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行き先

 相変わらずゴルベーザの傍をつかず離れず。時たまカインやセオドアが促して、ローザやリディアが気を遣い、ルカとポロムが戸惑いながら尋ねようとする。なんで腹を割って話さないんだ。
 ……いや、確かに敵が引っ切り無しに襲ってくる今の状況で、ゆっくり話なんかできないだろう。だがな、おかしいだろ、お前等。バロンの町で再会したって時から、ろくに会話してねえらしい。分からねえ……、よく知りもしないオレからしても、お互い気にしすぎるぐらい気にしてるってのに。
 多分、なんかが足りないんだ。どうすりゃいいのかは分かってる。でもきっかけが無いんだろう。周りも手を出しかねる微妙な隙間が奴らの心にあるようだ。

 先導してたカイン達がモンスターを蹴散らして、全体の空気が一息ついた。ここらへんの敵は弱いくせに死にかけてからがしぶとい相手ばかりだ。消耗が激しい。きついな。……前よりずっときつい。縋りつける支柱がないし、倒すべき敵の姿も朧げにしか見えない。
 崩れたモンスターの死骸を通り越したその時、唐突にオレの袖を引っ張って、ごめんとサヤが言った。何がと聞く間もなくもう一度「ごめんね、エッジ」と。前を行く仲間の背に、後ろから来る仲間を振り返り、ごめんセシル。セオドア、ローザ、ごめん。みんなごめんなさい。そう言って全員に頭を下げた。
「わたしもしかしたら、場合によっては、いなくなるかもしれない」
 眉を寄せて淡々と告げられた言葉の意味がよく分からない。いなくなるって、元の世界に戻るとでも言う気か? なんで今このタイミングで。そりゃ無責任だろって言葉を誰より理解してるような顔で。
 言葉を発せないオレ達の真ん中でサヤがゴルベーザの手を取った。まともに触れ合ってるのを初めて見たかもしれない。

 疑問が形になる前に、集団の端にいた奴らにまたアンデッドが襲い掛かってきた。近くにいたパロムがまず反応して、レオノーラとリディアが加わる。ポロムとルカがこっちを気にしながら援護に向かった。オレは何故だか動けない。ゲッコウに支援するよう目配せしてサヤに向き直る。敵の数も多いが黒魔法の使い手が三人いりゃどうにかなるだろう。
「……いなくなるってのはどういう事だ?」
「わたしとゴルベーザ、先に行くから」
 ゴルベーザが何とも言えない顔でサヤを見下ろした。こいつらは通じ合ってんのか、分かんねえ。少なくともオレは……見渡してみれば、オレ達は、サヤの意図がさっぱり分からない。掴まれた手を振り払うでもなくゴルベーザが重々しく口を開いた。
「……行けば分かることだ。ここで別行動を取るのは得策ではない」
 そりゃそうだろ。雑魚ったって多すぎる。なんとか要所で休憩取ってるが……特に魔道士連中が疲れすぎてる。人数が減ればそれだけ負担が増える。分かってるはずだ。だがサヤは聞き入れない。縋るような目でかつての上司を見た。
「だって、ダメだよ、わたし……行かなくたってわかるよ。……この、ここの魔物……行かなくたってわかるよ!」
「仮にそうだとしても……、」
「戦う気なの!?」
 何なんだ。分からねえってんだよ。全然分からないんじゃねえ、分かりそうで、あと少しのとこで理解できない。それが苛々する。

 大事なものに剣を向けるなら、その刃の前に立つ? ……ちょっと待てよ、ゴルベーザの前に立ってどうするんだ。そいつと言い争ってどうする。お前が守るべきはそいつだろ?
「……眠らせてやるべきだ。ベイガンや、メーガスや、ルゲイエのように」
「いやだ」
 理性のかけらもない、それだけに頑固なサヤの、言葉も行動も駄々をこねる子供みたいだ。なんか、なんかよ……いつだったかのオレみたいだ。
 オレは知らない。オレにとって重要なのは一人だけだ。だから覚えてないし知らない。だが事実として奴は、ゴルベーザ四天王と呼ばれたモンスターの筆頭で、他には……風を司る女性モンスターの親玉。水を司る水棲モンスターの親玉。……この辺りのモンスター、全部アンデッドだ。何かの力が働いてるみてえに。
 ……もう一人。土を司る四天王、アンデッドの──
「あれを見ただろう。お前も、苦しませたくはないはずだ」
 大切な存在なら何よりもまず、生きててほしいに決まってる。だがそりゃ無理ってもんだろ。サヤだって分かってるはずだ。だから一人では走り出せない。
 だけどよ、可能性があるなら。他の全部を捨てる覚悟があるなら、なあ。試してやってもいいんじゃないか?
「わたしが説得する。こっちに引き戻してみせる」
「お前のことも分からないかもしれないのだぞ」
「かもしれない、じゃ諦めない。もしダメならゴルベーザが説得してよ」
「……サヤ」
 優しく厳しく諭すような静かな口調。視界の端でリディア達がまだ戦ってんのに、こっちが気になって動けねえ。なんかこう、若さに任せて突っ走るのを宥めるあの声……親父を思い出す。一番重ねちゃなんねえものを重ねちまった。
 頼むよ、止めるなよ。どうしようもないことがあるだろ。感情がままならないことがあるだろ。足掻いて足掻いて足掻いて、果てに……何かある「かもしれない」じゃねえか。

「オレがついてってやる」
「お館様!?」
「抱えて走り抜けりゃ二人でもどうにかなる」
 クリスタルの前まで。何もかも無視して手を取りたい存在の前まで。協力してやる……が、ここで強情張ってサヤを見送るなら、オレはゴルベーザに刀を向けるがな。
「ま、待ってください。僕も行きます」
 ゴルベーザの手を掴んでる、反対側の手をセオドアが握った。それを振り返らない目はもう懇願していて、なりふり構ってられなくなったサヤが悲鳴をあげた。
「ダメなんだよ! ゴルベーザが来てくれなきゃ……ゴルベーザが助けてくれなきゃダメなんだよ! わたしに言わせるの? わたしが持ってる切り札、使わせるの!?」
「…………」
 馬鹿野郎、目逸らしてんじゃねえよ。応えてやれよ。お前分かってるんだろうが。オレ達には分からない事を、オレ達の知らない事を、サヤが求めてるものが何だか理解してるんだろ。
 頼むから。つらいことしか待ってないかもしれない。望んだ結末じゃないかもしれない。だが、後悔するにも足掻いてからだ。生き足掻いて上等だ。もう誰の操り人形でもないと証明してみせろ。
「一緒に来て!」
「……分かった」

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