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ラブラブご主人様

 自分のことを忘れられてるって、つらいものだろうか。オレは同じ世界の奴に忘れられてたって気にしなかったけどな。っていうか余計なことは忘れてくれた方がいい。オレが負けたこととか。
 記憶がないことで揉めはしたが、最初の気まずさは段々と消えてきたみたいで、サヤも今ではゴルベーザとかいう鎧の奴とにこやかに話してる。呼び出された奴を見送る男の目は優しすぎて気持ち悪い。
「なあ、あいつのどこがいいんだ?」
「何処……という訳でもないが」
 尋ねたのはオレで、答えたのはルビカンテって魔物だ。意外に話しやすいそいつは表情を動かさないまま、人間だったら爽やかに笑ってるだろうなって声で言った。でもニヤニヤした目付きがやっぱり気持ち悪い。
「今のサヤは理想的だな。あちらでは叶わなかった願いがここでは叶う。ゴルベーザ様のことだけは残念だが」
 理想、ねえ……。こいつらの世界のことなんか知らないけど、サヤも召喚魔法を使えるくらいだから、やっぱりルビカンテも使役されてたのか? 別の世界に来てまで主従であることにこだわらなくてもいいのに。

 ここはサヤの世界とは違う場所だ。ヴァナ・ディール……世界に名前がついている、というのがまず異質だな。そこの住人は常に自分達が何かの中で生きているって考えて暮らしてるんだろうか。
 あいつが簡単にこの閉じた世界へ入り込んできたのも理解できる気がする。そこは、世界っていう存在を意識できる場所なんだろうな。
 オレがいたところでも世界が分裂させられたりしてたし、ルビカンテのとこでもいろいろと問題があったらしいけど、自分の居るのが「どこか」なんて考えもしなかった。サヤの異常さはきっとそこにある。
「まあ、強いのは認める。主人に相応しいだけのものも、もしかしたらあるのかもな。でもさ……」
 あの女、オレをペット扱いしてるんだぞ! とはなかなか口に出せない。だって屈辱だろう。例え従う立場になったとしても、こっちが力を貸してやってるんだってことを忘れられちゃ困る。

「大体、あいつの周りが気安すぎるのが駄目なんだ」
 ギルガメッシュもそうだし、ルビカンテを含めた四天王とかいう奴らも、なんか幻獣王だとか王妃だとか呼ばれてる奴らでさえ対等みたいな顔で話してる。……うん、まあサヤもオレも同じ召喚獣で、まさしく対等なんだけどな。
 だけどあいつは元々人間だ。オレ達とは根本的に違うはずじゃないか。
「親しくなれるのは喜ばしいことだと思うがな」
「でも本来、召喚獣ってのはもっと敬われるべきだろ」
 怒りもあらわに鼻息を荒くしてると、ルビカンテが憐れみを篭めて見つめてきた。
「恐らく相手によるのだろうな。ラムウだったか……彼などにはサヤも敬意を持って接している」
「うっ……」
 あの厳格そうな爺さんか。そういえばそうだ。あれは間違ってもどっかのジジイみたいに気軽に出歩いて冒険者にぶっ倒されてひょいひょいついて行ったりしないんだろうしなぁ。
 最初に見た時は軽くショックだったもんだ。他の世界のラムウって皆あんななのか? 羨ましい。
「……でもさ、だったらオレにも敬意を持つべきだろ?」
 同格の召喚獣なのにこっちはペット扱い。納得いかないに決まってる。そもそもオレなんて、あのエクスデスに警戒されて城に封じられてたんだぞ! いや、実際はちょっと馴染んじゃってたけどそれはいいんだ。もっと畏れ敬えよって。

 自分の話題と知ってか知らずか、送還されてきたサヤがこっちに駆け寄ってきた。いつも通りカーくんとか呼んで抱き着かれ、思い切り顔をしかめてみせるが効果はない。
「だあっもう! だからペット扱いするなって」
「何の話してたの?」
「無視すんな!!」
 暴れまくっても腕から逃れられないオレを憐れんでるのか何なのか、ルビカンテが苦笑してサヤの頭を撫でた。
 そうか、これだな。こいつらは皆、ゴルベーザの配下だって自負がある。だけどサヤは更にその庇護下にあって、オレはそのまた下の愛玩動物扱いだ。本当は同列なはずなのにこの落差、気に入らない。
「おい、お前ってオレを何だと思ってるんだ?」
「え? 仲間でしょ」
 真顔で返された言葉に唖然とした。いや、仲間だよな、まあ。間違ってはいない。でも何だこの違和感……。仲間とか言いながら抱きしめて撫で回すのはどういうわけだよ。
 何が不満なのかと言いたげなサヤをひとしきり構ったら、ルビカンテはそっとオレを奪い取った。地面に降ろされて今までオレを抱いてた奴を見上げる。……べつに未練じゃないけど不愉快だ。

「さあサヤ、次は私の番だ」
「え、ああ、うん。えっ?」
 悠然と両手を広げたルビカンテに導かれ、すっぽりそこに収まって不思議そうな顔をする。おお、なんだ、最高にイラッときた。
「カーバンクル、お前は下に見られているから不満なのではないだろう」
「はあ?」
 戸惑うサヤを抱えたまま、したり顔で続けた奴いわく。
「己を下に見ているから、気安くご主人様に近付いてくる同輩が気に食わないわけだ」
「…………」
 なんだよそれじゃあ、オレがサヤを主として認めてるってことか? だからこそもっと扱いを良くしろって? ……否定の言葉はどっから持って来たらいいんだろう。
「ねえだから何の話? あと離してほしいんですけど」
 居心地悪そうに身をよじる「ご主人様」を気にも留めず、ルビカンテは相変わらずマイペースに愛でまくっている。こいつ、一度負けてからなりふり構わなくなってきたな。オレと同列だって自認したし。なーるほど、よく分かった。
「とりあえずどけ、ルビカンテ。そこはオレの場所だ!」
「残念だが私も譲る気はない」
「えー……なんか仲間外れにされてるけど割り込みたくない」
 どこがいいんだ? どこって訳でもないが、サヤは自分も相手も気にせず全部を同列に扱う。抜きん出るのはさぞかし心地いいだろうなと思うんだ。
「勝負だな、カーバンクル」
「立ち直れなくなるほどカッコ悪く負かしてやるよ」
「わーなんだこれ、わたしどうしよう」
 オレも一度、負けたからな。同じ召喚獣であってもサヤはオレの主だ。だから、不穏な目で見るのは許さないぜ。

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