごせば、あの頃よりもっと近づけるのだろうか。今はまだすれ違っているとしても。

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