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敵と仲間

 デビルロードに入る直前、サヤさんに買い与えられた弓矢は売ってしまった。本人の了解も得ていないけど、僕は後悔してない。二人とも何も言わなかった。サヤさんは少し落ち込んでた……もしかしたら自分が戦えないことを気にしてるんだろうか? だけどそんな理由で取り上げたんじゃないんです。ただ、あなたが武器を持って、モンスターに立ち向かう姿が……なんだか嫌だったんだ。どうしても見たくなかったから。

 あの人はサヤさんに厳しすぎる。たくさん助けられてはいるけど、サヤさんのことを何も分かってない。……そりゃ、僕だって彼女を深く知ってるわけじゃないけど。戦えないなら戦わなければいいんだ。僕がきっと守ってみせる。駄目なときはサヤさんを連れて逃げるから。あんなつらい顔させるくらいなら何にも立ち向かわなくていい。僕の後ろを歩いていてくれれば、それだけで。
 でもなんか……あの二人、知り合いなんだろうか? 謎の男とでも呼んどけば、ってサヤさんは言ってたけど……。
 あの人が彼女の名前を呼ぶ声は自然だ。まるでずっと前から知ってたみたいに、たまに懐かしむような目でサヤさんを見てる。でも彼女の方は……? どういうことなんだろう。一度、聞いてみるべきなのかな。

「サヤ!」
「ぶわっ」
 突然の声に驚いて顔をあげた。考え事してる余裕なんてないのに、ぼーっとするなんて。いつの間にか僕を追い越していたサヤさんのまわり、どす黒い緑の靄がまとわりついている。……毒霧だ!
「サヤさん、大丈夫ですか!?」
「あー、大丈夫……バイオだったら死んでたね」
「少しお待ちを、エスナをかけます」
「ありがと、でも平気です。毒は……効かないから」

 襲ってきたモンスターをやり過ごして白魔道士が駆け寄った。サヤさんがそれを制して腕まくりする。薄暗い道に鈍く光る銀色の……アミュレット? どうしてそんなものを持ってるんだろう。いつから着けてたのか、知らなかった。
「……意外にも」
「え、なんかわたし、ばかにされてる?」
「いえ。では私は先に参ります」
「わあスルーされた。構ってくださいよー」
 子供っぽく茶化すサヤさんを余所に、用が済んだ白魔道士は先を行く黒魔道士を追いかけた。あの人がまた妙な顔つきでサヤさんを見て、何か言いたそうにしながら何も言わずに歩きはじめる。……何なんだろう。なにか引っ掛かってるみたいなのに言ってくれない。僕は……僕らはまだ、信用されてないのかな。

 黙々と歩を進める三人の後ろ姿を眺めながら、のんびりと歩いている。デビルロードの闇は彼女にはなんともないんだろうか。僕にとってはその方がありがたいけど。
「……サヤさん。それ、いつ買ったんですか?」
「ん〜……持ってたんだよ、ずっと」
「ずっと?」
「そ、ずっとね。あっちに帰ってからも……」
 何か言葉を続けようとしたサヤさんが暗闇に視線をとめる。じっと目を凝らすと、そこにモンスターがいた。まだこっちには気づいてない。慌てて掴もうとした手をすり抜けて、サヤさんはこともあろうにそのモンスターに駆け寄って……抱きつい、た?
「え、ええっ!? サヤさん、あぶな」
「何やってるんだお前は!」
 大慌てで戻ってきた彼が怒鳴る。だけど剣を抜いた僕らの手は、すぐに止まった。……襲ってこない?

「どっから来たの……なんでここにいるの? つながってるの? 悪魔の道……だもんね。ここを辿ったら、会えるのかなぁ」
「……お知り合いでしたか」
「うん、ちょっとね〜」
「お話は程々にお願い申し上げます」
 はいはいと軽く手を振るサヤさんを気にもとめず、少し先に立って周囲を警戒し始める。……どうして? 疑問に思わないんですか? 心強い味方なんだろうけど……あの人達ってよく分からない。隣でぽかっと口を開けてた人と目が合った。……ですよね? 変ですよね? お知り合いでしたか、って。モンスターなのに……。

「わたしのこと覚えてた? うん……襲ってこないんだもんね。覚えててくれたんだね」
 サヤさん、会話してる……。
「うん、全然、意思疎通できないねー」
 ……いや、してなかった。
 しがみつかれるままだったモンスターがもぞもぞとサヤさんの腕を逃れる。名残惜しそうな彼女を、じっと……見つめた気がした。モンスターの視線なんて気にしたこともなかった。だけどあの……二人? 今は確かに通じ合ってるように見える。

「サヤさん、は……悪の手先だったんですよね」
「……あいつから聞いたのか?」
「はい。……モンスターは彼女にとって敵じゃないんだ……」
「そうとばかり言えないな。あんなのは、一部だけだ」

 そうだ、今までのモンスターはサヤさんを区別することなく襲ってきた。僕らからは分からない。だから……戦えないのかな。傍らに立った人を見上げる。何も言わないけど、同じことを考えてる気がした。もうサヤさんに武器を持たせることはないと思う。
 ……やっぱり知り合いだったんですね? どうして名乗らないんだろう。サヤさんは気づかないのかな。単純に、気づいてないから名乗らないのかもしれない。

「お待たせ。……どしたの?」
「いえ、なんでもありません」
「いや、なんでもない」
 声がかぶった。顔を見合わせた僕らを、サヤさんが面白そうに見る。
「じゃあ行きましょー」
 すんなり手を握られてびっくりした。サヤさんを挟んで反対側でも同じことが起きていた。なんだろう、これ……なんか恥ずかしいな。小さい頃に戻ったみたいだ。
 むずむずした感覚に戸惑ってると、焦れたサヤさんが僕らの手を引っ張る。また彼と目が合った。
 もしかして、僕からそれとなく言った方がいいんだろうか? 「サヤさん、この人と知り合いなんじゃないですか」って。なんとなくそれを求められてるような気がする。
 城についたら、きっと、何か変わるはずだ。だからそれまで、このまま……。

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