あったまりましょ。
「ふはーっ!さびぃ!」
「晩秋っすかね…」
練習を終え、クラブハウスから出ると、冷たい秋風が丹波と堀田の間をヒュウと吹き抜けていった。
「あーっ、これ、ぜってぇ服の選択ミスったわ…」
丹波は薄手のジャケットの上から腕を十字に組んで身震いした。
風が吹く度に、体をギュッと縮こまらせる。
「……お前はあったかそーだよな…」
「そんな顔しても貸さないっすよ…」
「ぐわっ!冷たい野郎だぜ!ちっとくらい貸してくれたっていいだろー」
「わーっ!引っ張んないでくださいよっ。俺だって寒いんすから!そんなに寒いなら早く車に乗ればいいじゃないっすか!」
「今車検〜っ!」
ヒュウッ
冷たい風が吹く。
二人は同時に身震いをした。
「くっそ…さみぃー…」
「こんなときは、あれっすよね…」
「「鍋っ」」
「で、何しに来たんだよ…」
「鍋しに来た!」
はいっ!と丹波はテンポ良く鍋の材料が入ったビニール袋を差し出した。
「やあっぱ、こうゆう時は堺ん家が一番だよなぁ」
うんうんと一人頷く丹波の後ろには、申し訳なさそうな顔をした堀田と、途中で合流した石神。
「は?おい、一体なん「「お邪魔しまーす」」
堺があっと声を上げる間もなく丹波と石神が家に侵入した。
そのあとに、すみませんと一声かけて堀田が続く。
「ちょ…不法侵入だぞてめぇら!」
「おほっ!コタツだ!」
「なー堺ーコンロどこー」
「待てコラァ!盗賊かてめぇら!!」
勝手に室内を徘徊する丹波と石神。
度々堺の家に訪れる、基侵入する二人にとっては、もはや勝手知ったる領域だ。
堺は先程渡されたビニール袋を、ドスンと音を立ててテーブルの上に置いた。
「石神ぃ!勝手にコタツで寛ぐな!私物を置くんじゃねぇ!丹波ぁあ!!コンロはそこじゃな…あっ、棚の中身を出したら戻せよっ」
「堺さん」
「堀田っ、あいつらどーにかしろ!」
「だしは昆布っすか?」
「堀田あああああああああ!」
何なんだお前らーっ!
堺の悲痛な叫びが響いた。
「なぁまだ?」
「まだまだ」
「まだー?」
「あと少し…」
「もういいだろー」
「……よし、開けていいぞ」
落とさないように慎重に鍋の蓋を持ち上げると、部屋中になんともいい匂いが広がった。
白菜、春菊、えのきにシイタケ。
ネギに豆腐、白滝、鶏の肉団子。
彩り鮮やかな具材達が、堺特製だし汁で煮込まれている。
「うはー…うまそ…」
視覚と嗅覚から食欲をそそられ、コタツを囲んで座る四人の腹が鳴る。
パンッと小気味いい音を立て、手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
丹波、石神、堀田、堺の順で取り皿に盛り付け、最初の一口を口に運んだ。
「美味い!」
「んーっ、最高ーっ!」
「んん、美味いっす!」
「うん…中々だ」
「流石は堺、俺の見込んだ男だな!」
丹波が取り皿を片手に、ビシッと親指を立てる。
石神もそれに続いて親指を立てた。
「いや…こんぐらいどってことねぇよ」
満更でもなさそうに堺が笑みを浮かべる。
「いや、マジで美味いっす」
堀田が口元に白菜を運びながら言う。
「白滝がうめぇ…って、おい石神!白滝解くんじゃねぇ!」
「えっ、これって解くもんじゃないの?」
「ばっ、解かねぇよ!なぁ!?」
「いや、俺は解きますけど」
「俺も」
「嘘ーっ」
「豆腐うまー」
鍋の食べ方についてぎゃいぎゃい口論しながら、どんどん箸を伸ばす。
堺宅は鍋に懸ける男達の熱気に包まれていた。
「あっ、肉団子ラスト一個だぞ」
「うっそ、堀田何個食った?」
「三個っす」
「堺は?」
「三個」
「石神は?」
「……二個?」
「あああっ!お前それ絶対嘘!お前絶対三つ食ったろ!」
「く、食ってないぜ〜」
「目ぇ泳いでるぞ!?」
「まてまて、ここは公平に決めるべきだろ。だいたい鍋の準備したのは俺だろ?なら別に俺が食ってもいいだろ」
「おいいい!それのどこが公平なんだよ!材料買ったの俺なんだけど!」
「まーまー、ここは間をとって俺ってことで」
「なぁにが間だっ。調子いいこと言ってんじゃっ……ってないいいいいい!!」
「食っちゃいました」
「「「堀田ああああああああああああ!!!」」」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
四人は空になった鍋を見て、ため息をついた。
「美味かった……けど疲れた」
肉団子争奪戦の後に投入されたうどんにより、更にヒートアップした四人は、心地好い満腹感とともに凄まじい疲労感にも襲われていた。
「いやまじ…お前どんだけ容赦ねぇんだよ……堀田」
「勝負の世界に上も下もないっすから」
「うーわ、なんかそれムカつくわ」
わーっ、と堀田の頭を掻き乱しにかかる丹波と石神を見て、堺はため息と笑みを同時に零した。
(……あ)
(よもやこいつら、泊まってく気じゃねぇだろうな…)
温まった体とは裏腹に、堺は一気に心が冷めていくのを感じた。
久々の更新で完全にテンションを見失いました^^
なんてことない、ただ鍋が食べたい話でした
ちなみにたかつきは白滝は解いて食べる派です
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