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 過去を苛む闇から逃れて、目を開けば青褪めた部屋に一人きり。穏やかな夢に包まれることは許されない。踊るようにもがきながら、罪を責める悪夢の中で這いまわり続ける。静まり返った孤独……本当に、目を覚ましているのか。こちらが現実だと言えるのか。

「大丈夫?」
 不意に背後から響いた声に振り返ると、遠い面影の中の少女が佇んでいた。
「会いにきてくれたのか」
「夢だけどね」
 変わらない表情は最後に見た時のまま。幻でもいい。何かに縋ってしまいたい。身動ぎもせず私を見つめる少女に手を伸ばす。その姿が水面のように揺らぎ、私の手は何も掴むことなくサヤの影をすり抜けていった。

「……なぜいつも、触れられないんだろうな」
「ゴルベーザが望んでいないから」
 そんなはずはない。これほど強く願っているのに。何にも覆われることなく、真実の姿でサヤに触れたいと。かつてできなかったことを、せめて夢の中で叶えたいと。罪悪感に狂いながら、私の存在を許してくれることだけを、求めているのに。
「わたしは真実ではないから」
「……そうだな」

 目の前にいるのはサヤではない。彼女の姿を借りた、ただの記憶。彼女がここにいれば私を案じてくれるだろう。苦い記憶ばかりに気をとられず、たまには静かに眠ればいいと言ってくれるだろう。そんな私の甘えにすぎない。
 目を閉じると面影は消えた。彼女はここにいない。彼女だけではない。守りたい、大切な存在は、何ひとつ私の手元に残らなかった。それでも……どこかできっと、幸せに生きている。それだけで満足しなければ。
「眠るの?」
「ああ」
「おやすみ」
「……おやすみ」

 覚めて見る幻も、記憶の中の面影も、過去と繋がるための糸。確かにこの手にあったはずの存在を想う。手繰れば悔恨を纏って甦る。その痛みよりも、糸が切れてしまうことが怖い。
「また会いにくるよ」
 思い出し続けていなければ、すぐに消えてしまいそうなほど弱い。強く掴めば、手に入った瞬間消えてしまうだろう。まだ壊れてしまったわけではない。淡く浅く、遠く……。
 見つめていられれば――。

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