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疲れ気味

 付け焼き刃でなんとかなるわけないんだよー、いくら鬼教官に扱かれたって一日二日でクリティカルヒットたたき出せる凄腕アーチャーにはなれないんですー。クラスチェンジには対応しておりませーん。
 経験値稼ぎのあとはレベルアップじゃなく筋肉痛が待ってる。戦えば戦うほど強く、ならない。貯まるのはギルじゃなく疲労で、聞こえるのはファンファーレじゃなく宿屋の曲だ。
 もっと真面目にローザに教わっとけばよかったのかな、弓の使い方。七割まっすぐ飛ぶようになっただけでも御の字。でもこの先わたしが弓使いとして役に立つことはないんだきっと。
 疲れた。汗臭い。お風呂入りたい。もう体を拭くだけじゃつらくなってきてる。町にいる間に入っちゃいたいなぁ、それともバロンについたら……。ああ疲れた。あったかいお風呂、やわらかい布団……、寝たい。明日の命の心配なんてしないでぐっすり寝たい。

「サヤさん? そろそろ出発でしょうか」
「うあ、はい、たぶん」
 うとうとしそうになってたら現実に呼び戻された。危なかった。これからデビルロードに入るのに道端で寝るのは困る。体調は万全に、って言われてるのに。
 振り返ればそこには自称ポロム。真っピンク……透け透け……。直接会ったことなかったけど、こんな感じだったんだ。なんか変な感じ。ポロムっていえばあのポロムなはずだけど、目の前にいるのはきれいなお姉さんだ。ううん、露出度の高い、きれいなお姉さんだ。
 耐性できたつもりだったのに全然ダメだよ。目が潰れそう。セオドアは普通に話してたなぁ。……わたしが変なのかな……。たしかに、布の量で言えば充分かもしれない。アレやアレに比べれば、ってそれは基準がおかしいだけだよね? 町の一般人は普通の服着てるもん……。
「あの……もしよろしければ、これ、お使いになってください」
「えっ……これは?」
「服ですわ。着替えがないと聞いたものですから」
 うおー、嬉しいけど今の思考からして危険な香りがする! 渡された鞄の中身を見るのが怖い。でも正直なところ着替えはほしい。洗って乾かすことすらできない今、本音を言うと一番つらいのは何よりニオイだ。自分の。
 ……透け透けは勘弁してね。大きめのローブだとありがたいな。下着洗ってる間も着てられるし。と、とりあえず、見るだけ見てみよう。透け透けでさえなければいいよもう。
「……おお!」
「気に入っていただけました?」
「ありがとう、ありがとう常識人!!」
「えっ、えっ」
 思わずポロムの手をがっちり掴んで握手しちゃった。鞄に入ってたのはゆったりした暗褐色のチュニックとズボン。防具ってより本当にただの服だ。透けてないし重くないし汚れも目立たない、今までになくわたしの常識に沿った、普通の服だ!

「うぅ、ありがとう、ありがとうござ……ん?」
 これはなんだろう。何か見てはいけないものが……ズボンに……股のところに……明らかに故意に作られた切れ目が……。
「用を足すとき便利ですわ」
「そ、そうなんですか」
 パンツ穿いてるから無意味だよ。ってことはこれを日常的に穿く人はパンツを穿いてないの? いや、ポロムさん、あなたに聞きたい。単刀直入に。パンツ穿いてないんですか! ローザも、リディアも、パンツ穿いてなかったんですか!
「だ、大丈夫ですか? 顔色が……」
「大丈夫です……たぶん……」
 もしかしたらこの世界には女性用の下着がないのかもしれない。前にも困ったけど、どこで売ってるのとか買って来てとか言い出せなくて、限界を超えた先には何もつけないって結論が待ってた。
 始めはスースーして落ち着かなかったけど、慣れてしまえばなかなかの開放感があって、ずっとそれで過ごす内に元の世界に帰ってもそれが標準になってて、ノーパン主義な芸能人なんかがテレビに出てると「そーだよね、ないんだもんね」なんて同類相憐れみ、そうになったところで我に返った。
 あるから! 下着あるから! わたしは仕方なく穿いてなかっただけで、あるなら穿くから!

「あの、ポロム、さん、は……」
「はい。何でしょう?」
 いっそ聞いてみようか。思い切って踏み込んでみようか。パンツ、穿いてますか? ……ダメだ。パンツって何ですかとか返されたらもうまともに顔が見られない。そ、そ、その服で穿いてな、いやむしろそんな服だからこそ、いやいや。第一、初対面でパンツとか。ない。
「……えっと、わたしには、敬語じゃなくていいですよ」
「ああ、すみません、くせになってますの。……サヤ、気にしてるの?」
「え? あ〜、セオドアのことで……」
「サヤも敬語でなくていいわ」
 うーん、どうもわたし、女の人の笑顔に弱いなぁ。できたはずの耐性は日常に帰った瞬間ゼロに戻ったみたい。
「……うん。セオドアが、敬語取れないから。いつまでも『サヤさん』だし」
「礼儀についてはセシルさんが厳しかったもの、仕方ないわ」
 なんかむずむずするんだよね。下に見られて守られることに慣れすぎたのかな。セオドアがわたしを対等に扱おうとしてるの感じると、萎縮しちゃう。でもセオドアに呼び捨てにされちゃったりなんかしたら、それはそれで変な感情が芽生えそうで困る。どういう距離でいればいいのか……。

「無事にバロンについて、落ち着いたら……もっといろんな話がしたいな。またここに来てくれる?」
「あ、…………うん、きっと、また来るよ」
 即答できなかったのはどうしてかな。礼儀や敬語で距離を取ってるの、わたしの方なのかぁ。新しい関係ができるのを無意識に拒んでたのかもしれない……。もう、聞いちゃおうか。

 セオドアはパンツ穿いてるの? って。

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