もう少しだけ優しさを
試合後のバスの中、世良は沈んでいた。
後半残り10分。
スコアは0-0。
一心不乱に攻めに出て、相手のゴール前まで駆け込んだ。
世良はフリーだった。
堀田からのパス。
世良は狙いを定めた。
恐らく、この一球で全てが決まる。
そう思った瞬間、腰が引けた。
思い切り振り貫いたボールはガツンと音を立ててゴールの縁にぶつかった。
スローモーションでボールが芝の上に落ちていく。
結局、その試合は引き分けで終わった。
内容的には決して悪いものではなかったが、勝てた試合だった。
自分がそのチャンスを潰したかと思うといたたまれない気持ちで一杯になった。
「世良ぁ、んな凹むなって。皆が暗くなっちまうだろ!」
隣に座っていた丹波が声をかける。
気を遣ってもらえるのは有り難いが、正直今は放っておいてほしい。
世良は小さな声で返事をして、また窓際にうずくまった。
悔しくて悔しくて堪らない。
しばらく慰めの言葉をかけていた丹波も、
こりゃダメだと見切りをつけてもう何も言ってこなくなった。
窓の外の曇天が更に気持ちを沈ませる。
隣が動く気配があった。
丹波が誰かのところに移動したのだろう。
そうだよなぁ、誰だって嫌になるよな……
世良が下を向いた時、隣に誰かが座ってきた。
丹波が戻ってきたのかと顔を上げると、そこにはムスッとした横顔があった。
「……堺さん」
ぽつりと呟くと、堺がチラリとこちらを見て溜息をついた。
「まぁ、悔しいよな」
思い詰めたような声音に胸がキュッと締め付けられる。
「あれが決まれば勝てたんだもんな」
世良は下を向いた。
堺の声を聞くだけで涙が零れそうになる。
「気にすんなとは言わねぇけど、お前は頑張ったよ」
初めての先発だったもんな。
堺の柔らかな声と、頭に触れる優しい指先。
それだけで元気になってしまうなんて、自分はなんてお手軽なんだろうと自らを嘲る。
本当はいますぐにでも顔を上げて堺と話がしたい。
でもまだこのまま。
もう少しだけ、この優しさに浸っていたいから。
「まだお前には次があるじゃねぇか」
もう少しだけ。
落ち込んでいる“振り”をする。
「元気だせよ」
頭をポンポンと叩かれると、両目から大粒の涙がボロリと零れるのがわかった。
堺は溜息をついて世良の背中をさすった。
世良は堺に縋り付いて泣いた。
ずるいのは分かってるけど、
好きなんです。
世良たんがETUに入りたての頃……だったんですけど、うーん分かりずらい
好きな人に慰めてほしい世良たん
丹波さんは空気を読みました
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