結局は愛しているから


「最近友達が彼氏と別れたんだって」
「新たな恋のチャンスじゃん、良かったね」
「いやいや、良かったねって……まあ、今回は確かに良かったね案件だったかもしれないけど」

へらへらと軽薄な笑みを浮かべる彼の手元では黒い水面に投入された複数の角砂糖によって飛沫が上がる。とどめにと流し込まれたミルクの作り出すマーブル模様を眺めていると胸焼けがしそうだ。

「なんか色々と問題のある男らしくてさ」

その友達から彼氏と別れたとの話を聞いたのは昨日のことだ。呼び出された先の喫茶店で彼女は今までで溜まりに溜まったものを全て吐き出さんとする勢いでその元彼の愚痴を語り出した。今までにもよく聞かされていたが、それはほんの一部だったようで次から次へと彼女の話は尽きない。

「金にだらしない、人の話を聞かない、常に自分優先で我儘。趣味も食の好みも合わないとかその他諸々」

ふーんと興味が無い様子を隠しもせず、彼は甘さしか感じないであろうコーヒーに口をつける。

「まあ大袈裟に言い過ぎてるところもあるんだろうど、話を聞きながら私もそんな男ないわー、別れるしかないって思ってたんだよね」

そんな彼の動作を真似るように私もまだ少し湯気を立てる黒いコーヒーを口に含んだ。

「でもその話を聞いて考えてたら思ったんだ。あれ、私の彼氏ももしかして似たようなものじゃない? って」
「へえ……なんで?」

ずずっと立てられていた音がぴたりと止む。彼は足を組み直し、その意識と視線がようやく私の方へ向けられた。

「だってなんでも勝手に決めちゃってこっちなんてお構い無しに私を振り回すし、我儘で自分の思い通りにいかないとすぐ拗ねるから大きい子供みたいだし」
「それに食べ物の好みも微妙にずれてるところもあるんだよね。甘いものは好きだけど、流石に砂糖ぼちゃぼちゃにミルクどばどばはどうかと思う」
「改めて思うとなんでこんなのと付き合ってんだろって考えちゃって」

「それはさあ、その男が大好きで仕方ないからでしょ」

「そう、結局はそうみたい」

だって好きだから。理由を考えてみたけれど答えは結局そこに行き着いてしまった。どんなに振り回されてもどんなに我儘を言われても、好きだから受け入れてしまうし、許してしまう。私にはこの人しかいないって。いやあ、恋って怖いね。でもそれだけじゃない。

「それに相手も私のことが大好きで仕方ないってことも知ってるからさ」
「……ふーん」

ニッと歯を見せてみたけれど思いの外彼の反応は鈍く、そのまま私から視線が外れるどころか顔を背けられてしまう。でも知ってる、彼がこういう反応をする時がどういう時か。

「もしかして照れてる? 残念だねえ、自分の方がカウンターくらっちゃって」
「調子乗んな」

その表情を見てやろうと体を折り曲げて下から覗き込もうとしたが、べしっと手で顔を押さえ付けられてしまった。

「ほら、やっぱり照れてる」
「煩い」

――自分勝手に私のことを振り回す。彼は少し乱暴な動きで私を引き寄せると噛み付くように私の唇を塞ぐ。甘過ぎるコーヒーは苦手だけどその後に彼とする甘い味のキスは嫌いじゃないってこと、彼は気付いているだろうか。



2021.04.26


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