能ある鷹が隠してたもの | ナノ
※泣き虫キャプテンなんて存在してません
「話、あるんですけど、ちょっと付いて来てもらえます?」
部活が終わって部室の戸締りをしていた神童に、明らかに穏やかではない誘い文句を投げかけた。
瞬間、これでもかというほど歪んだ神童の表情。ほんと、わかりやすい。
それでも、コイツは誘いに応じないってことはありえないと確信していた。
応じなければどうなるか予想ができないほど馬鹿ではないし、保身のために断るタイプでもない。
「いいだろう」
予想通りの言葉に、にやりと口の端を上げる。
それに気づいた神童は嫌悪感を隠そうともしなかった。
「じゃあ、付いて来てください」
付いて来るかなんて確認せずに歩き始める。
それでも間も無く聞こえてきた自分以外の足音に、逃げずに付いて来ているということを把握した。
お約束にも程がある、人気の少ない校舎裏。
どの部活ももうとっくに終了時刻を過ぎているので人が通りかかる可能性は皆無だ。
「話とはなんだ?」
「なんだと思います?」
「まだるっこしいことは抜きだ。まさか、先輩との親睦を深めたいだなんてそんなことじゃないだ…っ!?」
言い終わる前に目にもとまらぬ速さで腕を思い切り引っぱった。そして前のめりになったところで、そのまま後方へと足を掬って地面に組み敷く。
「教わりませんでした?変な人にはついて言っちゃいけないって」
耳元でそっと囁けば、見る見るうちに歪んでいくキレイな顔。
「何の、つもりだ」
「気に食わないんですよ、その瞳」
泣いてもなお睨みつけてくるその瞳が。
弱者は弱者らしく、強者の前にひれ伏せばいい。
「奇遇だな。オレもお前なんかに気に入られたいとは思っていない」
「弱っちいくせに、態度だけは一丁前で。プライドだけは高いヤツばっかで。落ちたもんですね、雷門も」
「…黙れ。サッカー部への侮辱は、許さない」
ギロリと、押さえつけたままの頭から視線だけがオレの方へ向いた。
それに言いようのない満足感を覚える。
「フン。この状況で何言ってるんですか?そんなことが言える立場ですか?」
「関係ない。オレはサッカー部のキャプテンだ。貴様になんて言われようと関係ない」
「わかりませんね。なんでそこまで雷門に、サッカーに固執するんです?」
今の雷門にはそこまで固執する魅力なんてない。
強豪と謳われた雷門などすでにどこかへ消え失せてしまったのだ。
「オレにしてみれば、お前のがわからないな。所詮雷門はすでにお前らの管理下にある。潰そうと思えばそれこそ簡単な筈だ。なのに、なぜいちいち突っかかってくる」
「…気に食わないんですよ」
論点がすり替えられたことにも気づかないで、ムキになって呟いていた。
「さっきからそればっかだな。気に食わないから暴力を振るなんて、フィフスセクターのシードとやらは頭の軽いヤツでもなれるのか。小学校をもう一度やり直したらどうだ?」
「アンタ、何?そんなにひどくされたいの?」
お望みなら、と拘束する手にさらに力を込める。ミシッと骨が軋む音がしたかもしれない。
「ま、さか。ただ泣いて助けを乞うより、こっちのがずっとマシなだけさ」
「やっぱ、アンタも変わんねぇな。結局はプライドばっかり高くて」
自分の今の姿を見せてやりたい。どう考えたってそんな虚勢を張ってる場合じゃないだろう。
「なら、泣いて許しを乞うてみるか?」
「オレはそっちのが嬉しいです」
正直なところ、この場面でマジ泣きされたら興醒めだけど。だからと言ってここまで抵抗もなく、冷静でいられるのも気に食わない。
もっと抵抗して、その姿のコイツを屈服させたいのだ。
「オレ達のことをプライドが高いというが、お前もそうだろ?自分のこと侮辱されてカッとなったじゃないか。今のお前、相当面白い顔をして、痛っ」
今の神童の言葉に、無意識のうちにかなりの力を込めていた。
それでさらに神童の顔が歪んだが、何故かそんなんじゃ全然満足できなかった。
「…強者のプライドはそれこそ誇りだ。だけどオマエらの、弱者のプライドなんてエゴでしかない。アンタのそれはエゴだよ」
「自分が強者とでも?」
神童の言葉に迷いなく頷く。
強豪という名の下、ぬるま湯につかってサッカーをしてきたオマエらなんかとは比べものにならないほど。
それは入学式の日に十分見せつけたはずだ。
フッと神童の口から息が漏れた。ため息じゃない。
