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荒野の花

 足元には真っ白な大地が広がって、頭上を真っ黒い空が覆いつくしてる。夜も昼もない、モノクロームの世界。あるのは闇と光だけ。
 なんて極端でつまんない世界。現実とは思えない。命の存在すら拒否してる、ってそんな感じ。
「なんでもいいから色がほしいよね。花とか植えてみる?」
「必要ない」
 ゼムスはわたしの提案をにべもなく切り捨てる。ちょっと考えるふりぐらいできないかな、もう。
「じゃあちょっと斬り合いでもしてみようか。この色彩のない世界に、真っ赤な血のバラの贈り物、とか」
「……ふっ」
 ああっ、その冷たい目。口ほどに物を言うって本当だね。言葉にしなくってもよく分かるよ。「こいつ救いようがないぐらい馬鹿だな」って言ってる。
 考えてみればこの世界にきてからずーっと放置されてたようなものだもん、今更って感じだけど……ゼムスってわたしのこと構ってくれないな……。

「見る者のない花に意味はなかろう」
「ゼムスが見るでしょ」
「……我が為に咲く花なら、すでにある」
「えっ、どこに?」
 こちらに来い、と招きよせられてゼムスと向かい合う。至近距離で見つめられるとちょっと照れるんだけど。ゼムスはわたしの目を覗きこんだまま動かない。
「な、なに?」
「向かい合っていれば互いの存在を確かめられると、そう言ったのはサヤだろう?」
「……うん。……花は?」
「ここに、咲いている」
 言ってわたしの顎をつかんだ。目が離せない。見つめ合った瞳の中にはわたししかいないのに。それってつまり……うわあ! なんかもう体中カーッと熱くなった。なんて気障なこと言うの、ゼムスのくせに。
「この花はずいぶんと色づいたようだな」
「うううるさい! こっぱずかしいこと言うからだよ!!」
 低く笑っていたゼムスが急に真顔に戻って、本当にぽつりと、つぶやく。
「……いいものだな」
 なんのこと? と聞き返せば、びっくりするぐらい穏やかな声でゼムスが答える。

「ここで自分以外の何かを目にするのは……初めてだ」
「最初のときは?」
「サヤの存在は感じたが、姿は見えなかった」
 そうだったんだ。わたしもゼムスの姿は見えなかったもんね。あの声が聞こえたときの安心感を思い出した。そして同時に……。ゼムスにはずっと聞こえなかったんだ。何も。
「……わたしの花言葉は?」
「残されるもの」
「ロマンチストだね」
「そうか」
 消えない何かを確信できる。だけど、一緒にいくこともできないって、希望も絶望もぜんぶ込められてるんだ。
 どうしてだろう。憎しみに満ちた言葉も、今このときの優しい顔も、どっちもゼムス自身なのに。今からでも封印なんか破って普通にやり直そうよ、って思うのに。
 だけど、すり減ってたった一つ残されたゼムスの願いは、生きて幸せになることじゃないんだ……。

「わたし、どうしたらいいかなぁ」
「……お前が誰かのために生きる必要はない。在りたいように在れば良い」
「わたしには優しいのにね」
「サヤはこの世界の存在ではないからな」
「幻だって……同じものを見ることぐらい、できるよ」
「分かっている。お前はずっと、そうしてきたのだろう」
 そっか。分かってるんだ。ちゃんと、分かってくれてたんだね。……じゃあ、もういいか。
 消えたあとに、残ってるもの……わたし、大事に咲かせるよ。ゼムスの願いのために。

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