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 左手の鞄には回復薬がぎっしり、右手に予備のロッドと杖と盾と短剣と弓と矢と……。バランスがとれない。右手が重い。なんかずっと傾いてるの。デビルロードを抜けるまでこのまま……背骨が歪みそうで怖い! けど荷物持ちすらできないなんて精神的に耐えられないし。
 いざってときは両手を振り回せ、重い分だけ当たればダメージになるって、言われてるけど……、振り回せる自信もないよ。荷物落として逃げられればラッキーかなってくらい。
 きっと鍛え方が違うんだね。魔道士さんたちはローブに隠れて体格もわからない。だけどさっきキャンプで黒さんが軽く剣を持ち上げてたのをわたしは見た。見てしまった! 魔道士のくせに……。ロッドってこんなに重いのかぁ。知らなかった。
 謎のヒーローは問題外。基準になんかならない。がっちりむっちりのモンスターを一撃で切り伏せてる。どんな馬鹿力! でっかい剣を苦もなく操る姿がかっこよくてムカつく。わたしだって短剣なら振れるもん。振れるだけ、ですけどね。

 やっぱり違うんだよ。根本的に違うんだ。だってセオドア……わたしとそんなに変わらなく見えるのに……なんでそんなに戦えるの? どうしてそんな、剣なんて、鉄の棒だよ! なぜ軽々と振れるのかな! 片手で!!
 問題は筋力の差だけじゃない。わたしは斬られたら死ぬ。刺されたら死ぬ。とりあえず敵を倒しちゃってから回復、とか無理。倒す前に失血で死ぬし、もしくは傷口から感染して後に死ぬ。それか単純に攻撃されたショックで死ぬ。つまりわたしがどんなに頑張って剣を振ろうが放った矢が敵に当たろうが、攻撃食らった時点でもうほとんど死ぬ。
 セオドアと二人、とにかく逃げまくって進んできたけど……、三人になって五人になって、今は逃げずに戦うことの方が多い。傷の一つ一つに怯えてる暇がないんだ。

 恐ろしいほどの差を知った。魔物の爪がセオドアのお腹に食い込んだ。なのに悲鳴をあげたのはわたしだけ。パニックになりながらポーションを投げようとしたら、当のセオドアに止められたんだ。「サヤさん、まずはあいつを倒してからです、回復は後で!」って。後でって何、後でって。
 どうせ雑魚だし。ちょっとHP減ったくらいで回復してたら、次のターンにまたダメージ受けて、かえって効率悪いもん。無理してでも戦ってさっさと倒し終えてからメニュー画面で回復した方がいい。……そうだけど違うでしょ。生身だよ? 減っていくのは数字じゃないんだよ?
 錆びつきそうな匂いも、服を染めるどす黒い赤も、グラフィックには表示されない。わたし以外の四人だけがごく自然に動いて、普通に敵を倒して、冷静に回復魔法を唱えてた。鞄をぶら下げたまま呆然と見守るわたし。
 心の問題なんて些細なことだ。ちょっと言い訳じみてるけど、でも魔法も使えないわたしには戦闘でなんのフォローもできないじゃない。例え勇気をもって剣を手に勇ましく、あの中に入っていっても……邪魔なだけ。わたしは弱すぎる。なんかもう、なにもかも違う。自虐的にすらなれないほどに。

「ねえセオドア……次はわたしも戦っていい?」
「ええっ、駄目です!」
 即答かぁ……。だけど、何もできないってわかったから、安心して突っ立ってるだけなんて無理だ。わたしは連れてってもらってるんだから。何かしなきゃいけないでしょ。このままじゃ辛すぎる。
「ちょっと思いついたことがあるんだ」
「…………なんですか?」
 そんな疑わしげに見ないでよ。これは自信あるんだ。わたし、この世界の人とは違う。もう嫌ってほど実感したから、ちゃんといっぱい考えたよ。
「ここに余りものの盾が二つあります」
 ミスリル製の軽くて丈夫なスグレモノ。でも特別な効果はない。珍しく魔道士二人もわたしの話を聞いてる。謎の男はろくなもんじゃないだろって顔だけど気にしない。
 血の匂いと飛び散る肉に耐えながら、ずっと戦いを見つめ続けてた。わたしから見たら不死身なんですかってくらいどっちも丈夫な、人と魔物の共通点。魔法唱えてるときは無防備! 詠唱中から発動の瞬間までは回避率ゼロ! 鞄を置いて両手に盾を構える。三人が変な目で眺めてた。
「見るがいい……いにしえの秘術、盾二刀流!」
「いや、刀じゃないだろ」
 じゃあ二盾流! そんな細かいことはどうでもよろしい。これはわたしがどこへ向かうのかを決める大事な第一歩なんだから。

「さあ白さんか黒さん、なんか魔法唱えてください」
「……任せる」
「では、ケアルでも」
 白魔道士が両手を組んでなにやら呪文を唱え始めた。ケアルの詠唱は短いから、二言目くらいに突撃する。
「シールドバッシュ!」
「うっ!?」
 構えた盾に突き飛ばされてよろめいた、白魔道士の体から溢れかけてた光が霧散した。よし!
「詠唱が止まった! すごいじゃないですかサヤさん!」
「……そりゃ止まるだろ、体当たりされれば」
「大丈夫か?」
「ええ。ダメージはありませんが……無性に腹が立ちました」
 盾を構えてれば隙も少ないし。相手が無防備なとこにつっこんでぶっ飛ばすわけだから、反撃食らう可能性も低い。当然ながら他の人が追い打ちかけるから、敵が怒ってわたしに向かってきても大丈夫。何よりわたしの精神的ショックが小さいんだ、これ。
「これは成功したらそれなりに役に立つんじゃないかな! もちろん、敵が強すぎるときとか乱戦混戦じゃ隠れてるしかないけど……」
「まあ……いいんじゃないのか……好きにすれば」
「黒魔法の邪魔にならなければ私はどうでも」
 なんか二人とも投げやりじゃない? もっと褒めてほしいんだけどな。
「私で試すのは止めてください。言葉で説明していただければ通じます」
 ご、ごめんなさい。でも見せたかったというか練習したかったというか。さぁ問題はセオドアの意見。

「……どう、かな」
「サヤさんが無茶しないなら、いいと思います」
「やった!」
 なんとなく一歩前進した! ちょっと心苦しいけどね。変身中のヒーローに殴り掛かるみたいな後ろめたさがあるからね。でも些細なことにこだわってられない。セオドアと一緒に歩いていくために、わたしは敢えて悪の道を辿る。
 戦えないし、弱いし、この世界の人間にはなれないけど……もう守られてるだけじゃないんだよ!

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