コイツ、笑ってやがる。
「何が、おかしい?」
「サッカーが嫌いなのにか?笑わせてくれる」
その言葉でハッとさせられた。
サッカーを愛してやまないコイツは今このように馬鹿にされ組み敷かれている。
そしてサッカーを憎んでやまないオレはこうやってそのプライドについて語っている。
神童の言葉でそれに気付いた。他人に指摘されるまで全く気付かなかった。
オレが動揺したのが伝わったのか、神童の笑みがさらに深くなった。
顔を歪めるのはこっちの番だ。
上手くコイツの口車に乗せられた気がした。
主導権を握ってるつもりで、実際握っていたのは組み敷かれてるコイツだった。
初めての感覚に、酷い焦燥感に駆られる。
「お前、本当は羨ましいんじゃないのか?わずかでも思いっきりサッカーができるオレ達が」
「だ、黙れっ」
「本当はお前だってサッカー、思いっきりやりたいんだろ?だけど、変な組織にいる以上、そんなことができない。だから…」
「黙れ!!」
気付けば、胸元を引っ掴んで思いっきりその横っ面を殴っていた。
「こんな安っぽい挑発に乗るなよ、フィフスセクター、シード殿?」
殴られた時に切れたのか、口の端から血が伝っていた。だけど、神童はそんなこと気にする風もなく、明らかに馬鹿にした態度を取った。
「テメェなんかに何がわかる」
「なんにも。言っただろう、オレはお前なんかに興味ない。だが、今の反応からするとあながち間違ってはいないようだな」
「っ」
言葉が出なかった。これでは肯定したに等しい。
自分でもわからなくなった。オレはサッカーが嫌いな筈だ。でも、神童の言葉を受け流すことができなかった。
それは何故か気になって仕方がなかったけど、考えてはいけないと直感的にわかっていた。
「それと、オレが何にも考えないでうかうかとお前の後を付いていくと思うか?」
思考の渦に囚われてると、不意に自分の下にある神童の身体に力が篭ったのがわかった。
「何が言いた…っ!?」
何をどうされたかわからないうちに勢いよく視界がひっくり返って、気付けば視界に映るのは闇に呑まれかけたオレンジ色。
「管理されたサッカーにおいてはお前のが上かもしれない。でも、だからと言ってオレ自身を屈服させようなんて馬鹿なこと考えない方がいいぞ」
それじゃ、失礼する、と乱れた衣服を整えた神童は地面に叩きつけられたオレには目もくれず踵を返した。
徐々に遠ざかっていく足音が完全に聞こえなくなる頃、ようやく思考に整理がついてきた。
「意味、わかんねー」
それが結論だった。
神童のことも、自分のことも。
確かに途中まではオレが主導権を握っていたはずだった。
でも、それさえも神童の思惑通りだったのかもしれない。
いつでも逃げられるから、うかうか付いてきた。しかもその時までそんな雰囲気を微塵とも感じさせなかった。いや、オレが虚勢だと思っていたあの冷静さこそがそうだったのかもしれない。
アイツだけが知りたい情報を得て、逃げられた。それが無性に悔しい。
地面に寝そべったまま、目を瞑る。
だけど、瞼の裏に映ったのは嫌なことばかり。
「…サッカーなんて、くだらない」
息とともに零れ落ちたその言葉はすっぽりと闇に呑みこまれた世界に溶けていった。
無意識京→拓→サッカー、雷門
どうにかして屈服させたい剣城と断固として思い通りになんてなってやらない神童
このくらい男らしい神童ってもいいなって思います
転んでもただでは起きない、強かな神童とか
サッカーとか好きなことを侮辱されたり、感極まると泣いちゃうけど、それ以外は結構男らしい子だったらいい
剣城に対して興味がないとは言ってますが、神童はちゃんと興味は持ってます
ただそれはやっぱ部外者を監視するって意味合いがまだ強いかな
護身術に関しては完全趣味です
でも自分の強さに自信がなかったらひとりで徒歩下校なんてしませんよね
神童は料理以外ならなんでもそこそここなすイメージです
ただ世間との感覚はちょっとずれてるというか、その辺に関してはお金持ちのお坊ちゃんって感じ
料理についてはどっちでもいい
剣城はいうまでもなくサッカー好きですよね
ちゃんと今のサッカーに嫌悪感を示してくれてたらいいです
むしろフィフスセクターに入ったからサッカーが嫌いになったとかでもいい
フィフスセクターと剣城とサッカーの因果関係が気になりますね