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モーグリスーツ

 なんだろう、この既視感。わたしを見つめるルビカンテの、まじまじと見開いた目。動揺しすぎ? でも前にもこんなことがあった気がする。
「サヤ、その格好は一体……」
「ちょっとモーグリの代理で」
 里帰りするからよろしくクポーっていつものやつ。自分がいない間に召喚されたら困るから、その時はこれを着て身代わりになってね……って渡されたのがこのモーグリスーツでした。
 っていうか、ねえ。里帰りって。普通に帰れるわけ? じゃあわたしここで何やってんだろう……。

 正直この着ぐるみ、可愛いけどアホっぽい。ルビカンテならバカにしたりはしないだろうけど、何やってんだこいつって視線はやっぱり悲しい。
「……かわいい?」
「ああ、とても可愛い」
 うーん、自分で聞いといてなんだけど真顔で返されるとちょっと照れちゃうな。ルビカンテって動物に弱いねー。
「したかったらモフモフしてもいいけど、」
「い、いいのか!?」
 目がキラキラしてるよ、ちょっと可愛い。っと思ったのも束の間で、次の瞬間にはものすごい力で引き寄せられて、ルビカンテの胸板で顔面をぶつけた。うう、痛いし熱い。

 自分で抱き着くのはいいけど抱き着かれるのは微妙だなぁ。ルビカンテは熱いから動物に嫌がられるのかもね。火とか怖がるし。だから飢えてるのかもしれないけど、それにしても。
「ちょっ、調子乗ってどこ触ってんの!?」
「ああ……この手触り……堪らないな……」
 やばいこの人、恍惚としてるよ。わたしだって犬とか猫に触ってるときはこんな状態かもしれないけど、息も荒いし体中撫で回すしどう見ても変態です。お、おまわりさーん!!
「うーっ、なんか一方的に触られるのって理不尽」
「私はもう少し毛が長い方が好みなのだが」
「好みとか聞いてないし、人の話聞いてよ」
 わたしは短毛種だって好きだな。ってそうじゃなくて。この着ぐるみ、素材は何なのかな? まさか本物のモーグリの毛皮……じゃないとは思うけど、手触り質感は本物そっくり。
 指に優しい滑らかな毛先がすべすべで、毛の流れに逆らって撫でると顔がニヤニヤするくらい幸せになれる。わたしもこれもらった時は小一時間モフモフしてたし。ってだからそういうことじゃなくて。
「あのね、そこお尻だから」
「ああすまない、道理で柔らかいと」
「うっさいな! どうせ贅肉の塊ですよ!」
「褒めたのだが……」
 そんでもって離してはくれないんだね。体質のせいで動物に嫌われるなら可哀相だなって思ったけど、これはルビカンテ自身に問題があるんだきっと!
「押せ押せじゃなくてたまには引かないと、動物は逃げるよ!」
「押せば通る相手には全力でかかるのが私の信条だ」
「……わたしって押せば通るの?」
「現にサヤは私の腕の中にいるだろう」
 だってがっちり抱きしめられてて抜け出せないんだもん。腕突っ張ってぐーっと押してもほら、びくともしない。むぎぎぎ。あとそこはお尻だと何度言えば分かるのかな! 着ぐるみ無かったら変態だよ? いや着ぐるみ越しにだって変態だよ。
「ね、猫だって撫ですぎると痩せるんだから!」
「サヤは猫ではないから安心だな」
 あーっもう、誰か召喚してくれないかな! でもモーグリの効果ってどんなだっけ。まあいいや、適当にブレイブ上げとけば怒られないよね。モフモフしない人に呼ばれたいな。

「なあ、頼みがあるんだが」
 わたしの頭に顎を乗っけて、ぽんぽんを突きながらルビカンテがぽそっと言った。だ、だらけきってるなぁ。あんまり見たことのない姿だね。
「……あんまり聞きたくないんだけど」
 そんなあからさまに悲しそうな顔されると罪悪感がわくからやめてよ。あといい加減に腕を緩めてほしいです。内臓が圧迫されてきた。
「えー、じゃあ聞くだけ、ね」
 何も引き受けるなんて言ってないのに、もう安堵感たっぷりの顔でルビカンテが姿勢を正した。肉球はあっても長い指はない丸っこい着ぐるみの手をひっしと握りしめて、かつてなく真摯な眼差しが注がれる。
 ええー、何なの? なんかすごくやだな。
「サヤ……ずっとその姿で私のそばに、」
「絶対いやだよ」
「な、何故だ!?」
 だって一生撫で回されまくりじゃん、普通いやだよ。っていうかこれ地味に熱いし長時間着てたくない。内側はゴワゴワしてて気持ち良くないんだもん。可愛いのは事実だけどモーグリが帰ってきたら即おさらばだね。
 それに、万が一ゴルベーザに召喚されて、こんなばかな格好してるの見られたくないし。好きでやってるんじゃなくたってカッコ悪いからいやだね!

「ルビカンテって……わたしよりモーグリの方が好きなんだ」
「それは違うぞ。私はモーグリが好きなのではなく、その格好をしたサヤが好きなんだ!」
 いやそんな力説されても嬉しくないし、それってつまり普段のわたしよりモーグリ色の濃い今の方がいいってことだよね。……本気で落ち込む……。
「そんなに好きなら、これあげるからルビカンテが着れば?」
「……それの何が嬉しいと言うんだ」
 嬉しいかどうかはともかく、面白いよ。モーグリスーツ着込んだルビカンテ。ウッだめだ想像したら笑えてくる。
「妙な想像に使わないでくれ」
「ごめん。でも次はわたしがモフモフする番だと思うの」
「自分で着てしまったら私は堪能できないじゃないか」
「わたしのこと散々いじくりまわしたくせにー。ルビカンテにお尻撫でられたってバルバリシア様に言いつけてやる」
 って言ってもルビカンテには他の二人ほど効果がないんだよね。やっぱり四天王最強としての自負があるから? それとも単純に喧嘩するのも楽しいだけかな。
「……その体型ではどこが何だか分からないんだ」
「じゃあ触らなきゃいいと思うよ」
 ムッとして睨みつけたら、ルビカンテが言葉に詰まる。何となくそのまま見つめ合うはめになって、その体がプルプル震え始めた。……ん?
「駄目だっ、サヤ!!」
「わぶっ」
 なんか変だなって油断してたところにまた抱き着いてくるし。また顔面ぶつけるし。こんなことしててメロンの断面みたいな顔になったらどうしてくれるの!?

「頼む! ずっととは言わないからもう少しこのままでいてくれ……」
「ど、どんだけ飢えてんの」
「こんなに触らせてくれる動物はいないんだ!」
 そりゃまあそうだろうけど。火のルビカンテだもん諦めなよ……、ってか動物。わたし動物扱い。モーグリなんですけど。いやモーグリじゃなく人間なんです。
 でも、あー、そうやって幸せそうな顔してすりすりされたら悪い気はしないというか。
「しっ、仕方ないなぁ。でも召喚されたら行くからね」
「分かった」
「うっかり燃やさないでね?」
「もちろんだ!」
 ここまでデレデレのルビカンテって珍しいし。……誰にも召喚されませんようにー、って思わなくも、なかったり。

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