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解明への灯

 見上げるはずの青空が眼下にあるのって、すごく妙な気分だ。地面は遠くにさえ見えなくて、ただどこまでも空が続いてるだけ。足を踏み外したら永遠に落ちていきそう。
「高いとこ、慣れててよかったぁ」
 ゾットの塔から見下ろす地面は、その遠さがリアルで青褪めさせられた。でもやっぱりこれだって充分怖いんだけどね。落ちたって死ぬわけじゃないのも、わかってるけど。
 ギルガメッシュは隣で腰掛けて、床の縁から足を投げ出して揺らしてる。……さすがにそこまでくつろげないなぁ。下を覗き込むだけで精一杯だよ。
「別に落ちたって平気だぜ? ……デジョンに巻き込まれて戻って来るだけだしな」
「なんか震えてるよ」
「気のせいだ」
 落下は平気なのにデジョンは怖いんだね。確かに、空間を破ってどこに出るかわからない。帰って来られないかもしれないと思うとわたしも怖い。ヴァナ・ディールじゃデジョンは帰るための手段だったのに。

 少し離れたところで、宙に浮いた塔がふっと消えた。ここの地形は変化が激しくて、うっかりすると足元の地面がなくなって真っ逆さま。高所恐怖症の人には最悪だろうなー。わたし、戦士として喚ばれなくてよかった。
「そういえば、バッツって高いとこ怖いんじゃなかった?」
「そうらしいな。大体いつ呼び出されても涙目で戦ってるぜ」
「どこ行っても空中戦多いもんねー」
 可哀相だ。この間「カオス神殿が落ち着くんだ」って言ってたのも、あのマップがひらべったいからなのかも。コスモスさんも、選べるなら高所が平気な人を呼べばよかったのに。
 また周りの足場が消えた。頭の中に、ゴルベーザが戦ってる場面が浮かぶ。この間シアターで見たせいかもしれない。あと、ガーランドとかエクスデス。何て言うか重そうな人達。
「ああいう、消える足場あるじゃん」
「んー」
「あそこ乗ってたら、地面がなくなった時に落ちるよね?」
「そりゃそうだろ」
「じゃあ、落下してる時に足元に地面が出現したら、そこに乗っかるの?」
 ちょっとマヌケな構図を二人で想像しつつ、ギルガメッシュが頷いた。
「見たことはないがそうなるんじゃねえの。滅多に無いと思うけどな」
 あんなに重そうな甲冑だって支えられる、フォースの流れなんかとは違うちゃんとした物体だから。

 今わたしが腰掛けてる足場が消えたら、落ちる。落ちてるわたしの下に足場が現れたら、そこに乗っかる。ってことは?
「じゃあ人がいるその場に足場が現れたらどうなるの?」
「……どうって」
 足場が現れる場所はランダムだもん。一箇所で存在が重なってしまったら。人か足場、どっちかが弾かれるとか。それとも、石の中に閉じ込められちゃう? だけどあれだって空洞ではないはずだから。
「……石と人とが混じり合ってぐちゃぐちゃに」
「きっ、気持ち悪い想像させんな!」
「足場が消えた時にはもうそれらは人の原型を留めてはおらず」
「止めろっての! そんなえげつないことにはならん、多分な」
 でもー、ここってエクスデスの領域なんだよね。だからバッツが一番苦手な造りになってるのかなとも思うし。……ああいうグロテスクなお城に住んでる人ならえぐいトラップ仕掛けそうだもん。
「ここは何も混沌の支配域ってわけじゃないからな。秩序の力も働いてんだ、そうそう無惨なことは起きねえよ」
「ふーん……」
 言われてみれば、皆あれだけ派手に戦いまくってるのに殺したり殺されたりって事態には陥らないもんね。それなりの秩序は保たれてる。そもそも存在が重なっちゃうこと自体が起こり得ないのかも。
 ……でもさ。あの消えたり現れたりの足場をじっと見てたらわかる。どこに現れるかはランダムだけど、場所は大体決まってるんだ。

「人がいたり物がある場所には足場は現れない?」
「と、俺は思うぞ。実際あれと同じ場所に出ちまってどうしたって話も聞かないし」
「じゃあ足場が現れる可能性のある場所を全部塞いじゃったら?」
「……」
 どこに出現しても必ず何かと重なってしまう状況を作れば、どうなるのか確かめられる。バインドを駆使すればきっとできるはず。
「そりゃやっぱり……全部塞いじまったら……どっかに出なけりゃ仕方ないしな」
「運の悪いどれかがスプラッタ」
「おいサヤ、まさか試す気か?」
「ギルガメッシュはあの端っこ担当ね」
 あんなとこまでバインドは届かないけど、空中戦の得意な人なら大丈夫だ。でも危ないからバルバリシア様はだめー。残りはバハムートにティアマットにカーバンクルに……。
「ちょっと待て、なんで俺が!? 確かめたいなら自分でやれよ!」
「わたし魔道士だしジャンプとか苦手だし空中で停止できないもん」
「嘘はいかんぜサヤ、お前が竜騎士にチェンジできるのは分かってるんだ」
 むう……カーくんだな、ばらしたの。
「わたしは嫌です。石と重なってスプラッタとか!」
「俺だって嫌だ!」
「大丈夫、死なない死なないたぶん」
「多分!? 多分っつっただろ今!」
 皆が戦いを終わらせるために頑張ってるんだから。わたし達もせめて世界の謎を一つでも多く解明するくらいの役に立とうよ。……うん、ホントはただの興味本位。
 それが危険なことなら誰かが確かめておかなきゃ。そしたら「不慮の事故」は止められるでしょ、って、誰にともなく言い訳してたら。
「なんで抱え上げられてるのかな?」
「死なばもろとも」
「……わわわたしを巻き込まないでよ!」
「まあ言われてみりゃ俺もどうなるのか気になるしな」

 そして余計なことに気づいてしまうのがわたしだから。さっきギルガメッシュは、混沌の支配域ってわけじゃない……って言ってたけど、今この次元城は、
「カオスジャッジなんですけどぉぉ!!」
「大丈夫だ。俺は自爆したって死なねえ男だからな!」
「わたしは!? ねえわたしは!!」

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