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終わりに向けて

 終わりへの道程を辿ってる。これからも時間は過ぎていくけど、わたしに見届けられるのはここまで。少し安心してるのはなんでかな。もう終わりだから? どうしようもないって諦められるから。……感情が麻痺してるみたい。いやに穏やかな気持ち、そこに罪悪感もない。
 お腹も減らないし、もしかしてこの封印の中って時間止まってるのかもね。月の民ってすごい。ただゼムスを閉じ込めておくためだけの結界が、こんな力を持ってる。永遠に一人、苛立ちも後悔も消えて何もなくなるまで……。
「……切羽詰まってたなら、皆であの星に降りちゃえばよかったのにね」
 なんて言ってみたくもなる。だって単なる異文化交流じゃない。ある日とつぜん文明が入ってきてなにもかもが変わる。それってそんなに罪なこと? どうせいつかは時間の流れに埋もれてしまうのに。
 よくあることじゃない。それが争いを生んだとしても、一方の暴虐と支配を招いても、ただ寝て待ってるよりずっといいと思うけど。生きてくうえで諍いも死も避けられないなら、戦って勝ち取ることも必要かもしれない。
 まあ、部外者には何が一番よかったのか、わかんないけど。結局導き出された未来がこれじゃあ……振り返って見る過去は馬鹿らしいだけだね。

 ふと見るとゼムスは、いつもより開いた目、ちょっと緩く上がった眉でわたしを眺めてた。えっと……びっくりしてる?
「ゼムスって今まで誰かに受け入れてもらったことあるの?」
 相変わらず返事はないけどその表情。顎をくっと上げて目を細めて「あったらこんな場所にいるものか、愚か者が」ってトコかな。わー、わたし無言の言葉を読み取る経験値、上がってる。うれしくない。
「……性格、悪いもんねー」
「お前も他人のことは言えまい」
「わたしはいい子だと思いますけど」
「術を組み上げ彼の世界に手を伸ばした折、真っ先に触れたのはサヤだった」
 ……えっ、なにそれわたしがゼムスと同じくらい腹黒いってこと? ……怖いから聞かないでおこう。

 何もしないで時間を過ごすだけ。あんなに嫌だったはずがまた同じことをしてる。そのくせ気持ちはすごく穏やかだ。何を待ってるのかちゃんとわかってるから。もう失うものもないし……。
 ゼムスはいつ帰してくれるつもりなんだろう。ゴルベーザに会って目の前で消えてしまうのと、知らない内に消えていたのと、どっちがマシかな? どっちでもひどい。だけど、このまま会わずに帰るべきかな。
 言い訳……したかったけど、何を言えばいいんだろう。認めたくないけど逃げ出してしまったのは事実なんだ。何かの救いになればいい。少しは支えになれたらいいって思ってた。
 それでも最初から終わりは見えてて、結局わたしはゴルベーザを置いて帰るんだ。なにもかもは渡せない。本音を隠し続けてたのはお互い様。でも嘘はついてない、と思う。
「……楽しかったなぁ」
「辛い事の方が多かったのではなかったか」
 楽しかった。傍にいたかった。一緒に生きてみたかった。……守ってあげたくて、支えてあげたくて、何より、後悔を和らげたかった。嘘ばっかりじゃないよ。無駄な時間を過ごしたんじゃない。全部が過去になってしまっても気持ちはずっと変わらない。
「でも、ずっと楽しかった」
 まるで自分に言い聞かせてるみたいだけど本心だよ。なんだかワケわかんないままこっちの世界に来ちゃって、思ったより楽しく、妙に普通な日常を過ごしてた。その内に避けられない物語が迫って来て、目を逸らせずに巻き込まれて流されて。
 苦しくて辛くて、元の世界に戻るまでちょっと楽しむつもりだったのに、思った以上にわたし、ここで生きてたんだなぁ。

 最初に受け止めてくれたのはゼムスだった。だから生きてきたのはゼムスのため。でも、一緒にいたのはゴルベーザ達だ。
 ……会わずに消えようか。会ってしまえばきっと、言い訳せずにおれないもん。わたし裏切ってないよ、逃げてない、わたしが悪いんじゃないって。そんなこと誰にだってどうでもいいじゃん。自己満足にしかならない。
 好きに判断してくれればいい。わたしがここに確かにいたって、誰の傍にいたのかを自分でわかってくれてたら、大丈夫。伝わるはず……。
「……ちょっと寝ようかな」
「暢気なものだ」
「だって退屈だよ、ここ」
 うっかりすれば憎悪が積もっちゃうくらい。眠って、楽しいだけの夢を見よう。そして穏やかな気持ちで帰れば、もう一度……会いたいって、素直に思える。

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