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心中

 バロン城下街の空き家というか、倉庫の中でわたしとカインは向かい合ってる。「連れて行かない」「ついて行く」「ここで待ってろ」「絶対やだ」……何も進まない言い争い。セオドアは席を外してる。それはカインの指示。ここにいたら、きっとわたしの味方してくれるだろうから。
 連れて行かない? 城には入るな? なにそれ。今更ここで待ってろだなんて。そりゃわたしは足手まといかもしれないけど……。
「邪魔だからというだけじゃないんだ」
 ……だけじゃないって、邪魔だってことじゃん。
「……邪魔だからという、わけじゃないんだ」
「言い直しても意味ないし。……カインってわたしには正直だよねぇ!」
 無駄に! 美徳にもなんないよ。
「い、いや……誰にでもそうあろうと思ってるんだが」
 弱音吐くのが苦手なんだ。どいつもこいつも。わたしだって心配なのに、それわかってるくせに、「お前のこと気遣ってる余裕ないんだ」って言うのがそんなに罪なこと? ……仕方ないじゃん。今はとても切羽詰まってて後ろを気にする暇なんかないんだから。

「言いくるめないでちゃんと説明してほしいんだよ」
「……サヤに、見せたくないんだ」
 信じてるけど、でも、もしも、まさか。
「わたしセオドアの傍にいたい」
「サヤ……」
「でも、カインが本当のこと言ってくれたら、大人しく待ってる」
「俺は嘘なんかついてない」
 そうじゃない。そうじゃなくて、事実じゃなくて気持ちを言ってよ。感情を教えてよ。……不安と不満と、その中身を見せてよ。

「今一番求めてることは?」
 黙り込んだ。5秒、10秒、神妙な顔で見つめ合って。その沈黙の重さが洒落にならなくなってきて、本音の重さに耐え切れなくなる寸前、小さな声が聞こえた。
「……セシルに会いたい」
 まっすぐ見据えてないと通り過ぎちゃいそうなホントに小さな小さな声は、そのまま「セシルに会いたい」とも聞こえたし「ローザに会いたい」とも聞こえて、「戻りたい」って叫びにも似ていた。
 帰りたいけど帰りたくない。帰れないから、ただ戻りたい。でもそれは無理なんだ。不可能なんだ……だからどうしても、助けたい。どうにかして助けたい。
 なんかこう、うわーって叫んで「あんたは悪くないよ、頑張ってるよ、大丈夫だよ! あんなのセシルじゃない、きっと戻ってくるよ、ローザもセシルも無事だよ、帰れなくたって何もかも失くなったわけじゃないんだ!」……って、肩を抱いて頭撫でてあげたい、けどしない。
 だって無事じゃないかもしれないじゃない。もう戻って来ないかもしれない。何もかも、失くなってしまったのかも。だって本当に、どこにもいないんだもの。わたしが楽になるだけの慰めなんて押しつけられない。
「わたしも会いたいな……」
「ああ……」
 叶うのかわからない。希望も絶望も指針にならない。今はただ進むだけだ。どこかに辿り着くって、思い込んで。

「……仕方ないなぁ! 待っててあげるよ。でも一つお願い聞いてくれる?」
「なんだ?」
 意味ありげに俯いて、「わかるでしょ」と呟いてみる。頬でも染めたら完璧だったけど、そこまでの演技力はない。
「……目、つむって……」
「なっ!?」
 カインはわかりやすく動揺した。ばか! あほ! まぬけー! 自意識過剰! 帰ってきたらセシルとローザに事細かに報告して、からかい倒してやる!八つ当たりだけど、気遣いも入ってるよ? なんでもないことだって思えるように。まだエンディングじゃない。これで終わりじゃないって。
 逃げ腰のカインを捕まえるみたいにぎゅっと肩を掴んで、今度は俯かないでまっすぐ見つめる。ここで目が潤んだら完璧だけどそこまでの演技力は……残念。笑わないので精一杯。その声の震えが信憑性を増してるみたい。
「……聞いてくれないなら、ついていくよ」
「う……いや……しかし……」
「こんな小さいお願いも……、叶えてくれないの?」
「……分かった」
 覚悟を決めたって顔で目を閉じる。こうして見ると本当にカッコイイなぁ。ちょっと真面目に考えちゃいそうになる。ダメだダメだ、自制心自制心。

「息、吸って」
「……?」
 ゆっくりと空気を吸い込んで肩が動く。意外に繊細な睫を見つめながら、手の平の下で筋肉の運動をもろに感じてちょっとドキッとしたのは、知らん顔しとこう。
「じゃ、息吐いて。全部なくなるまで」
 もう一度肩が大きく動いて、カインの呼吸が尽きる瞬間に狙いを定めて拳を握る。あとは無防備な腹に……打つべし!
「ぐっ……〜〜〜!?」
 やった。ダメージ入った!
「行ってよし! セオドアのことちゃんと見ててよね」
「お、お前な……っ」
 セオドアに行ってらっしゃいって言わなきゃ。一人で待ってるのはつらいな。でも頑張ろう。取り戻して戻って来てくれたら、もしかしたら。……自分のためだっていい。それが誰かの助けになるなら。

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