たとえ背伸びをしてでも | ナノ

初々しいというかヘタレ剣城と大人な拓人さん














キャプテンからお付き合いの許可が下りてから、一週間が経った。
とは言っても学年は違うし、放課後もオレはオレで忙しいし、キャプテンもキャプテンで忙しそうだから、結局今までとあまり変わらなかった。
変わったことと言えば、夜少しだけメールするぐらい。それも、あっちが先に寝てしまうからあっという間に終わってしまう。


だけど、折角(半ばゴリ押しで)付き合えることになったのだから、もう少しそういう恋人らしいことをしてみたい。
オレだって列記とした中学生。好きな人とは一緒にいたいし、もっとしゃべってみたいって思うのが普通である。

だが、キャプテンにかかる迷惑を考えると、教室に押し掛けたりというのはなかなかできなかった。
一応付き合ってはいるけど、その想いの比重は明らかにオレの方が大きい。下手に積極的に行動して嫌がられるってのは絶対避けたい。
そうでなくても第一印象が最悪過ぎたから、気が気ではないのだ。


なので部活が休みで、オレの予定がないのが運よく重なった今日、昇降口の前でキャプテンを待ってみることにした。

ケータイをいじっていると、数分もしないうちにキャプテンは昇降口から出てきた。見た限りでは隣にはあの幼馴染も三年のゴールキーパーもいない。
オレに気付いたのか、こちらに向かって来てくれた。その何気ない行動が、オレにとってはとてつもなく嬉しいわけで。

「剣城じゃないか。どうしたんだ?誰か待ってるのか?」

アナタを待ってました、とストレートに気障ったらしい言えるわけもなく。

「あ、の…もしよかったら一緒に帰りませんか」

こんな情けない言葉しか出てこなかった。

それでもキャプテンは嫌な顔一つせず、快くオレの言葉に頷いてくれた。


キャプテンは意外にも徒歩で通学してるということを知ったのはごく最近だった。
その家柄からてっきり車送迎(ベタにリムジンとか)かと思っていたから、まさかこうやって一緒に帰れるなんて夢にも思わなかった。

「待たせてすまなかったな」
「いえ、オレが勝手に待ってただけですし」

下手に出てるわけでなく思ったことをそのまま言えば、キャプテンは照れ臭そうに笑った。

じゃあ、行こうかと、歩き出したキャプテンの横をためらいがちに並んで歩く。
ちらっと盗み見した神童の横顔はすでにいつのも凛々しいものへと戻っていた。


これは、付き合う前から思ってたことだけど、キャプテンは大人っぽい。というか、常に周囲のことを把握してて適切な判断を下してる。サッカーに対しても、ほかのことであっても。
金持ちであってもそれ特有の嫌味っぽさなんて微塵にも感じさせないし、オレなんかと違って人好きのする性格だと思う。
きっとそれがキャプテンがキャプテンたる所以なんだろう。オレと一つしか違わないのに、そんなキャプテンは酷く大人びて見えた。

でも、だからこそ、そんなキャプテンの支えになりたい。本当は酷く繊細で、すべてをひとりで抱え込もうとしてしまうこの人を守りたいと思う。

それはそんなに容易いことではないだろうけど。
きっとキャプテンだって年下にそんなことを思われても有難迷惑だろう。

たとえばあの幼馴染なら、あのゴールキーパーなら、きっと神童は頼るかもしれない。
一歳、という差がとてつもなくもどかしく感じた。

だからこそ、一歩でもキャプテンに近づきたかった。


「…手つないでいいですか」
「え?」

目を見開いたキャプテンを見て、言った瞬間後悔した。

まだ早かったか?タイミング悪すぎた?
いやでも、一応付き合ってるし、学校からは大分離れたし…。

「やっぱ、今のなしで!気にしないでくださ…キャプテン?」

軽くパニックに陥ってるオレの手を、すっとキャプテンは握ってくれた。

「もう、学校の外なんだからキャプテンじゃなくてもいいだろう」
「え、あ、じゃあ、先、輩?」
「名前で呼んでくれないのか」

な、名前!?この人の名前ってなんだっけ?

「あー、えっと、た、たくと…さん?」

まるで確認するかのように語尾に疑問符が付いた。
さっきから挙動不審なオレをキャプテンは困ったように笑いながらみている。

「そこは普通名字じゃないのか」

指摘されて、血の気が引いた。無意識だったけど、いきなり下の名前で呼ぶのはさすがに図々しかったかもしれない。

「え?あ、すみません!!」
「あ、別に嫌ってわけじゃないんだ。ちょっとびっくりしただけで」

不快感を感じさせてしまったのかと慌てたが、そうではないらしく、思わずほっと胸をなでおろした。

「じゃあ、拓人さん、でいいですか」
「二人きりの時だけな」

立てた人差し指をそっと唇に寄せて、しーっと囁いた。そんな子供らしい仕草に、見る見るうちに動悸が速まっていくのがわかった。

「は、はい!」



ようやく動悸が落ち着いてきた頃、思考も徐々に冷静なものへと戻ってきた。
とは言っても拓人さんと手を繋いでるんだから普段と比べればずっと緊張はしてるけど。

「拓人さん、指長くないですか?」
「そうか?」
「えぇ。ほら」

指の付け根から手を合わせてみると少しだけ拓人さんの指が飛び出ていた。
オレのが手はでかいのにも関わらず、神童のが指が長いってことは一般的に見たらかなり長い方なのかもしれない。

この指がピアノを弾いたら、それはそれは美しい音が奏でられるだろうと、実際に見たこともないくせに、自然とその情景が思い浮かんだ。

「ホントだ。でも剣城は手が大きいな」

物思いに耽っているのオレをよそに、拓人さんは今度は手首から手を合わせた。

「身体がでかいですからね」

確かめるように、繊細な指がペタペタと触れてきてなんとなく落ち着かない。

「オレのが年上なのに…」

腑に落ちないという顔をしたので、思わずその手を力強く握ってしまった。

「拓人さんはそのままでいいです!」
「なんでだよ?オレだって」
「そうじゃないと、オレが格好付かないじゃないですか!拓人さん一個上だし、オレ全然頼りねーし!だから、せめて身長くらい…」

そこまで言ったところで、ようやく拓人さんがぽかんとしてるのに気付いた。
それと同時にみるみるうちに自分の顔に熱が集まっていく。

だせぇ…。
さっきから格好悪いとこばっか。余裕がないのバレバレじゃんか。
拓人さん呆れてるだろうな…。

しゅん、とらしくもなく項垂れていると、拓人さんが笑ったのがわかった。
思わず顔を上げると、口元に手を当てて微笑んでいる拓人さん。

「ふふ、そうだな」

馬鹿にしてるわけではないんだろうけど、余裕のあるその笑みはなんとなく釈然としない。

「いつか、そんな余裕なくなるほど、成長してみせますからね!!」

ムキになって断言してしまってる時点で、自分が余裕をないことを晒してるようなもんだが。


「楽しみにしてる」

そうやって、拓人さんはやっぱり微笑んだ。


絶対、認められてやる。
んで、一日でも早く頼られる立場になってやる。



握った手を離さないように、ぎゅっと力を込めた。



















剣城がリードしてるようで、やっぱり神童のが落ち着いてる感じ
でも、神童も実は結構剣城のことが好きだったりするのかもしれません
意外に積極的な神童とかも可愛いと思います

神童は金持ちがやるような楽器は一通りできる気がする


タイトルですが、背伸びするのは剣城ですね
精神的な意味で背伸びしてでも神童に追いつきたいっていう男心ですよ



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