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違う世界

 サヤさんは、彼らを引き連れて話し込んでいる。会話の糸口を掴んだ瞬間、彼女から切迫感が消えて僕も安心した。
 ここまでたった四人で走り抜けて来たから、僕らの方も休むことになったみたいだ。……みたいだというか、こちらはエッジさんもゴルベーザさんも黙りこくっているから、分からないんだけど……。
 本当ならすぐに引き返して、追いかけてきてる皆に合流した方がいいのかな。だけどこの疲労感で、また四人だけで動くのは危険だ。素直に皆を待っていればいい……ってことだと思う。

 エッジさんの疲労はとくに濃かった。ほとんど敵の相手をすることもなく駆け続けながら、後ろから追い縋る敵をゴルベーザさんが払いのけて、サヤさんは戦えないし僕は補助をするだけだったし。ここまでの道を切り開いたのはエッジさんだった。
「……なあセオドア。お前はサヤから、あいつらの話聞いたことあるのか」
「えっ? あ、はい……少しなら」
 そうそう時間があったわけじゃない。だけど彼女が楽しかった話ならいろいろと聞いた。どんな人達だったのかとか、何をしてたのかとかじゃなくて……日常に埋もれそうな些細なことだけ。彼女もきっと、話す言葉を選んでたんだろう。僕相手になら何を言ったってよかったのに……。
「本当に戻って来んのかね……また戦闘になるのは正直きついぜ」
「ゴルベーザさんもいるし、大丈夫ですよ」
 あちらだって今は敵対する理由もないはずだと、母さんもカインさんも言っていた。意思の疎通さえ成り立つなら、もしかしたら……って。
「実際のところ……モンスターと絆なんか芽生えんのか? サヤが一人で勘違いしてんじゃねえだろうな」
「もしそうならゴルベーザさんが止めてますよ」
「そうかねぇ〜〜……」
 離れたところでサヤさん達を見つめる影。それをまた見つめるエッジさんの視線は胡散臭そうだった。信頼してないわけじゃなくても、全面的に受け入れたわけでもないんだろうな。
 絆なら、きっとある。勘違いなんかじゃないと思える。彼女が彼らと時間を築いて来たのは事実なのだし。

「あいつなぁ、分かってたんだよな。あの土の……なんだっけ。ともかく奴の気配を感じた時にもう、引き戻すこと考えたんだな」
 何処かほうけたような表情で呟いた「あいつ」が、サヤさんなのかゴルベーザさんなのか少し迷って、続く言葉でサヤさんのことだと分かる。
 あの場所に着く前に、それまでに戦った相手を見てすでに、予感してたのかもしれない。皆平等に大好き、なんて……、あの言葉が蘇ってきた。
 サヤさんはもう、何かを捨てても取り戻したいものが見えてたんだ。
「サヤのヤツ、オレに真っ先に謝ったんだよな……」
 今にしてみれば僕の感じた不安は的外れだった。いなくなるかもしれないって言葉はつまり、……僕らを捨てるかもしれないって意味で。もしも叶わないなら、自分の命をも捨てるかもしれないって意味で。それがどれほど人を傷つけるか、分かっていたからこその「ごめん」だった。
「まわり全部無視して真っ直ぐ走れるんなら、そうしたいならすりゃいいんだよな……なのにあいつは、オレに謝ったんだ」
 だって、なにもかも取り戻せるんじゃないから。

「エッジさん……」
「オレにはできねえよ。死んじまったらそこでおしまいだ。……あっちの意思を無視してまで、連れ戻せない」
 異形の姿に成り果てたものを、例え変わらず愛せたとしても、肝心の相手がそれを拒んだら。在り方の異なる生を否定したら。
 もしも父さんが、戻って来たくないと言ったら……僕はそれを無視して自分の願いを押し通せるのかな。……母さんはきっと、連れ戻すんだろうなぁ。女の人の愛って、強い。

「……ま、相手があんなじゃあ素直に勝ったと思えねえからな」
 これから何度でも挑めるなら丁度よかったんじゃないのかとエッジさんが笑う。そこに悔しさも滲んでいたけど、明るさだけは本物だった。
 宿敵との戦いに、彼は正々堂々を重んじてるみたいだ。御自身の疲労だって相当なものだったはず、なのに一人で立ち向かいたいと言い、打ち倒した。それでもエッジさんはあれを勝利だと考えてない。……この人って、騎士の方が合ってるんじゃないかと思えるんだけど。
 死んだら終わり、じゃない。サヤさんは本当に引き戻してしまった。まだ先がある。これからも続いてる。合流した皆が彼らを拒んだら、サヤさんは宣言通りいなくなるだろう。だとしても、頭を過ぎるのは不安だけではないから、きっと大丈夫だ。

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