雨の後には虹が出る


ここんとこずっと堺と口を利いていない。


お互い何があってこうなっているのか分からない。


ただ、二人とも意地っ張りだから、どちらともなくツンツンとした空気を作っている。


俺は自分は絶対悪くないと思ってるし、きっと堺も同じことを思ってる。




明らかに俺を避ける堺。


練習中でもプライベートでも。


近くにいても必ず俺以外のヤツと喋っていて、こっちになんて目もくれない。


始めの内は
そーかよ、そっちがそのつもりなら俺だって無視してやる!と息巻いていたが、やっぱり辛い。


次第に怒りが不安に変わっていく。


俺、何か悪いことしたのかな?


全然そんな覚えはないし、逆に堺に嫌なことをされた覚えもない。


じゃあどうしてこうなっているんだろう?


嫌われちゃったのか?俺。


嫌な想像ばかりが頭の中を駆け巡る。


謝った方がいいのか?


でも、何を?


何て言うのが正解?


グルグルグルグル。


結局何も言えない、何も出来ないままズルズルと引きずっていく。


このままじゃ本当に自然消滅だ。


そんなの嫌だ。


だけど、一体どうしたらいいってんだよ。




俺じゃない、他の誰かに笑いかける堺に胸がギュッと痛んだ。



なぁ、お前は何とも思ってないのかよ。











空にはモクモクと雷雲。


たまに稲妻が走る。


急な夕立に見舞われて俺はクラブハウスの軒下で立ち止まっていた。


生憎車は車検に出していて、傘は誰かに盗まれたらしい。


まぁ大方ガミとかその辺だと思うけど。


取り敢えず帰る足がない俺は雨が止むのを待っていた。


早く帰りたい気持ちとは裏腹に、雨は更に強さを増していく。


ピカッと光る空に思わず身を縮めた。


あークソ。


最悪だ。


情けないが雷は苦手だ。


……こうゆう時に丹波がいたらな。


きっと
しょうがねぇなーってそばにいてくれんだけど…って子供かよ俺は。


31のオッサンだぞ、恥ずかしい。


…でもダメか。最近、なんか気まずくて全然話せやしねぇ。


理由なんて分かんねぇけど、丹波は近寄り難い空気を出してて、俺もそれに反発して丹波を避けてる。


まるでガキだな。


謝れば済むって話でもねぇし、きっと時間が解決してくれると思ってたけど、一向に回復の兆しは見えない。


俺達どうなっちまうのかな。




また空がピカッと光って、割れる様な轟音が走る。


アスファルトにたたき付けられる雨の音。


辺りはまだ夕刻だというのに暗くて、まるで今の俺の気持ちを表しているかのようだ。




丹波、お前はどう思ってんだ。


俺はすごく辛い。













ざぶざぶと物凄い雨の音。


すっかり帰るのが遅くなってしまった俺は急ぎ足でクラブハウスを出ようとした。


ドアまでやってくると、ガラス越しに誰かの背中が見えた。


……堺?


俺よりもずっと早く出たはずなのに、どうしてまだそんなとこにいるんだ。


車、ないのか?


しばらくそのばに立ち止まって堺を見ていると、急に外がカッと光った。


その瞬間に堺の背中がビクリと動いた。


あいつ、雷苦手なんだ。


ゴロゴロと鳴り響く雷の音に耳を塞いでいる。




気が付くと、俺はいつの間にか外に出ていた。




雨の音で俺がいることに気が付かない堺。


また空が光る。


堺はギュッと体を小さくした。


俺は堪らずに堺を抱きしめた。


「っ!あ、丹波!?」


堺が驚いてこちらを見る。


俺も自分の行動に驚いていた。


「まだ…いたのか」


「……お前さぁ、何で何にも言わないわけ?車、ないんだろ」


「お前には関係ねぇだろ」


「ないけどさ、お前、雷嫌いだからさ、心配にもなるじゃんよ」


「……ガキ扱いすんな、平気だそんなの」


「嘘つけ」


ガガッと物凄い音が鳴る。


その瞬間に堺は俺にギュッと抱き着いた。


目をつむって胸に顔を埋める堺の頭を撫でて、
ほら、やっぱり怖いんじゃねーかと呟いた。


「……丹波」


「何?」

「…まだ、行くな」


「大丈夫、止むまでここにいるよ」


そう言って、堺の額に軽くキスをした。







雨の音が遠退いていく。




胸の不安と一緒に。









ぽつりぽつりと葉っぱから雫が垂れる。


雨が止んだ空の雲の切れ間から僅かに光りが差し込んでいる。


俺は堺を包んでいた腕を放した。


名残惜しげに腕から離れる堺が可愛くて仕方がない。


今まで離れていた分、五割増しだ。


恥しいんだか何だか微妙な顔をしている堺の頬っぺたを触ると、ちょっと眉をしかめられる。


ああ、久しぶりに触れ合った気分。


まぁ本当に久しぶりなんだけど。


「堺…」


甘い空気に付け込んでキスしてやろうと思ったが、当の本人は何やら明後日の方向を向いている。


おいおい、台なしだ。


と思ったが、堺の見ている方向を見るとそんな気分は一気に吹っ飛んだ。


「すげー…虹だ…」


「…キレイだな」


水滴が光を反射してキラキラ。


その真ん中に大きな七色の虹。


俺達は顔を見合わせて微笑んだ。





雨の後には虹が出る。


自然と二人の手はギュッと結ばれていた。












お、ちょ、長っ!
しかも何気に一人称で書くの始めてっていうね!
堺さんの雷嫌いを捏造っていうね!
もう、やりたい放題です
ちなみに1番のお気に入りは傘をパクるガミさんっていう
「ビニール傘は公共の物」by石神達雄

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