The kiss robber | ナノ












帰りのHRが終わったので足早に教室を後にする。目的地はもちろん部室。

新入生の入部テストが終わってひと段落かと思えばそういうわけでもない。むしろ問題は山積みである。
第一、オレは新入生二人が入部することも、もちろんフィフスセクターの遣いが入部することも納得はしていない。
だけど、理事長の命令には逆らえないし、久遠監督もしかり。

キャプテンと言っても今の雷門にとっては名ばかりなのだ。



名ばかりでもキャプテンということで特別に所持を許された鍵を部室のドアに差し込もうとする。が、違和感を感じて手を止めた。
ドアノブに手をかけてグイッと捻ると抵抗なく開く扉。

部室の鍵は複数ある。監督や管理者が持つほかに生徒用にもひとつあり、職員室で正式な手続きさえすれば誰にでも渡してくれるので部室が開いてることに何ら不思議はなかった。
だけど、大抵は自分が一番最初に来るのでこういうことは珍しい。

「…誰かいるのか?」

部室に足を踏み入れて中を見渡す人の気配はしないし呼びかけに対する返事もない。


不思議に思いつつ定位置に荷物を置こうとすると、椅子から通路に向かって脚が伸びていることに気付いた。

興味を惹かれてその椅子に背凭れから覗き込むように脚の主を見る。

そこには数人掛けの椅子に寝そべり呑気に寝ているフィフスセクターの遣いこと、剣城がいた。

「…なんでこんなところに?」

机に鍵が置いてあることからどっからか鍵を手に入れたようだが、それでもこいつがここにいることは釈然としない。
大方授業のサボり場として利用したのかもしれない。
神聖なるサッカー部の部室をサボりの場として利用するなどまったくもって失礼な話である。


「…案外寝顔は子供っぽいんだな」

第一印象があれなのでいいイメージが全くないが、それでも口が半開きなその寝顔には幾分かあどけなさが残っていた。
半月ほど前までは小学生だったのだから、それも当然なのかもしれない。
だが、一般的に想像する小学生とこいつのランドセル姿はどうも結びつかなかなくて思わず笑みがこぼれそうになった。

と、絆されたけたところで我に返った。
こいつは敵である。情けは無用だ。

「起きろ!寝るならほかのところへ行け!」

背凭れから身を乗り出すようにして、乱暴に剣城の肩を揺する。

「…ん…キャプテン…?」

うっすらと目が開いておぼろげな瞳がオレを捉えたのがわかった。
やっと起きた、とほっとしたのも束の間。寝起きとは想像できない速さで伸びてきた腕に胸元を掴まれてグイッと引き寄せられた。

「うわっ!?んっ!?」

状況に気付いた時には目の前に剣城の顔。唇には生暖かい感触。
寝起き特有の気怠そうな瞳と視線が合った。

「ぎゃあぎゃあうるさいですよ、キャプテン」
「なっ!?」
「オヤスミナサイ、キャプテン」

至近距離でそう言って再び剣城は目を閉じた。

解放されたオレは信じられないという顔でそいつの顔を見る。

「っふざけんな!!起きろ、この不良!!」
「…すぅ…」
「寝るな!馬鹿!こらっ!!」





その後も耳元で怒鳴りつづけたが、頑として剣城は目を覚まさなかった。

反応がなくて我を取り戻してきたオレはとりあえず、制服の袖で唇を思いっきり拭う。
そんなことをしたところでキスをしたという事実が消せるわけではないがそうせずにはいられないかった。

「ファーストキスだったのに…」

たかがキスひとつで女々しいと思われそうだが、ファーストキスにぐらい特別な想いを持っていてもいいじゃないか。
霧野と遊びと称されてせがまれた時でさえ断ったというのに。

小憎たらしい剣城を睨む視界がじわりと潤んだ。が、涙は流さない。こんな奴のせいで泣いてたまるものか。

「…へぇ」

いつの間にか目を覚ました剣城が面白そうな顔でこちらを見ていた。

「!!」
「ファーストキスだったんですか?キャプテン」
「お前!?起きてたのか!?」
「耳元であんな怒鳴られたら寝れるわけないでしょう」
「くっ」

確かにそうである。
よりによってこいつに聞かれるとは何たる失態。

「キャプテン、モテそうなのに意外ですね。顔キレーだし、金持ちだし、サッカー部のキャプテンだし」

明らかに馬鹿にした態度がいちいち癇に障る。

「放っておいてくれ」
「褒めてるんですけどね。まぁ、そんなことより…」

オレが悔しがってるのなんてお構いなしに剣城は手を伸ばしてきた。先に起こることが容易に想像できて、やばい、と思ったが時すでに遅し。

「うわっ!?ふっ、ん…」

先ほどと全く同じ流れで唇を奪われた。オレは馬鹿か。一度だけではなく二度も男、しかも年下に奪われるなんて。

「安心してください。オレが責任とってあげますから」
「なっ!?大きなお世話だ!出てけ!!」

にっこりとわざとらしく微笑んだそいつに涙目で殴り掛かった。



















京拓というより京→拓?
剣城が神童に恋愛感情持ってるかも怪しいですね
とりあえず興味は持ってる感じです

このくらいの明るくて勢いのあるネタのが書きやすいですね

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -